ホリプロミュージカル『スリル・ミー(Thrill Me: The Leopold & Loeb Story)』より「契約書(Written Contract)」の英語歌詞を見てみると、ニーチェの「超人思想」について触れていることが分かります。
超人思想と、レオポルドとローブが契約書を交わす意味について解説します。
※ 基になっている事件については、次の記事をご覧ください。
※ 記事ではミュージカルにおける「私」を「レオポルド」、「彼」を「ローブ」と表記します。
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「超人」とは
『スリル・ミー』では、哲学者・ニーチェの「超人」が1つのキーワードになってきます。
実話においてはレオポルドがニーチェに傾倒していましたが、ミュージカルでは、ローブが「超人思想」の虜になっています。
ニーチェの「超人」
ニーチェの言う「超人」とはどのような存在だったのでしょうか?
シンプルに説明すると、次のような存在を指します。
- 誰かの価値観に従うのではなく、純粋に己の力への意志に従って、高みを望む人間のこと。
- 自分自身のための価値観を打ち立て、それに従って生きる人間。
- どんな困難にぶち当たっても、生きることから目を逸らさない
このように、自ら価値を創造し、生きることを否定せず、高みを目指しながら生きていく人間を、ニーチェは「超人」と呼んでいます。
レオポルドとローブが考える「超人」
しかし、レオポルドとローブの捉えた「超人」は、微妙に異なるものでした。
ニーチェが超人を「人類の理想」のようなかたちで説明したのに対し、青年2人はこの哲学を、自分を昇華するものとして捉えることがありませんでした。
「社会の上に立つ超人」という部分だけにとらわれ、超人の本質的な部分に目が向けられていなかったように感じます。
その様子は、このように歌われています。
We’re superior, we are supermen
Says my Nietzsche book chapters one through ten
And as supermen, we could not get caught
So don’t give last night a second thought
Let’s plan next time―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Written Contract”(作詞:Stephen Dolginoff)
意味はこうです。
- 僕らは優れているんだ、超人なんだ
- それをニーチェはこの本で語っている
- そして超人は捕まることがない
- だから昨日のことを、再考するな
- 今度は計画を練ろう
また、このように続きます。
‘Cause we’re both superior, I quote
The superman is above all of society
We’ll have Chicago by the throat
If you help me remember you’re my lookout, Babe―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Written Contract”(作詞:Stephen Dolginoff)
意味はこうです。
- 何故なら俺たちは両方とも優れている。引用すれば
- 「超人は社会の上に立つ」
- 俺たちはシカゴを思い通りにできる
- もし俺のことを手伝ってくれれば、なぁ俺の見張りのベーブよ
ここでローブは「超人」について、このように説明しています。
- 優れている自分たちは「超人」である
- 超人は「社会の上に立つ」
こんなふうに自らを超人と説明していたローブですが、かねてから夢見ていた「完全犯罪」を実行するには協力者が必要でした。
そこで、レオポルドと契約書を交わすことにします。
契約書を交わす意味
ローブは共犯者を求め、レオポルドはローブを求める…
そんな欲求を持っていた2人は、それぞれの求めるものを互いが満たすことを約束していました。
しかし、いくらレオポルドがローブの協力をしても、ローブに取り合わなかったことから、2人は契約書を交わすことにします。
2人が歌う契約書の内容は次の通りです。
‘I, Nathan Leopold
Hereby swear to aid and abet at Richard’s request
No matter what he wants I’ll give him my best.’―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Written Contract”(作詞:Stephen Dolginoff)
意味はこうです
- 私、ネイサン・レオポルドは、
- リチャード(ローブ)の要請に応じて幇助(犯行の手助けを)することをここに誓います。
- 彼が何を望んでも、私は彼にベストを尽くします。
このように歌うローブに対して、”But only as much as I get—(でも、僕が満たされた分だけね)”と返すレオポルドが印象的です。
続いて、このように文面が続きます。
‘In consideration of the above
I, Richard Loeb, swear to satisfy Babe, wherever it leads
Immediately following the above, I’ll give him whatever he needs.’―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Written Contract”(作詞:Stephen Dolginoff)
意味はこうです。
- 上記を踏まえて
- 私、リチャード・ローブは、ベイブ(レオポルド)を満足させることを誓います、それがどこに向かおうと
- レオポルドに必要なものはなんでも与えます
2人が契約書を交わす意味は「口約束」でないことにあります。
つまり、この書面で取り交わした内容は「絶対」だということです。
具体的には「レオポルドが犯罪行為に協力したら、ローブはレオポルドを性的欲求を満たす」ことですが、ミュージカルを最後まで観ると、この契約書が持つより深い意味を知ることになるでしょう。
なお、実話においても、こういった交換条件の上で犯罪は行われていました。
それを知ると、このシーンはより現実味を帯びてくるはずです。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。