『スリル・ミー』の”Everybody Wants Richard”で歌われる「私」の嫉妬

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

 

ホリプロミュージカル『スリル・ミー(Thrill Me: The Leopold & Loeb Story)』より「僕はわかってる(Everybody Wants Richard)」の英語歌詞を見てみると、レオポルドがいかにローブを特別視しているかが分かります。

レオポルドがローブをどのような存在と捉えているか、見ていきましょう。

 

※ 基になっている事件については、次の記事をご覧ください。

※ 記事ではミュージカルにおける「私」を「レオポルド」、「彼」を「ローブ」と表記します。

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レオポルドから見たローブ

 

ミュージカル『スリル・ミー』における、レオポルドの回想は、レオポルドとローブが久々に出会うとシーンから始まります。

台本にはこのように書かれています。

 

NATHAN:

But in the middle of our senior year he transferred to Michigan without telling me.(中略)But after graduation, he came back to Chicago…

―Stephen Dolginoff(2018)”Thrill Me: The Leopold & Loeb Story“(Createspace Independent Pub; Revised版、p.14)

 

意味はこうで、史実に照らし合わせると、2人が再開したのは、ローブがミシガン大学アナーバー校からシカゴに戻った時(1923年・秋)を指しています。

 

  • レオポルド:でも、4年生の途中で私に内緒でミシガンに転校したんです。(中略)でも、卒業後はシカゴに帰ってきた…。

 

さて、レオポルドは「僕はわかってる(Everybody Wants Richard)」の歌いだしで、”I thought we had something different.(僕達にはなにか特別なものがあると思っていた)“と話します。

この「特別な何か」とは「2人だけの特別な関係性」のことでしょう。

 

↓ リチャード・ローブ(左)、ネイサン・レオポルド(右)

Embed from Getty Images

 

僕はわかってる(Everybody Wants Richard)」では、自分以外の人とつるむローブに対するレオポルドの強い嫉妬と、自分がいかにローブにとって特別なのかが歌いあげられています。

「君特有の考え方を理解できる人はいるのか?」、「君と同等のレベルで議論を交わす相手はいるのか?」と迫るレオポルドですが、この歌詞は特に印象的です。

 

Yes, everybody wants Richard
But not the way that I do
Admit that you’ve missed me too

―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Everybody Wants Richard”(作詞:Stephen Dolginoff)

 

意味はこうです。

 

  • ああ、みんなリチャードのことが欲しいんだ
  • でも僕が欲しいようには欲してはいない
  • 僕のことが恋しかったって認めなよ

 

レオポルドがローブと一緒にいたい理由は、他の学友のように人気者とつるみたいからではありません。

言うなれば、ローブを骨の髄まで知っていて、ローブを骨の髄まで欲しているから…ということになるでしょう。

しかし、これに対してローブはこう返します。

 

[RICHARD] (spoken)
I’ve only missed the worship. But I guess I could change my plans and spend the evening with you.

―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Everybody Wants Richard”(作詞:Stephen Dolginoff)

 

意味はこうです。

 

  • 崇拝をなくして恋しかっただけだ。でも、予定を変更して今夜君と過ごしても良いだろう。

 

この辺りについて、史実を踏まえて解説します。

 

レオポルドから見たローブ(実話)

 

ローブは14歳でシカゴ大学に入学しています。

しかし、全ての学生がローブよりも年上だったことから、ローブは相手にされることがなかったそうです。

その後ミシガン大学に転校し、成績は振るわなかったものの、人気者になりました。もともと社交的な性格もプラスに働いたのでしょう。

しかしこの「人気者」というのが曲者で、ローブは悪目立ちすることで人気者になっていきました。

ローブはミシガン大学時代、このような生活を送っています。

 

  • ポーカーゲームを主催する
  • 授業中にアルコールを飲んだりするようになる
  • 哲学や政治について激しい討論を行う討論クラブ(Discussion Club)に所属する

 

このようなローブを見てレオポルドは、大いに落胆したことでしょう。

何故なら、ローブはレオポルドにとって唯一、同等に話の出来る「超人的」存在だったからです。

こういった史実を踏まえて歌われているのが、この歌詞ではないでしょうか?

 

You’ve played around with lots of losers
Who ended up as cheats and users
But who’s been on the sidelines waiting for you
If not me?

―ミュージカル“Thrill Me: The Leopold & Loeb Story”より “Everybody Wants Richard”(作詞:Stephen Dolginoff)

 

意味はこうです。

 

  • 君はたくさんの負け犬と遊んだ
  • 最終的にいかさまをしたりパシリになるような奴らと
  • でも脇で君を待っている人が他にいたか
  • 僕でなければ?

 

言い換えれば、レオポルドは「ローブは下等な人間と関わっている」と言いたいのでしょう。

しかし、それに対しローブは”I’ve only missed the worship. (崇拝をなくして恋しかっただけだ。)”としか返しません。

言い換えれば「レオポルドと会えなくて寂しかったことなどない。寂しかったのは崇拝がなかったことだけだ。」ということです。

これはこの曲の締め方として非常に強いインパクトを残すとともに、2人の関係性を明示しているものになります。

レオポルドには「自分を奴隷とみなす」特性がありました。そしてその特性はローブを前に拍車がかかります。

ニーチェに傾倒していたレオポルドは、自分と同じように知性にあふれるローブこそ「超人」だと捉え、自分にとっての「王(神)」と捉え始めます

それは、ある一種の崇拝と言っても良かったでしょう。

一方ローブは、レオポルドを対等で話の出来る相手と見ていたものの、いずれ完全犯罪の協力者になってもらう存在としか見ていなかったと言えます。

完全犯罪を犯すことで、犯罪者の中のトップになりたいという妄想を抱いていたローブがこの時点で求めていたものは「崇められる」ということに過ぎなかったのでしょう。

この2人の交わりそうで交わらない欲求が、次第に完全犯罪へと導いていきます。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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