ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “That Would Be Enough” の英語歌詞を見てみると、エリザベスの妊娠したとき、それをはじめに伝えたのは夫のハミルトンではなかったと分かります。
エリザベスは誰に妊娠を伝え、何故直接ハミルトンには伝えなかったのでしょうか?
『スリル・ミー』の解説・考察本を執筆しました!
「レオポルドとローブ事件」はどのような事件だったのか?何故「終身刑+99年」という判決だったのか?そんな疑問を解消しながら、ミュージカル『スリル・ミー』の刺激に迫る解説・考察本。
実際の事件ととミュージカルを比較しながら「実話」、「ニーチェの哲学」、「裁判」の3つの視点から作品に切り込んだ1冊。
Kindle(電子書籍)、ペーパーバック(紙書籍)、いずれも Amazon で販売中。
Kindle Unlimitedを初めてご利用の方は、体験期間中に0円で読書可能!
歌詞のおさらい
今回はこの曲の序盤を見てみましょう。
ELIZA:
Look around, look around at how lucky we are
To be alive right now
Look around, look around…HAMILTON:
How long have you known?ELIZA:
A month or soHAMILTON:
Eliza, you should have told meELIZA:
I wrote to the General a month agoHAMILTON:
NoELIZA:
I begged him to send you homeHAMILTON:
You should have told meELIZA:
I’m not sorryELIZA:
I knew you’d fightHAMILTON:
Until the war was won. The war’s not Done.ELIZA:
But you deserve a chance to meet your son
Look around, look around at how lucky we are
To be alive right now.
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “That Would Be Enough” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
あー…この曲、大好きです。
「ハミルトン、エリザベスという素晴らしい女性と結ばれて良かったね」と、毎回心から思ってしまいます。そして、こういう女性になりたいな…という思いも。きっとこの曲が好きな女性の方は多いのではないでしょうか?
“look around” に注目
まず歌詞の内容を見ていく前に、注目して欲しいフレーズがあります。それが “look around” です。このフレーズ、どこかで聞いたことありませんか?
そうです、この曲よりも数曲前に歌われいる “The Schuyler Sisters” に出てきましたよね。
PEGGY: Daddy said to be home by sundown
ANGELICA:Daddy doesn’t need to know
PEGGY: Daddy said not to go downtown
ANGELICA:Like I said, you’re free to go
But—look around, look around
The revolution’s happening in New York
ELIZA & PEGGY: New York
COMPANY: Angelica
SISTERS & COMPANY: Work!PEGGY:It’s bad enough Daddy wants to go to war
ELIZA:People shouting in the square
PEGGY:It’s bad enough there’ll be violence on our shore
ANGELICA:New ideas in the air
ANGELICA & MALE ENSEMBLE:Look around, look around—
ELIZA:Angelica, remind me what we’re looking for
ALL MEN:She’s looking for me!
ANGELICA and (COMPANY):
Eliza, I’m looking for a mind at work (work, work)
I’m looking for a mind at work (work, work) [x2] Woa-oah
SISTERS:Woa-oah
SISTERS & COMPANY: Work!
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “The Schuyler Sisters” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
この歌詞の詳細は次の記事でご覧いただきたいのですが、これは革命が起こっていく興奮を歌った曲です。世の中が変わっていくというウキウキとした様子を、スカイラー3姉妹の視点で歌われているんですね。
革命が起きつつあるという状況の “The Schuyler Sisters” から、戦争なっていく過程がこの曲に至るまでに描かれていますが “That Would Be Enough” の場面も戦争中です。
ハミルトンは戦争に行っていました。しかし、ジョージ・ワシントンの指示で一時帰宅させられることになり、その時に初めてエリザベスが妊娠していることが分かります。
そこでエリザベスが歌うのが、冒頭の3行です。
- Look around, look around at how lucky we are
- To be alive right now
- Look around, look around…
“look around” は “The Schuyler Sisters” でも意味は同じで「(世の中を)見回してみて」ですが、 “how lucky we are/To be alive right now(私たちが今生きているということが、どんなに幸福なことか)” と歌われているところをみると、この戦争では多くの人が亡くなっているのだと想像できます。
“The Schuyler Sisters” で歌われていたウキウキとしたものとはまるで異なる状況だと分かりますが、だからこそあえてこのフレーズを使っているのでしょう。革命に向けて人々が興奮していた時代と、まさに今革命を勝ち取ろうとしている時代とを結びつけながら、戦争という現実を、より浮彫りにしているのだと私は受け取りました。
エリザベスが妊娠を伝えたのは?
この曲は直前の “Meet Me Inside” という曲の流れを受けています。
命を顧みずに戦うハミルトンはジョージ・ワシントンに “Go home(家へ帰れ)” と言われ、自分はもう用なしだと勘違いし、肩を落としながら一時帰宅します。そこで初めて妻エリザベスが妊娠したのだと知るんですね。それがこのパートです。
- HAMILTON:How long have you known?
- ELIZA:A month or so
エリザベスが妊娠を知ったのは1か月ほど前だということが、ハミルトンの問いかけに対する答えで分かります。しかし、エリザベスが最初に妊娠を伝えたのはハミルトンではありませんでした。
- HAMILTON:Eliza, you should have told me…イライザ、僕に連絡してくれれば
- ELIZA:I wrote to the General a month ago…私、将軍(ジョージ・ワシントン)に1か月前手紙を書いたの
- HAMILTON:No…そんな
- ELIZA:I begged him to send you home…あなたを家に送るよう嘆願したわ
- HAMILTON:You should have told me…僕に連絡するべきだったよ
- ELIZA:I’m not sorry……私、申し訳ないなんて思っていないわ
エリザベスは妊娠が分かった直後、ハミルトンの上司に当たるジョージ・ワシントンに手紙を書いたと言っています。ここで、ワシントンにあんなに厳しい言い方で “Go home” と言われた理由が分かるわけですが、自分に直接連絡してくれなかったことに対してがっかりし、苛立ってもいます。
そんな彼に対して、何故エリザベスは “I’m not sorry” と言っているのでしょうか?
今、生きているということ
ハミルトンではなくワシントンに伝えたこと、そして “I’m not sorry” と言った理由はここで分かります。
- ELIZA:I knew you’d fight until the war was won.…私、あなたが戦争が終わるまで戦い続けるだろうって分かっていたから
- HAMILTON:The war’s not Done.…戦争は終わっていないんだよ。
- ELIZA:
But you deserve a chance to meet your son…でもあなたには息子に会うチャンスがあるの
Look around, look around at how lucky we are
To be alive right now.…世の中を見回してみて、私たちが今生きているということがどれだけ幸福なことか
エリザベスはハミルトンの性格を熟知していますね。
彼はきっと子どもの顔を見ることよりも、世の中を変えるために戦場にい続けることを選ぶ…だからワシントンに手紙を書いて、強制的に家に戻してもらったのです。そうでなければ、戦場で死んで、息子に会えぬまま死んでしまう可能性も十分にありました。
戦場にいたがったということはハミルトンの “The war’s not Done” で分かりますから、エリザベスの予想は的中です。しかし彼の想いを上回るエリザベスの強い想いが “But you deserve a chance to meet your son” で歌われており、ハミルトンの気持ちに真正面からぶつかっている様子が描かれています。そして “look around” のフレーズが繰り返されることで、今自分たちが生き延びており、さらに息子まで設けることが出来たことは奇跡なのだ印象付けられています。
この曲はとても柔らかい印象ですが、歌われているのはハミルトンと生きていくというエリザベスの強い想いで、それは非常にたくましく1人の女性として共感でき尊敬するものばかりです。それは、この曲が進めば進むほど強く描かれており、エリザベスがどれだけハミルトンを大事に思っているかということが分かりますよ。
“That Would Be Enough” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。