ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “A Winter’s Ball” の英語歌詞を見てみると、ジョージ・ワシントンの妻、マーサ・ワシントン(Martha Washington)の名前が出てきます。
彼女の可愛がっていた雄猫と関係があるようですが、どういうことなのでしょうか?
“A Winter’s Ball” はハミルトンとエリザベスが出会う直前のシーンですね。バーがハミルトンに対して嫌悪感を抱きながらも、冬の舞踏会(A Winter’s Ball)を楽しもうじゃないか…という内容です。
その詳細は次の記事にまとめているのでご覧くださいね。
『スリル・ミー』の解説・考察本を執筆しました!
「レオポルドとローブ事件」はどのような事件だったのか?何故「終身刑+99年」という判決だったのか?そんな疑問を解消しながら、ミュージカル『スリル・ミー』の刺激に迫る解説・考察本。
実際の事件ととミュージカルを比較しながら「実話」、「ニーチェの哲学」、「裁判」の3つの視点から作品に切り込んだ1冊。
Kindle(電子書籍)、ペーパーバック(紙書籍)、いずれも Amazon で販売中。
Kindle Unlimitedを初めてご利用の方は、体験期間中に0円で読書可能!
目次
歌詞のおさらい
それではまず歌詞を見ていきましょう。
BURR:
They delighted and distracted him
Martha Washington named her feral tomcat after him!HAMILTON:
That’s true
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “A Winter’s Ball” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
ハミルトンが “That’s true” 、「それは本当(事実)だよ」と言っていますが、何が本当なのでしょうか?
ハミルトンは女性たちの注目の的
まずは1行目から見ていきましょう。
ここで言う “They” とは、舞踏会に来ている女性たちのことですね。この歌詞に入る前バーがさんざん「女性たちと関係を持てる~♪」と歌ってますから(苦笑)。
一方のhimとはもちろんハミルトンのこと。これも、バーがそれまでずっとハミルトンの話ししていましたら、そうと分かります。
あとは間に入る2つの単語が分かれば意味が理解できます。 “delighted” は「大いに喜ぶ」、 “distracted” は「発狂する(取り乱す)」ですから、ハミルトンが来たことで女性たちが喜んだり、発狂(言い過ぎ?)している様子が伺えます。
スターですね、ハミルトンは!バーはきっとハミルトンのこんな点にも嫉妬心・嫌悪感を抱いていた事でしょう。
マーサ・ワシントンの猫の名前は「ハミルトン」?
歌詞で歌われていること
さて、2行目を見てみましょう。
named afterは「~と命名する」という意味があり、afterの後にhimとあるので、このhimはハミルトンのこと。よって、マーサ・ワシントンは、彼女の可愛がっていた雄猫(tomcat)を「ハミルトン」と名付けていたと分かります。
へー!すごいですね。ジョージ・ワシントンの妻までもが、ハミルトンに熱狂的だったなんて…そんな情報を見逃すはずもないバーは、ここでも茶化しを入れている訳です、皮肉交じりに。
でもハミルトンは「うん、そうだよ」と言わんばかりに、さらっと “That’s true.” です。(バー、胸中お察しします…)
これ、本当なの?
でもこれ、本当に事実なんでしょうか?wikipediaではそのような話しが書かれていなかったので、ツイッターでお世話になっている西川秀和(@Poeta_Laureatus)先生に伺ってみました。(DMのやりとりの掲載許可は頂いております。)
マーサ・ワシントンについて書いているPatricia Bradyは、以下のように書いていますよ。Patricia Bradyはマーサについて調べているので有名な人です。 Martha called the camp’s prowling tomcat “Hamilton.”
ただその前にIn an almost certainly apocryphal (but too good to leave out) story,という但し書きが付いています。これは私も同意です。
どういうことかと言えば、マーサに関する話は、マーサ自身の手紙や親戚などの回顧などによりますが、ハミルトンのこの話は確実な根拠とされるものには載っていないはずです。
おそらく根拠が不確かということで書かなかったんでしょう。
―西川秀和(@Poeta_Laureatus)先生とtwitterDMのやりとりにて
なるほど、ということはそう呼んでいたと証拠づけられる書面はないが、話としてはあったらしい…ということです。
こんな面白い話を、さらっと歌詞に入れてしまっているのが、『ハミルトン(Hamilton)』の歌詞の奥深さでもありますね。
「冬の舞踏会」を開催したのは、マーサ・ワシントン!?
(2019.1.19:追記)
本を読んでいたらこんな記述を見つけました。
For example, during the war in the winter of 1779-1780, Martha Washington lived near Morristown, NJ, and Hamilton and other officers were treated to receptions and fancy dress balls featuring young women from neary who came to socialize with them. Hamilton was known as a flirt, and he clearly enjoyed the social aspects of his military servis. Martha Washington witnessed Hamilton’s charm first-hand when she entertained the officers on behalf of her husband.
―The Hamilton Cookbook: Cooking, Eating, and Entertaining in Hamilton’s World(p.7)
ジョージ・ワシントンの妻、マーサ・ワシントンは、1779~1780年にかけての冬、ニュージャージー州のモリスタウンに住んでいたようですが、軍人と近所の女性たちが交流できる接待の場を設けていたようです。そこに訪れるハミルトンを一目見て、マーサ・ワシントンはハミルトンのことを気に入ったようですが、この時に行われた「冬の舞踏会」でハミルトンとエリザベスは出会ったようなんですよね。
Hamilton’s future wife, twenty-two-year-old Elizabeth Schuyler, came on the scene when she arrived in Morristown to live with her aunt and uncle, Washington’s personal physician. Within just few months, Hamilton and Elizabeth, who called Eliza or Betsey, decided to marry.
―The Hamilton Cookbook: Cooking, Eating, and Entertaining in Hamilton’s World(p.7)
エリザベスの叔父と叔母はワシントンの専属の医者だったようで、彼らとと共に過ごすためにモリスタウンに移ってきた22歳のエリザベスは、そこでハミルトンに出会い、数か月で結婚することに決めたようです。
ちなみに、ハミルトンはエリザベスのことを「イライザ」や「ベッツィー」と呼んでいたようですよ。ミュージカル内では「ベッツィー」とは呼ばれていなかったので、新しい発見です。
“A Winter’s Ball” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。