エスメラルダの願った「いつか」をフィーバスは「今」実践していた!

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「フィナーレ(Finale)」の英語歌詞を見てみると、エスメラルダの思い描いてきた「いつか」を、フィーバスが「今」実現する瞬間を目の当たりに出来るのです。

劇団四季版では訳されていないこの歌詞、どんなことが書かれているのでしょうか?

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エスメラルダとフィーバスで「いつか」に違いがある

 

まず本題に入る前に、避けては通れない歌詞があります。

Someday(いつか)” では、エスメラルダの理想とする将来が描かれていますが、エスメラルダは “someday” と、フィーバスは “one day” と歌っています。この単語の使い分けというのが非常に重要で、今回の内容をご理解頂く上で欠かせない情報です。

その違いを知っているよという方も、まだ知らないという方も…是非一度次の記事をご覧ください。

 

劇団四季版と英語版の違い

 

さて、それでは本題に入りましょう。

先程の記事で、残る者は “one day” と…去る者は” someday” と…歌っていることが分かりましたね。どちらも日本語にしてしまえば「いつか」ですが、one dayは「現実味のあるいつか」でsomedayは「漠然としたいつか」だということです。

この点を踏まえて「フィナーレ(Finale)」の歌詞を見てみましょう。

 

劇団四季版の歌詞

 

エスメラルダを助けたカジモドを追って、扉を破ってでも捕えようとするフロロー。そんな時、フィーバスは “Someday(いつか)” のメロディーにのせてこう歌い上げます。

 

パリの人々よ
そんなことを許すのか
もう耐えるのはやめよう
立ち上がれ
正義のために

―劇団四季ミュージカル 『ノートルダムの鐘』 より 「フィナーレ」(訳詞:高橋知伽江)

 

盛り上がりのシーンですよね。フィーバスが民衆たちと一丸となって立ち向かっている様子が歌詞からも伺えます。しかし、私は少し悲しいのです…最後の部分が「正義のために 立ち上がれ」と表現されていることに。

もちろん、正義のために立ち上がること自体はこのシーンと一致していますし、間違ってはいません。しかし、英語版ではそんな風には歌っていないのです。もっともっと奥が深く、心に沁みる内容になっているのです…

 

英語版の歌詞

 

英語歌詞ではこう歌っています。

 

Hear me, people of Paris
How much oppression will you allow

Someday your patience will finally break
Why not make someday come right now

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Finale” (作詞:Stephen Schwartz)

 

最初の2行はほぼ劇団四季版と同じで、パリの民衆に向けて「奴らの抑圧をいつまで許すのか!?」と問いかけています。

重要なのは残りの2行。赤字で示した通り、2箇所に “someday” という単語が出てきますよね。ここに注目しましょう。

1つ目の “someday” は、単純に「いつか」という意味で使われています。patienceは「忍耐」という意味ですから、ここは「いずれ(いつか)みんなの忍耐は爆発する」というニュアンスのことが歌われています。抑制され続け、我慢し続ければ、いつか(someday)忍耐できなくなる日が来る…ということですね。

では後半の “someday” の意味は何でしょうか?

 

 

フィーバスはエスメラルダの意志を継いだ

フレーズの構造を知ろう

 

さて、それでは一番重要なフレーズの詳細を見ていきましょう。 “Why not make someday come right now” の部分です。

まず、 “someday” の説明をする前にこのフレーズの構造について説明しますね。

why not” は相手に対する呼びかけのようなもので「~するのはどうだ?」という意味になります。また、 “make” には「~させる」という意味があります。

right now” は「ただちに、今すぐに」という意味ですから、 “come right now!” なんて叫ばれたら「今すぐ来い!」と少し怒られている感じですね。では、ここ歌詞で歌われている “come right now” はそういう意味なのでしょうか?

いえ、そうではありません。

先程構造で説明をした通り、 “why not” と “make” があることからここは「(someday come right now)させるのはどうだ?」という意味になります。更に言えば、パリの民衆に訴えかけているシーンなので、ニュアンス的には「(someday come right now)させないか?」の方が近いでしょう。

 

「いつか」が「今」に変わった瞬間

 

それでは “someday” について説明しましょう。

冒頭でも説明した通り、 “Someday(いつか)” の歌詞内で、残る者(フィーバス)は “one day” と…去る者(エスメラルダ)は “someday” と歌っていました。one dayは「現実味のあるいつか」でsomedayは「漠然としたいつか」でしたね。

エスメラルダは、人種差別が無く、貧困のない、輝かしい未来をずっと思い描いてきた女性です。しかし、そして火あぶりになると決まってから、自分が死んでしまったとしても、その願いが「いつか(someday)」現実になれば…と歌っています。

それを受けてフィーバスはその「いつか」を現実的な意味で “one day” と歌っているのですが、エスメラルダの言う「いつか」を今実現しようと歌っているのが今回紹介しているフレーズなのです!

ですから、 “Why not make someday come right now” の “someday” は単に「いつか」と解釈するのではなく、エスメラルダが夢見ていた「いつか」と解釈する必要があるのです。そうと分かれば、このフレーズの意味が自ずと分かってくるのではないでしょうか?

そうです。

ここは直訳すると「その “いつか” を、ただちに来させようではないか」となります。

ずーっと先だと思っていた “someday” という漠然としていたその日を、right now(今)という瞬間に引っ張ってくるイメージですね。つまり、いつまでも “someday” を遠い未来にしておかないということです。

よってここは「その “いつか” を、今まさに実現させようではないか!」といった意味合いになります。

…これはもう、愛です。

エスメラルダのために全てを捨てた男の愛と、現状を突破しようとする覚悟です!そして、フィーバスを先頭に共に闘うジプシーたち。これこそ、エスメラルダが目にしたかった時代の「夜明け」ではないでしょうか?

 

違いを知って観劇を…

 

長文お読み頂き有難うございました。劇団四季版と英語版の違い、分かって頂けたでしょうか?

『ノートルダムの鐘』を通して歌われきた、この作品のテーマとも言える「人種差別や平等」を “someday(いつか)” という単語を使って表現されてきました。

そんな中、今回ご紹介した英語版「フィナーレ(Finale)」では、フィーバスが「いつか」を「今」にした瞬間を、英語版では目の当たりに出来るのです!言いかえれば、 “Someday(いつか)” で歌われていた通り、将来を “one day” にしたってことなのです。これって、とても感動的なことですよね。

こういった細かい情報を知っているかいないかで、観劇後に残る作品の印象はより重くなるはずです。是非、観劇の際は押さえてくださいね。

 

フィナーレ(Finale)」の、他の記事はこちらから。

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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