ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “Blow Us All Away” の英語歌詞を見てみると、ハミルトンの息子フィリップがデュエルで亡くなったということが分かります。
彼がデュエルするまでのジョージとのやりとりと、父親の助言はどのようなものだったのでしょうか?
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ジョージに反発するフィリップ
さて、前回の記事ではハミルトンの息子であるフィリップがデュエルをすることになったきっかけについてまとめました。
アーロン・バーやトマス・ジェファーソンを支持していたジョージ・イーカーがスピーチを行う中で、ハミルトンを非難した。それを聞いたフィリップは耐えられずに反発したことがことの発端ですが、「非難した」内容というのは、マリア・レイノルズ事件のことでした。この曲の2つ前の曲が “The Reynolds Pamphlet” ですから、事が起きた順番的にも正しいと分かります。
劇場で観劇をしていたジョージに対してフィリップが反発するシーンは、作品内で次のように歌われています。
GEORGE:
Shh! I’m tryin’ to watch the show!PHILIP:
Ya’ shoulda watched your mouth before you
Talked about my father though!GEORGE:
I didn’t say anything that wasn’t true
You father’s a scoundrel, and so, it seems, are youENSEMBLE:
Ooooooooooh!PHILIP:
It’s like that?GEORGE:
Yeah, I don’t fool around
I’m not your little schoolboy friendsPHILIP:
See you on the dueling ground
That is, unless you wanna step outside and go nowGEORGE:
I know where to find you, piss off
I’m watchin’ this show now
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “Blow Us All Away” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
“George!” とフィリップが声をかけた後、ジョージはすぐさま “Shh! I’m tryin’ to watch the show!(しーっ!今劇を見ようとしているんだ)” と言っています。それはそうですよね、普通観劇中に声を掛ける方が失礼ですから。でもこれは事実、本当にそうだったようですから驚きます。
その後フィリップが言う “Ya’ shoulda watched your mouth before you talked about my father though!” という返しがなかなか面白いんです。訳すと「父さんのことを話す前に口に気を付けるべきだったけどね」となります。普通の会話ではありますが、英語で読むと英語ならでは魅力があります。それが次の部分です。
- trying to watch the show…劇を観ようとしている
- watch your mouth…口に気を付けろ
いずれも “watch” という単語を使っているのですが、それぞれ意味が違うんですね。フィリップはジョージが劇を観る(watch)する前に気を付ける(watch)ことがあるだろ…ということを言っていて、会話としてよりセンスのあるものになっていると言えます。ちょっとおしゃれで知的な感じがありますよね。もちろん、皮肉も含まれます。
それに対してジョージはこう返しています。
- I didn’t say anything that wasn’t true…俺は事実でないことなど1つも言っていない
- You father’s a scoundrel, and so, it seems, are you…お前の父親はスキャンダルを起こした
まあ、確かに事実ではあります(苦笑)。続けて彼は「俺はお前の学生友達じゃない、嘘を吹聴したりはしないんだ」と挑発までしてくるんですね。ここでフィリップは頭にきてこう言います。
- See you on the dueling ground…デュエル会場で会おうじゃないか
- That is, unless you wanna step outside and go now…ただ、もし今すぐ外に出ていくと言うならな
短気なところは父親に似てしまったのでしょうか…。しかし、ジョージはフィリップを完全にバカにして「お前なんてどこにいるか分かるから、さっさと消えろ。俺は今劇を観ているんだ。」とかなり上から目線です。
父に迫るフィリップ
デュエルはニュージャージーで…
ジョージに対して更に腹が立ったフィリップは自宅に帰り、父親であるアレクサンダー・ハミルトンとこのようなやりとりをします。
PHILIP:
Pops, if you had only heard the shit he said about you
I doubt you would have let it slide and I was not about to—HAMILTON:
Slow downPHILIP:
I came to ask you for advice. This is my very first duel
They don’t exactly cover this subject in boarding schoolHAMILTON:
Did your friends attempt to negotiate a peace?PHILIP:
He refused to apologize, we had to let the peace talks ceaseHAMILTON:
Where is this happening?PHILIP:
Across the river, in JerseyHAMILTON/PHILIP:
Everything is legal in New Jersey…
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “Blow Us All Away” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
まずフィリップは「父さん、もしあいつが父さんについて言っていたことを聞いたなら、そのまま聞き流すなんてことは出来なかったはずだよ!」と啖呵を切って父親に迫っています。父親について言われたことがどれだけ腹立たしかったか、怒り心頭していたことがよく分かりますね。あまりに早口で喋るフィリップに対してハミルトンは「落ち着け」と言っていますが、早口で話すところもまた、父親に似ていますよ。
そう言われても落ち着く訳のないフィリップは、「俺はアドバイスをもらいに来たんだ。これは俺の人生初のデュエルだから。学校では正確にはおしえてくれなかったからね。」と言っています。デュエルについて授業で教えられる機会があったのかどうかは定かではありませんが、デュエルにはある一定のルールのようなものもありますし、話し合いで解決すればデュエルんい至ることもないので、ハミルトンは「話し合いは試みなかったのか?」という話題も出しています。フィリップは「彼は謝ることを拒否した」と言っており、実際ジョージも謝罪はせず「事実を言ったまでだ」と言っていたので、デュエルをすることになったわけですね。
“Where is this happening?(それはどこで行われるんだ?)” は、もちろんデュエルする場所を聞き出しているもので、フィリップは「川を越えた向こう側、ジャージーさ」と答えています。
その後2人同時に言う “Everything is legal in New Jersey…(ニュージャージーは何でも合法だからな)” については笑いどころなのですが、これを言う根拠が今だ分からず…。調べる余地ありです。
デュエルがどういうものなかについてはこちらの記事をご覧ください。
父、ハミルトンの指示
結局デュエルが行われることに変わりないということで、ハミルトンはこのような指示を出します。
HAMILTON:
Alright. So this is what you’re gonna do:
Stand there like a man until Eacker is in front of you
When the time comes, fire your weapon in the air
This will put an end to the whole affairPHILIP:
But what if he decides to shoot? Then I’m a gonerHAMILTON:
No. He’ll follow suit if he’s truly a man of honor
To take someone’s life, that is something you can’t shake
Philip, your mother can’t take another heartbreakPHILIP:
Father—HAMILTON:
Promise me. You don’t want this
Young man’s blood on your consciencePHILIP:
Okay, I promiseHAMILTON:
Come back home when you’re done
Take my guns. Be smart. Make me proud, son
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “Blow Us All Away” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
まとめるとこういうことになります。
- ジョージが目の前に立つまで堂々と立っていること
- カウントダウンが終わったら、空へ発砲する
これで全てにケリがつく…というのがハミルトンの主張です。つまり、デュエル会場には行くが、相手を傷つけることなく終始紳士であることに努めろということです。しかし、もちろんこんなことをしたて、ジョージが撃ってきたらどうするのか不安になりますよね?それはフィリップも同じでした。「彼がもし撃ってきたら、自分は死んでしまう…」と。
それに対してハミルトンは「彼が本当に名誉を重んじる人であったならば、そんなことはしない。誰かの命を奪うなどしてはいけないことだ。そして、母さんの心を更に痛めさせるわけにはいかない。」と言っています。確かに、その通りですね。これの説明は納得です。
ちなみに、この方法でデュエルを回避するというのは当時あった手段だということが “Hamilton: The Revolution” から分かります。
This was an actual technique in dueling called the “delope”. It allowed for everyone to show up and prove they were men, and go home alive.
-Hamilton: The Revolution(p.246)
この方法は “delope” と呼ばれていたそうで、フランス語の “deloper” 、「投げ捨てる、放棄する」という単語から来ているようです。デュエルを紳士的に終える正当な方法として存在していたんですね。なので、ハミルトンもこの手段を提案したのでしょう。
エリザベスのことを「更に痛めさせる」というのは、ハミルトンがマリア・レイノルズと不倫したことに加えて…という意味ですよ。
そしてフィリップも納得し、父親の銃を手にデュエル会場へ向かうのですが…そこでフィリップを待っていたのは悲劇以外の何物でもありませんでした。
“Blow Us All Away” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。