解読!「神よ 弱き者を救いたまえ」冒頭のラテン語の意味

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」の英語歌詞を見てみると、冒頭のコーラスがラテン語で始まり、意味を理解することが出来ません。

しかし、調べてみると教会で歌われる合唱の1つだということが分かりました!早速その意味を見ていきましょう。

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ラテン語パートを解読

 

この曲、いい曲ですよね。

トプシー・ターヴィーの騒動後、静まり返ったノートルダム大聖堂の中で、エスメラルダがひとり歌います。

まるで天使達に温かく見守られるようなその雰囲気は、冒頭のラテン語が強く影響しているようにも感じます。

そんなラテン語を理解するべく、その意味について調べてみることにしました。まずは、ラテン語パートを見てみましょう。こういう歌詞になっています。

 

Salve regina, Mater misericordiae
Vita, dulcedo, et spes nostra, salve
Ad te suspiramus gementes et flentes
In hac lacrimarum valle …

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “God Help the Outcasts” (作詞:Stephen Schwartz)

 

ふーむ…見当もつきませんね(笑)。

 

「サルヴェ・レジーナ」という聖歌だった!?

 

見当もつかない時は、半ばやけっぱちで調べてみます(笑)。

この歌詞の先頭にある “Salve regina” で検索したところ、wikipediaの記事「サルヴェ・レジーナ」に行きつきました!

wikipediaを読んでみると、どうやらSalve regina(サルヴェ・レジーナ)とは、教会で歌われる歌の1つのようなんです。wikipediaでは次のように説明されています。

 

サルヴェ・レジナ(ラテン語: Salve regina)は、キリスト教聖歌のアンティフォナ。

西方教会(カトリック教会)の聖務日課の「終課」で歌われる、4つの聖母マリアのためのアンティフォナの内の一つ。

プロテスタントや、東方教会(正教会・東方諸教会)においては用いられない。

サルヴェ・レジーナ(wikipedia)

 

馴染みない言葉がずらっと並んでいますが、この曲の冒頭で歌われているのは「サルヴェ・レジーナ」というもので、カトリック教会の聖務日課で歌われる合唱の1つということになります。

※各用語の説明は次をご覧くださいね。

 

  • アンティフォナ(antiphona) … キリスト教聖歌の隊形の1つで、合唱を2つに分けて交互に歌う。(wikipedia「アンティフォナ」より)
  • 聖務日課(Liturgia horarum) … カトリック教会で用いられる祈祷書(wikipedia「聖務日課」より)
  • 終課(Completorium) … 時を定めて行われる奉神礼である昼夜奉事(ちゅうやほうじ)の全てを指す「時課」の内、1日の最後に行われる聖務日課のこと。

 

 

「サルヴェ・レジーナ」の歌詞と音楽

 

日課の中で歌う合唱の1つだと分かった「サルヴェ・レジーナ」ですが、それがどんな曲なのか、歌詞を見ながら音楽を聴いてみましょう。

(ちなみにこれは実際にパリのノートルダム大聖堂で歌われている風景のようですよ。)

 

※引用の色付きは、あきかんによる。

 

Salve regina, mater misericordiae:
vita, dulcedo, et spes nostra, salve.
Ad te clamamus, exules, filii Hevae.
Ad te suspiramus, gementes et flentes,
in hac lacrimarum valle.

Eia ergo, advocata nostra,
illos tuos misericordes oculos ad nos converte.
Et Jesum, benedictum fructum ventris tui.
nobis post hoc exsilium ostende.
O clemens: O pia:
O dulcis virgo Maria.

サルヴェ・レジーナ(wikipedia)

 

全部で11行あるこの歌ですが、よく見てみると「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」で歌われているのは、この一部だということが分かります。

色付きにしている部分が「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」の冒頭の歌詞と全く同じですよね。これは発見です!では、一体どういう意味なのでしょうか?

 

「サルヴェ・レジーナ」を日本語訳するとどうなるか

 

神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」冒頭のラテン語は、「サルヴェ・レジーナ」の一部だということが分かりました。

ではどういう意味なのでしょうか?

wikipediaでは1行1訳になっていなかったので、分かりやすい対訳がなされている『グレゴリオ聖歌「サルヴェ・レジナ Salve Regina(元后あわれみの母)』で1行ずつ見ていくことにします。(引用の色付きは、あきかんによる。)

 

元后あわれみの母
われらのいのち、喜び、希望。

旅路からあなたに叫ぶエバの子。
嘆きながら泣きながらも涙の谷にあなたを慕う。
われらのために執り成す方。
あわれみの目をわれらに注ぎ、
とうといあなたの子イエスを
旅路の果てに示してください。

おお、いつくしみ、
恵みあふれる
喜びのおとめマリア。

グレゴリオ聖歌「サルヴェ・レジナ Salve Regina(元后あわれみの母)

 

赤色部分が「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」に一致する行になります。

 

ラテン語パートを日本語で解釈すると…?

 

いかがですか?ここまで来たら、もう内容は分かったも同然ですね。

最後に「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」のラテン語と並べた状態で、日本語訳を見てみましょう。

 

  • Salve regina, Mater misericordiae … 元后あわれみの母
  • Vita, dulcedo, et spes nostra, salve … われらのいのち、喜び、希望。
  • Ad te suspiramus gementes et flentes … 嘆きながら泣きながらも涙の谷にあなたを慕う。
  • In hac lacrimarum valle … われらのために執り成す方。

 

なるほど!

「Salve regina(サルヴェ・レジーナ)」の説明文にもあった通りで、歌詞を読んでみても、この部分はマリア様に捧げる合唱だということが分かりましたね。

「元后」という用語についての分かりやすい説明はyahoo知恵袋の記事をご覧いただくと良いですが、キリスト教上で使用される場合はでは「主であるキリストの母」の意味が含まれるようですので、辞書通りの「女王、女帝」とは少しニュアンスが異なるようです:『マリア様のことを「げんこう哀れみの母」などと申しますが…』(yahoo知恵袋)

 

1つだけ気になること

 

ここまで調べてみてひとつ気になったのが、「終課」というのが「就寝時の祈祷」であるということです。

ミュージカルにおけるこのシーンは夜でもないですから、このシーンでこの合唱が採用されたのは、時間帯よりも歌詞の意味を重んじたからかもしれません。

何か追加で分かることがありましたら、このページで情報更新をさせて頂きますね。またキリスト教にお詳しい方がいらっしゃいましたら、是非コメントよりご連絡下さい。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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