エポニーヌの歌う「オン・マイ・オウン」。この歌詞は、矛盾が辛い!


東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル(Les Misérabless)』より「オン・マイ・オウン(On My Own)」の英語歌詞を見てみると、エポニーヌの孤独が歌われていることが分かります。
かなり忠実に訳された日本語訳ですが、微妙に異なるところや描き切れていない部分を詳しく説明していきます。
「オン・マイ・オウン(On My Own)」は、エポニーヌの現実と理想を上手く織り交ぜた、素晴らしい歌詞です。
日本語訳も素晴らしいのですが、英語歌詞はより具体的な表現になっているので、エポニーヌの心の奥に触れることができますよ。
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Contents:
歌詞の比較
日本語
まず、日本語歌詞はこうなっています。
ひとりでも二人だわ
いない人に抱かれて
ひとり朝まで歩く
道に迷えばみつけてくれるわ―東宝ミュージカル 『レ・ミゼラブル』 より 「オン・マイ・オウン」(訳詞:岩谷時子)
注目すべきは、この対比です。
・ひとり … でも二人
・いない人 … 抱かれる
・ひとりで歩く … みつけてくれる
英語
一方の英語はどうなっているでしょうか?
On my own,
Pretending he’s beside me.
All alone,
I walk with him till morning.
Without him,
I feel his arms around me,
And when I lose my way I close my eyes
And he has found me.―ブロードウェイミュージカル “Les Misérabless” より “On My Own” (作詞:Herbert Kretzmer)
英語歌詞の場合は、2行ずつ見ていくと分かりやすいです。
歌われていることは日本語とほぼ同じですが、表現がより具体的になっています。
詳しく見ていきましょう。
歌詞の構成に注目
英語歌詞も日本語歌詞も、構成は同じです。
対比されている部分は3つの内容に分けられます。
・On my own / Pretending he’s beside me.
・All alone / I walk with him till morning.
・without him / I feel his arms around me
まず、色付きの部分はエポニーヌが「独り」であることを示しています。
・on my own … 私独り
・all alone … 完全に独り
・without him … 彼なしで(つまり「独り」だということ)
※ “on my own” という表現については、こちらの記事で詳しく説明しているのでご覧ください。
しかし、それらに続いて歌われているのはいずれも「独りではない」ということです。
・(Pretending) he’s beside me … 彼が私のとなりにいる(と想像する)
・I walk with him till morning … 私は彼と夜まで歩く
・I feel his arms around me, and when I lose my way I close my eyes and he has found me … 彼の腕が私を包むのを感じ
矛盾が辛い
ここで気づいて頂きたいのは、英語も日本語もこのような構成になっているということです。
・「現実世界」と「非現実(空想)」の対比になっている。
・「現実世界」と「非現実(空想)」は一致しないため、矛盾が生じている。
この構成がエポニーヌの現状をより浮き彫りにしているんですね。まるで理想は叶わないのだと訴えているようです。
もう、これだけで泣けてきます。
「ひとりなのに二人」なのは矛盾していますし、「いない人に抱かれる」のも矛盾しています。
ちなみに最後のフレーズだけフレーズの構成が異なり「ひとり」という表現はありませんよね。
・and when I lose my way I close my eyes and he has found me … そして私が道に迷った時、目を閉じれば彼は私を見つけてくれる
しかし彼(マリウス)が私(エポニーヌ)を見つけてくれるのは、あくまでも「目を閉じた時」なのです。
つまり、エポニーヌがひとりの時なのです。
ぐうの音も出ないほどの素晴らしい歌詞であると同時に、ここだけで胸が張り裂けてしまいそうですね。
矛盾が織りなすエポニーヌの気持ち、お分かりいただけたでしょうか?
恋愛をして、失恋をしたら…この歌詞の奥深さを感じられるのではないでしょうか。
「オン・マイ・オウン(On My Own)」の、他の記事はこちらから。
