ミュージカル『ハミルトン』の見逃せない演出3選の魅力を解説


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今回初めて『ハミルトン(Hamilton)』を観る…という方に、見逃してはいけない演出3つの魅力を解説します。
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Contents:
アンサンブルがすごい『ハミルトン(Hamilton)』
私が声を大にして言いたいのは、『ハミルトン(Hamilton)』はアンサンブルが凄い…ということ。
私がアンサンブルでブロードウェイ・デビューをするなら、「絶対にこの作品が良い」と思うくらい、この作品のアンサンブルの役割が好きです。
この作品では、大掛かりな場面転換がありません。
舞台上に存在するのは、波止場を連想させる板張りのセットと太い縄くらいで、大きなせり上がりがあるわけでも、セット転換があるわけでもありません。
また、舞台セットの演出効果と言えるものは盆(回転舞台)くらいです。
では、どのようにその場その場のシーンを表現しているのかというと、必要なものは全てアンサンブルが持ち出し、持ち帰るという演出になっています。
つまり、全て振付の中に組み込まれている…ということですね。
この映像でも分かる通り、椅子や箱などは全てアンサンブルが持ってきています。
こういった具合に『ハミルトン(Hamilton)』は全体を通してアンサンブルの活躍が凄まじいのですが、特に私が凄いと思った3選を解説します。
ここからは演出に関する解説をしていくので「前情報なしに初見したい」という方は、鑑賞2回目以降にお読みください。
見逃せない演出3選
逆再生
これは『ハミルトン(Hamilton)』の演出上、最も緻密で最も高度な演出と言っても過言ではありません。
この演出が用いられるのは、1幕 “Satisfied” の冒頭です。
ここで押さえておかなければいけないのは曲順とその内容。
・ A Winter’s Ball/直訳:冬の舞踏会
… 男性達と女性達の出会い/社交の場「冬の舞踏会」を楽しみにするハミルトン達の様子を歌ったもの。
・ Helpless/直訳:(この恋心を)どうすることもできない
… エリザベス・スカイラー(以下、イライザ)の視点から見た冬の舞踏会。ハミルトンとの出会いから結婚までを歌ったもの。
・ Satisfied/直訳:満足している
… アンジェリカ・スカイラーの視点から見た冬の舞踏会。ハミルトンとの出会いから、妹・イライザの恋心に気付き、自分は身を引いて妹の結婚まで導いたことを歌ったもの。
この展開からも分かる通り、姉妹アンジェリカとイライザは同時にハミルトンに恋をしてしまった…ということがポイントです。
“Helpless” では、あたかも自然に見えていたハミルトンとイライザの出会い。
しかし、それは実は賢く、機転の利く、妹想いのアンジェリカが導いた出会いだったということが “Satisfied” で分かります。
そこで、ここの演出がどうなっているかというと「冬の舞踏会」のシーンを2度行います。
“Helpless” が終わった後、 “Satisfied” は2人へ向けた結婚の挨拶をアンジェリカがする…というところから始まりますが、アンジェリカの脳内で「冬の舞踏会」を回想し始める瞬間に、結婚式の様子から冬の舞踏会冒頭まで舞台上が「逆再生」されます。
つまり、メインキャスト、アンサンブル全てが今までたどってきた動作を戻るかたちをとります。
“Satisfied” の歌詞で “Rewind(リワインド/巻き戻し」の意味)“の歌詞が始まったら、まばたき禁止で、一瞬も見逃さないようにしてください。
デュエルを煽る数字と指の振付
『ハミルトン(Hamilton)』では、デュエル(決闘)のシーンが全部で3回あります。 ※下線は、デュエル敗者。
1. Ten Duel Commandments/直訳:デュエルにおける10の掟
… ジョン・ローレンス VS チャールズ・リー
2. Blow Us All Away/直訳:みんなを圧倒させる
… フィリップ・ハミルトン VS ジョージ・イーカー
3. The World Was Wide Enough/直訳:世界は十分に広かった
… アレクサンダー・ハミルトン VS アーロン・バー
中でも1幕で行われる “Ten Duel Commandments” のアンサンブルは圧巻です。
舞台セット2階からデュエルする2人を煽るように、”Number one!” “Number two!”と数字を言っていきますが、その時の手に注目です。
その時発する数字を手で表現していますが、決して普段私達が行うような指折りではなく、振付に溶け込む形で表現されていますので、お見逃しなく。
弾丸
最後に弾丸です。
これは…本当に…カッコイイ。
ここでお伝えするのはデュエルにおける弾丸がどのように演出されているか…ということですが、一番素晴らしく、開いた口が塞がらなかったのが、ハミルトンとバーのデュエル “The World Was Wide Enough“の場面です。
バーが銃を撃った瞬間、アンサンブルの1人が弾を人差し指と親指に持ったようにしながら、スローモーションでハミルトンへ近づいていきます。
他のデュエルでは1人でしか行わないのですが、この場面ではアンサンブルが総出です。
弾丸を持ったアンサンブルがハミルトンに向かう過程で、他のアンサンブルが弾丸役を持ち上げ、あらゆるかたちに変化しながら歩んでいきます。
まるで、バーがハミルトンに出会ってから今日に至るまでに重ねた、楽しく、恨めしい日々を表現するかのように…。
この場の緊迫感と、たった1発に込められた重みは劇場でしか味わえないものかもしれませんが、私にとっては今まで観てきた演出の中で一番好きと言い切れるものです。
是非、ハミルトンの最期を、しかと目に焼き付けてください。
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『ハミルトン(Hamilton)』の登場人物は、こちらをご覧ください
