「オン・マイ・オウン」で歌われる、エポニーヌにとっての現実とは

帝劇ミュージカル『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』より“On My Own(オン・マイ・オウン)”の英語歌詞を見てみると、エポニーヌの孤独が歌われていることが分かります。

かなり忠実に訳された帝国劇場版ですが、微妙に異なるところや描き切れていない部分を詳しく説明していきます。今回は後半のパートです。

【ブロードウェイミュージカル“Les Misérables”/“On My Own”/作詞:Herbert Kretzme * 東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル』/「オン・マイ・オウン」/訳詞:岩谷時子】

エポニーヌにとっての「現実」

今回はここのパートを見ていきましょう。

 

And I know
It’s only in my mind,
That I’m talking to myself
And not to him.
And although I know that he is blind,
Still I say,
There’s a way for us.
―ブロードウェイミュージカル “Les Misérables” より “On My Own”(作詞:Herbert Kretzmer)

 

文章ごとに整理するとこうなっています。

 

  • And I know it’s only in my mind
  • That I’m talking to myself and not to him
  • And although I know that he is blind, still I say, there’s a way for us

 

頭の中だけの出来事

まず、“it’s only in my mind”の部分の“it”が何を指しているのかというと、エポニーヌがこれまでに歌ってきたことです。マリウスが横にいて一緒に歩くこと、銀のように輝く川や、星明かりな綺麗な夜の景色…これら全てです。

日本語では「知ってる/夢見るだけ」と訳されていますが、厳密には「知ってる、これは私の頭の中だけの出来事」となります。結果的には夢を見ていることと意味合いは変わりませんが、「頭の中だけの出来事」となると現実には起こりえない様子がより際立ち、切なさが倍増しますよね。

 

話しかける相手は自分

“That I’m talking to myself not to him”は日本語で「話し相手は自分だよ」と訳されていますが、英語ではもう少し情報が多いです。

“I’m talking to myself”とは「私は自分自身に話しかけている」となり、その後に続く“not to him”は「彼ではなく」ですから、ここの意味は「私は、彼ではなく自分自身に話しかけている」となります。

「彼ではなく」と歌っているところ、胸が痛みますよね。

 

それでも信じ続ける

“And although I know that he is blind, still I say, there’s a way for us”のうちの“he is blind”とは「彼は盲目」です。“blind”には「目が見えない」という意味があります。“although”は「~だったとしても」ですから、この文章の前半は「そして彼が盲目だと知っていたとしても」です。「盲目」というのはつまり、エポニーヌは眼中にないということですね…あぁ、辛い。

そして後半、“there’s a way for us”は日本語にもなっている通り、「道はある」です。もっと厳密に言うと「私たちに、道はある」ですね。

しかし、このフレーズをより深くするポイントはその前にある3つの単語“still I say”。これは「それでも私は言う」です。ですから、ここは「そして彼が盲目だと知っていても、それでも私は言う。私たちに道はある…と」となります。

現実をここまで突き付けられても、そう信じることしかできないエポニーヌ。なんとけなげで、一途で、儚く、強い恋なのでしょうか。

 

 

空想するだけの人生

マリウスと共にいる時間は、現実ではない。空想、そして夢の中の世界だけということを歌い、最後はこう自分に歌います。

 

I love him,
But every day I’m learning,
All my life,
I’ve only been pretending!
Without me,
His world will go on turning,
The world is full of happiness that I have never known!
―ブロードウェイミュージカル “Les Misérables” より “On My Own”(作詞:Herbert Kretzmer)

 

ここも文章を整理してみましょう。

 

  • I love him, but every day I’m learning
  • All my life, I’ve only been pretending!
  • Without me, His world will go on turning,
  • The world is full of happiness that I have never known!

 

日々学ぶこと

日本語で「愛しても/思い知らされる」と訳されているのは“I love him, but every day I’m learning”の部分です。ここは「愛している、でも私は毎日学んでいる」となっています。学んでいることはもちろん辛いことなので、「思い知らされる」と訳されているんですね。

ではどんなことを思い知らされるのかというと、それは“All my life, I’ve only been pretending!”で歌われています。ここは「一生/夢見るだけさ」と訳されていますが、ここは「私の人生ずっと、私はふりをしていただけだと!」となります。現実には起こっていないこと、起こりえないことを日々空想していただけ、そうなっているふりをしていただけ…つまり自分にウソをついていたということです。

もう、涙がボロボロとこぼれてきてしまいますよね。

 

彼が幸せなのは

そして日本語で「あの人/あたしをいらない」と訳されているのは“Without me, His world will go on turning”のフレーズ。実はここ、日本語とはニュアンスが異なるんですよね。“without me”とは「私なしで」という意味です。ここまでの歌詞で“without him(彼なしで)”と歌っていたエポニーヌですが、このフレーズで初めて“without me”と歌います。

“without him”のあるフレーズでは、次のようなことを歌っていました。

 

  • without him, I feel his arms around me, and when I lose my way I close my eyes and he has found me…彼なしで、彼の腕が私を包むのを感じ、私が道に迷って目を閉じれば彼は私を見つけてくれる(日本語訳:いない/人に抱かれて)
  • Without him the world around me changes…朝になって彼がいなくなってしまえば、私を取り巻く世界は変わってしまう(日本語訳:あの人/いない世界は)

 

彼がいなくても空想の中で腕で包まれるのを感じることもできれば、彼がいなければ世界は変わってしまうということを歌っていましたね。これはエポニーヌにとって、彼がどういう存在なのか…ということが表現されていたと分かります。

では“without me”はどうなのかというと、彼にとってエポニーヌがどのような存在なのかを歌われています。“world will go on turning”というのは「世界が上手く動く」というニュアンスで、ここに“his(彼の)”が付きますから、「私がいなければ、彼の世界は上手く回る」という意味なんですね。

それに続く“the world(その世界)”とは「彼の世界(his world)」のことを指しており、これは“full of happiness(幸せに満ち溢れている)”と言っていますから、その幸せは“that I have never known!(私が一度も経験したことのないもの)”となります。

もう…(号泣)。

そして、何度も“I love him”を繰り返した後の“only on my own”は本当に独りぼっちだという空気感は、手に取るように分かるはずです。

エポニーヌの叶わぬ想い、そして孤独を分かって頂けたでしょうか?

 

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