“Take What You Got”で歌われるノーサンプトンの歴史

 
こんにちは!

英語歌詞からミュージカルを読み解くブロガー、あきかん@performingart2)です。
 

ミュージカル『キンキーブーツ(Kinky Boots)』より “Take What You Got” の英語歌詞を見てみると、舞台となっているノーサンプトンが移り変わっていく様子と共に、チャーリーが目を向けるべきは過去でも未来でもない現状だということが分かります。

かつては靴の製造でにぎわっていた、靴の町・ノーサンプトン

それがいまや、どのように変わってしまったかを、チャーリーの現状と共に見ていきましょう。


 

ノーサンプトン(Northampton)は「靴の町」だった

 

ミュージカル『キンキーブーツ』は実話を元にした作品で、実在した靴メーカー「W.J. Brookes Ltd(ブルックス社)」がモデルになっています。

ブルックス社はノーサンプトンにあった工場でしたが、実はこの町、かつては靴工場が立ち並ぶ「靴の町」だったんですね。

内戦によって靴を製造し始めたのをきっかけに、19世紀には靴産業が盛んになっていました。

しかしファッションの変化、需要の変化と共に、靴工場は次々と高層集合住宅に変わっていきます

 

ミュージカル『キンキーブーツ』を観ていると、ローラ(ドラァグ・クイーン)とチャーリー(廃業寸前の靴工場の社長)の「靴」のやりとりに注目しがちです。

しかし別の側面から見ると、数々の靴工場が時代と共に立ち行かなくなり、高層集合住宅に変わっていった歴史を映し出しているとも言えます。

ミュージカルでこの役割を担っているのが、チャーリーの婚約者であり不動産業をしているニコラですね。

 

「靴工場が立ち行かなければ、高層集合住宅になってしまう…」というのは、ミュージカルの中での設定ではなく、ノーサンプトンの歴史上で実際にあったこと

この動画にもある通り、ドラァグ・クイーン向けの製造で危機を乗り越えようとしたブルックス社も、2000年には高層集合住宅となっています。

こういった背景を踏まえた上で “Take What You Got” の英語歌詞を理解していきましょう。

 

チャーリーとハリーの間で歌われる内容

サビの意味

 

まず、サビの意味から見ていきましょう。

 

You’ve got to take what you’ve got
Even where your life is in knots
You take aim, take your shot
Sometimes you’ve gotta rewrite the plot
You’ve gotta take what you got

―ブロードウェイミュージカル“Kinky Boots”より “Take What You Got”(作詞:Cyndi Lauper)

 

この曲名にもなっている “Take What You Got” は「現状を受け止めろ」といったニュアンスです。

人間って、良い時は現状を直視できますが、悪い時は現状から目を背けようとしますよね。そんな相手に対して「目を背けるな」と言っているのです。

チャーリーの場合、ニコラとロンドンに住む予定が、父親の急死によりプライス社を継ぐことになります。

家業から自由になるつもりが、できなくなってしまった。ましてや経営難の靴工場の社長になるなんて…。そんなマイナスな状況について「現状を直視して、将来を見据えて、前に進んでいこう」と歌うのが “Take What You Got” のサビの内容です。

 

  •  現状を受け止めろ
  •  たとえ人生がぐちゃぐちゃだったとしても
  •  狙いを定め、撃ち放て
  •  時には、計画を書き直さなければいけない時もあるさ
  •  現状を受け止めなきゃ

 

ノーサンプトンの昔と今

 

「チャーリー、現状を受け止めろよ」と歌うハリーですが、ハリーは「チャーリーの現状」と「ノーサンプトンの現状」を重ねて歌っています。

ここで歌われているのは、自分たちが幼かった頃のノーサンプトンと、大人になってからのノーサンプトンです。

 

[HARRY]
Remember the pub where our fathers went
To spend the end of the day?

[CHARLIE]
Remember the yard behind the pub
Where we’d run and play?

[HARRY]
Yeah, well, now the pub is a laundromat

[CHARLIE]
Now the yard is a high-rise flat

[HARRY]
You can’t go back
You can’t make it last

―ブロードウェイミュージカル“Kinky Boots”より “Take What You Got”(作詞:Cyndi Lauper)

 

「互いの両親が仕事終わりに行ったパブ、互いが遊びまわったパブの裏庭を覚えているか?」と歌い合いますが、今やそのいずれも存在しないことが分かります。

 

  •  now the pub is a laundromat … パブは今やコインランドリー
  •  now the yard is a high-rise flat … 裏庭は今や高層集合住宅

 

そして、ハリーはこんな風に歌います。

 

  •  You can’t go back … 過去に戻ることはできない
  •  You can’t make it last … 過去を存続させることもできないんだ

 

時代の流れに逆らうことは出来ないことが歌われていると分かりますね。

 

チャーリーとハリーの昔と今

 

2番で歌われるのは、お互いの気持ちについてです。

『キンキーブーツ』の中で明らかにノーサンプトンを毛嫌いしていると分かるのはニコラですが、実はこの2人もノーサンプトンという田舎町には後ろ向きな思いを抱いていました

 

[CHARLIE]
You’d always say that one of these days
You’d get out of Northampton town

[HARRY]
You’d always say that you wouldn’t stay
No, you wouldn’t stick around

[CHARLIE]
Never knew what I wanted before
Now I’m even more unsure

[HARRY]
You can’t move on if you’re still in the past

―ブロードウェイミュージカル“Kinky Boots”より “Take What You Got”(作詞:Cyndi Lauper)

 

それぞれが抱く思いは次のようなものです。

 

  •  ハリーは「ノーサンプトンの町から出てやる」と言っていた
  •  チャーリーは「ここにはとどまらない」と言っていた

 

そしてチャーリーは「今まで何を求めていたのか分からなかったし、今はなおさら分からない」と歌います。

優柔不断な上に、家業が残してきた歴史に縛られていることが分かりますね。

そんなチャーリーに対してハリーは「もし過去に生きているなら、前には進めないよ」と伝えます。

 

チャーリーの背中を押すハリーのひとこと

 

チャーリーは家業に縛られて可哀想…と思う人も少なくないと思いますが、結局チャーリーが縛られているのは、固定概念です。

チャーリーは自由を求める一方で「こうなければならない」とか「家業で成功をおさめなきゃいけないとか」そんなことばかり考えてしまうんですよね。

そのため、ハリーに会いに来たこのタイミングでさえも「今度こそはチャンスを掴めるかも、成功をおさめられるかもしれない…」と歌い上げます。

しかし、それもどことなく無理やり感があるわけです。

そんなチャーリーに言うハリーのひとことがこれ。

 

[HARRY]
If you’re on the wrong road, turn back

―ブロードウェイミュージカル“Kinky Boots”より “Take What You Got”(作詞:Cyndi Lauper)

 

意味はこうです。

 

  •  もし違う道を進んでいるなら、振り返れ

 

これ、ものすごくカッコイイひとことなんですよね。

冒頭では、現状を受け止めながらも、目標を決め、進めと歌っていました。

しかし、進んでいるだけで成功するほど世の中は甘くないですよね。時には手助けが必要な時もあります。

過去に生きるでもなく、未来を生きるでもなく、今を生きるために、必要であれば過去を振り返れ。そうすれば現状打破できるものに出会えるはずだ。」

これがハリーの伝えたいことであり、そして過去を振り返った時に、現状打破できるかもしれない要素の1つ目が自分(ハリー)だということも含んだ言葉なのです。

 

いかがでしたか?

わたしは日本語版『キンキーブーツ』を観た時に、この曲の重要性に気付くことができませんでしたが。

しかしこのように英語で見てみると、過去から卒業し、未来へ一歩足を踏み出すために「現状」に目を向ける重要性について歌われていることに気付かされました。

ミュージカル全体ではマイナーな曲ですが、是非もう一度見直してみてくださいね。

 


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