『ブック・オブ・モルモン』を観る前に押さえる「モルモン教」とは?

 
こんにちは!

英語歌詞からミュージカルを読み解くブロガー、あきかん@performingart2)です。
 

ミュージカル『ブック・オブ・モルモン(The Book of Mormon)』に興味を持ってしまったあなたは、私と同じくパンドラの箱を開けてしまった方だと思います。

『ブック・オブ・モルモン』は、モルモン教という話題性の豊富な新宗教を題材とし、コメディを隠れ蓑に「宗教とは何か」という強いメッセージを直球で投げてくる作品です。

キャラクター性に富んだ登場人物中毒性の高いキャッチーな音楽、そして数々のアウトな表現というように、この作品を知らない方でも、ハマってしまう要素が随所に存在しています。

「モルモン」とあるだけあって、モルモン教について事前に知っていると、細部に散りばめられたコメディ要素を笑い飛ばすことができます

『ブック・オブ・モルモン』を楽しむためにも、モルモン教について詳しくみていきましょう。


 

ミュージカル『ブック・オブ・モルモン』とは

あらすじ

 

主人公は、優等生でマニュアル通りに布教活動を行う、モルモン教徒の青年プライス

ある日、プライスとは性格が真逆の劣等生カニングハムとペアを組まされ、布教先・ウガンダへ経つことになる。

現地ウガンダでは、エイズ、紛争、貧困がはびこり「神など信じるに値しない」という者ばかりだった。

今まで通用していたやり方が全く通用せず、布教活動が思い通りにいかずに落胆するプライス。

一方カニングハムは、おんぶにだっこさせてもらえる相方を失い、1人町へ出かけモルモン教の良さについて語り始める。

初めは耳を貸さぬものばかりだったが、ウガンダ人の少女・ナブルンギを筆頭に少しずつ話を聞く者が増えていく。

しかし、ここには1つだけ問題があった。

それは、カニングハムの語りには、モルモン書に書かれていない空想入ってしまっていることだった…。

 

モルモン教を批判するコメディなのか?

 

「モルモン教」と「コメディ」の掛け合わせと聞いた時、恐らくほとんどの方は「モルモン教を批判(バカに)したコメディ作品」と思うのではないでしょうか?

私はそうでした。

しかし、話の全体を理解すると、そうではないと分かるはずです。

特徴の多い新宗教「モルモン教」を題材に使うことで、こんなことを発信しているのだと理解しています。

 

  • 宗教とは何なのか?
  • マニュアルで人の心を動かすことはできるのか
  • 人間が必要としているものは何なのか

 

言い換えれば、題材となる宗教はモルモン教でなくも良いということです。

日本で置き換えるならば「創価学会」や「幸福の科学」を題材に、先のようなテーマを投げかける作品だと言えるでしょう。

 

観るまえに気を付けておきたいこと

 

この作品をジャンル分けするならば「ブラックコメディ」です。

ブラックユーモア、ブラックジョークに満ちているので、社会風刺的な作品が苦手な方にはオススメしません

そして、下ネタ要素が非常に豊富です。しかも、過激です(苦笑)。

モルモン教が性交渉に非常に厳しいことが関係しているために、このような表現が増えると言えますが、過激な下ネタ発言・表現が苦手な方にも、オススメしません

また、もしあなたがモルモン教徒だったとしたら、この作品を観ることで不快になる可能性は十分あります

いくらモルモン教を批難しているわけではない…とは言え、モルモン教の特徴を面白おかしく表現している訳ですから、熱心なモルモン教徒であればあるほど、不快に感じることでしょう。

こういったことを踏まえた上で、観劇するかどうか判断して頂けたらと思います。

モルモン教の特徴的な要素を織り交ぜて生まれた作品ですが、名だたるミュージカルに匹敵する素晴らしい音楽が生まれています

「これはキツすぎでは…?」と思う歌詞が山ほどありますが、それを中毒性に導いてしまうのが『ブック・オブ・モルモン』の凄さだと感じています。

 

 

モルモン教の解説

 

「モルモン教について無知だ」「モルモン教に対して偏見がある」という方は、この本を読むことをお勧めします。

著者は、モルモン教徒でありながら、聖書学、批判神学を学び、モルモニズムの研究者である沼野治郎さんです。

 

 

中立的な立場でモルモン教について解説しつつ、モルモン教が好奇な目で見られるようになった経緯も詳しく説明されているため、非常に勉強になった1冊です。

モルモン教を勉強したいと考えている方は、是非参考にしてくださいね。

 

モルモン教の正式名称

 

モルモン教の正式名称は「末日聖徒イエス・キリスト教会(The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)」と言います。

『ブック・オブ・モルモン』では、”Latter-day” という表現が何度も登場しますが、これがモルモン教を指していることを理解しておくと、物語が入ってきやすくなります。

では、何故「モルモン教」と呼ばれているか。それは、末日聖徒イエス・キリスト教会における聖典が「モルモン書」だからです。

この「モルモン書」の英語表記すると “The Book of Mormon” となり、これがミュージカルの題名になっているというわけです。

先ほど『ブック・オブ・モルモン』のテーマをお伝えしましたが、もっと掘り下げるとこういうことなんですね。

 

  • 宗教とは何なのか? → 聖典とは何なのか?
  • マニュアルで人の心を動かすことはできるのか → 聖典だけで人を動かすことはできるのか?
  • 人間が必要としているものは何なのか → 人間が必要としているものは聖典に書かれている内容なのか?

 

『ブック・オブ・モルモン』では、布教活動をする上でモルモン教にとって重要な「モルモン書」に焦点を当てており、「モルモン書」を軸に置きながら、物語が展開していくという点に面白さがあります。

なお、モルモン教とは通称のため、末日聖徒イエス・キリスト教会としては使用を推奨していませんが、ここでは分かりやすく「モルモン教」という表現に統一します。

 

知っておくべき人物3人

 

モルモン教を語る上で、押さえておきたい人物は3人います。

『ブック・オブ・モルモン』にも登場するので、簡単に押さえておきましょう。

 

  • モロナイ … ジョセフ・スミス・ジュニアに「モルモン書」のありかを伝えた神の使者
  • ジョセフ・スミス・ジュニア … 預言者、創始者。アメリカ合衆国にて末日聖徒イエス・キリスト教会を設立。
  • ブリカム・ヤング … 2代目の預言者。モルモン教の宗教都市ソルトレイクシティを設立

 

特にジョセフ・スミスという名前は繰り返し登場するので、少なくとも彼が創始者だということは頭に入れておきましょう。

 

モルモン教とは

モルモン教が軽蔑視される理由

 

大前提として知っておきたいのは、モルモン教は「キリスト教の一派」を主張している一方で、キリスト教としてはそれを認めていないという点です。

何故、モルモン教がキリスト教の一派と認められないかというと、いくつか理由があります。

分かりやすいのは以下の5点です。

 

  • 聖書とは別にモルモン書を使用:モルモン書は聖書よりも正確と主張
  • 三位一体を否定:神は以前は人間であった、神には妻がいるなどの概念を持つ
  • 元来のキリスト教と歴史的なつながりがない
  • 一夫多妻制度を容認していた
  • モルモン教特有の儀式がある

 

このような内容から、キリスト教系の新宗教というような立ち位置になっています。

 

歴史

 

モルモン教が、どのような歴史を持つ宗教なのかは、『ブック・オブ・モルモン』の “All American Prophet” という曲を聴くのが1番手っ取り早いです。

この曲については別の記事でも紹介しますが、ここではざっくりと概要だけ押さえることにしましょう。

 

  • 14歳だったジョセフ・スミス・ジュニア(以下、ジョセフ)はどの教会に加入するか迷っていた
  • 神に答えを求めたところ、神とイエス・キリストが現れ「どの教会も間違っているためにも加わらないように」と告げられる
  • ジョセフは神の使者モロナイに、黄金の板でできた聖典(以下、聖典)の存在を告げられる
  • ジョセフは、クモラの丘(現:ニューヨーク)から聖典を掘り起こす
  • 聖典は、今まで存在していたイエス・キリストに関する聖書とは別のものであった
  • ジョセフは、神の霊感によって聖典を英語に翻訳
  • 聖典を編纂した預言者モルモンにちなんで「モルモン書」と名付ける
  • 設立当時は順調に信者を増やすが、教義の大胆さや政治的思惑により、武力衝突が度々起こる
  • 信者の中で被害を被った者からは容認されず、暴動罪の容疑で収監されていたジョセフは襲撃によって殺害される
  • 迫害を逃れ、一行はブリカム・ヤングと共に西部へ向かい、最終的にソルトレイク盆地に落ち着く
  • ブリカム・ヤングは宗教都市ソルトレイクシティを設立し、本部を置き、今に至る

 

『ブック・オブ・モルモン』は、モルモン教の歴史を知らなくても楽しめますが、知っていると理解度が変わりますよ。

 

 

モルモン教の特徴

 

歴史以上に押さえておきたいのは、モルモン教の特徴です。

モルモン教が軽蔑視される点というのは、モルモン教の特徴とも言うことができ、ここで紹介する特徴は全て『ブック・オブ・モルモン』の中にコメディ要素として組み込まれています

しっかり押さえておきましょう。

 

布教活動

 

モルモン教において一番分かりやすい特徴は「布教活動」です。

伝道活動中は基本的に2人組で行動し、外見や服装について厳しい基準が設けられていることから、身なりはきちっとしています

髪の毛はきっちりと分け、白シャツに、黒ネクタイ…こういう感じの2人組が、布教のために、自国や派遣された国で活動するというわけです。

『ブック・オブ・モルモン』の主人公、ケヴィン・プライスもこういった服装をし、マニュアル通りに布教活動していきます。

 

 

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しかし、アーノルド・カニングハムはこの真逆

オープニングでも分かる通り、髪の毛はボサボサで、身なりはだらしなく話し方も慣れ慣れしいためマニュアル通りとは言えません。

この時点で、カニングハムはモルモン教の概念をぶち壊しに来ている存在なのだな…ということが感じ取れます。

 

 

モルモン教徒からは「清潔、紳士的、真面目、忠実」といった言葉が連想される…ということを押さえておきましょう。

 

一夫多妻制の禁止と性交渉

 

ジョセフ・スミス・ジュニアが一夫多妻制をとっていたことから、かつてのモルモン教は一夫多妻制をよしとしていました

しかし、時代の流れの中で一般市民によって一夫多妻制に対する反発が起こり、その後アメリカ合衆国で違法となったために、現在では一夫多妻制は禁止されています。

一夫多妻制が禁止されると、今度は性交渉に対して著しく厳しくなりました。例えば次のような教えがあります。

 

  • 本来生殖に関わる事柄は非常に神聖なもの
  • 夫婦間以外での性行為や婚前交渉など、性的感覚を刺激する事柄は重大な罪
  • 性欲は罪ではなくコントロールするもの
  • ポルノグラフィーや自慰行為は回避する

 

このように、性交渉に対する厳格な教えがあることから『ブック・オブ・モルモン』では、度々過激な下ネタが登場します。

特にキツいのは 2幕の “Spooky Mormon Hell Dream” です。お気を付けくださいませ…(苦笑)。

 

下着

 

モルモン教徒はガーメントという下着の常時着用が義務付けられています

モルモンの神殿でエンダウメントの儀式をで受けたモルモン教徒が身につけるもので、神聖な聖約を交わしたしるしです。

また、控えめで慎ましい衣服の着用を促す役割も担っています。

例えば、ガーメントが衣服から出てしまうようなタンクトップやショートパンツは、モルモン教徒としては慎ましい衣服とは言えないということですね。

以前は上下一体型でしたが、現在は上下に分かれているそうです。

 

 

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ガーメントは “I Am Here For You” のシーンで登場しますよ。

 

コーヒー、アルコール、たばこ禁止

 

自律神経をむやみに刺激するもの依存症にかかるものを避けるという教えがあることから、コーヒー(カフェイン)、アルコール、たばこなどは禁止されています。

『ブック・オブ・モルモン』では何もかも上手くいかないと自暴自棄になったプライスが、コーヒーを煽るシーンは笑いどころです。

 

黒人差別

 

モルモン教では、黒い肌を持つのは道を外れたからだという考え方がありました。

 

ニーファイはアメリカ原住民が黒い肌を持つようになった理由として、彼らが不義に陥ったためであり、後にキリストの福音に改宗すれば「白い、喜ばしい民」になる、と語る(ニーファイ第ニ521)。

モルモン教をどう見るか ― 第三の視点をさぐる(p.22)

 

こういった考え方から、長らく黒人に対して神権が与えられなかったという歴史があります。

しかし時代の流れを受け、1978年6月より黒人男性にも神権が与えられモルモン書の内容も改訂されています。

 

しかし、後の1981年版のモルモン書では「清い、喜ばしい民」と改訂されている。これは、白人至上主義が普通であった時代から、こんにちの人種差別を退け平等をうたう時代に移り、訂正されたものであるが、当初語り手が予測し得なかった限界によるものでる。

モルモン教をどう見るか ― 第三の視点をさぐる(p.22)

 

このようにして、黒人差別の意識改革を行っているモルモン教ですが、未だに男性優位な体制は変わらず、女性への神権は与えられていないようです。

『ブック・オブ・モルモン』で登場するモルモン教徒も全て男性です。

プライスとカニングハムの布教先がウガンダなのは、こういった黒人差別の背景があったからだと考えています。

 

同性愛禁止

 

モルモン教では、結婚制度は男女間のみと定められています。

20世紀までは同性愛を罪悪視していたという過去がありますが、現在は同性愛を否定はしておらず、入信を歓迎しています。

ただし、黒人差別と同様に、時代の流れを受け徐々に制度が変わっていく可能性は大いに考えられますね。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

いかがでしたか?モルモン教について、理解は深まったでしょうか?

『ブック・オブ・モルモン』を鑑賞の際は、是非この記事で紹介した点をコメディ要素として楽しんでみてくださいね。

モルモン教について、もっと詳しく知っておきたいという方は、こちらの本をお読みください。

 

 


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