エンジェルのAIDSとの向き合い方、生き方が分かる自己紹介

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “You Okay Honey?” の英語歌詞を見てみると、コリンズとエンジェルの出会いが描かれています。

シンプルなやりとりですが、エンジェルのAIDSとの向き合い方や生き方が分かる、とても温かく愛に満ちた内容になっていますよ。

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の解説・考察本を執筆しました!

ヘドウィグが探し求めた「カタワレ」とは?何故「ベルリンの壁」が登場するのか?「愛の起源」を解説しながら、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の中毒性に迫る考察本。

台本と映画を踏まえてながら、プラトンの『饗宴』に影響を受けた「愛の起源」、ドイツの歴史、旧約聖書「アダムとイヴ」の3つの視点から作品に切り込んだ1冊。

Kindle(電子書籍)ペーパーバック(紙書籍)、いずれも Amazon で販売中。

Kindle Unlimitedを初めてご利用の方は、体験期間中に0円で読書可能

 

歌詞のおさらい

 

まずはコリンズとエンジェルのやりとりから見ていきましょう。

 

ANGEL:
You okay honey?

COLLINS:
I’m afraid so

ANGEL:
They get any money?

COLLINS:
No
Had none to get —
But they purloined my coat —
Well you missed a sleeve! — Thanks

ANGEL:
Hell, it’s Christmas Eve
I’m Angel

COLLINS:
Angel..? Indeed
An angel of the first degree
Friends call me Collins — Tom Collins
Nice tree …

ANGEL:
Let’s get a band-aid for your knee
I’ll change, there’s a “Life Support” meeting at nine-thirty
Yes — this body provides a comfortable home
For the Acquired Immune Deficiency Syndrome

COLLINS:
As does mine

ANGEL:
We’ll get along fine
Get you a coat, have a bite
Make a night — I’m flush

COLLINS:
My friends are waiting —

ANGEL:
You’re cute when you blush
The more the merri — ho ho ho
And I do not take no

―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “You Okay Honey?” (作詞:Jonathan Larson)

 

まず大前提として、エンジェルは他のボヘミアン達と比べて、とても言い回しが丁寧、上品な上にユーモラスだということを念頭に置いておきましょう。

ボヘミアンについては、こちらの記事で説明しているので是非ご覧くださいね。

 

コートを盗まれるコリンズ

“honey” とは?

 

暴力を受け、痛がっているコリンズに声を掛けたのはエンジェルからでした。

“You okay honey?” とは正しい文章にすると “Are you okay honey?” ですが、ここではカジュアルに “are” を省いています。省いても意味は通じますが、あえて訳すならば「あなたは大丈夫ですか?」が「あなた、大丈夫?」といった感じになる程度の省略具合です。

“honey” とは「はちみつ」のことですが、ここでは好意を持って相手を呼ぶ「あなた」の意味です。日本人でこれを日常的に使う人はなかなかいないと思いますが、日本語でも「ハニー」と言ったりしますね。

“honey(はちみつ)” は甘い食べ物なので、そこから発展し「(はちみつのように甘い)人→かわいい・愛しい人→(愛しい)あなた」という意味を持ちます。

では甘いものであれば何でも良いんじゃないか、と思われると思いますが…どうやら別の甘いものでも「(愛しい)あなた」という意味で使って良いようなんです。

その証拠に “On The Street” で、エンジェルは怒っているホームレスに対しこう歌っています。

 

ANGEL:
Easy, sugar, easy

―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “On The Street” (作詞:Jonathan Larson)

 

つまり甘い “sugar(砂糖)” を使って「落ち着いて、あなた、落ち着いて」と言っているんですね。ついでに言うと、 “cookie(クッキー)” も似たような場合に用いることが可能で「かわいい子ちゃん」といった意味をなします。いずれにしても、エンジェルのような人に穏やかな口調で使われる “honey” や “sugar” は本当に美しく感じます。

 

“I’m afraid so” とは?

 

そんな風に優しく問いかけられたコリンズは “I’m afraid so” と答えます。

1つずつ言葉を分解して理解しようとすると難しく感じますが、これは1つのフレーズとして覚えてしまいましょう。 “I’m afraid so” は「残念ながらその通りだ」という意味です。よく使われるフレーズなので、覚えておくと良いですよ。

エンジェルに「大丈夫?」と問われ「ああ、あいにく大丈夫だ」と答えるコリンズ。恐らく、暴力を振るわれてとても痛いし、コートも奪われたけれども助かってしまっているという状況を「残念・あいにく」と表現しているんでしょう。

この後、エンジェルはお金をとられたのか質問しますが、「とるお金がなかった、その代わりにコートをとっていったよ」とコリンズは答えます。強くひっぱったのか、袖は破れてしまったようで「袖がなくて残念だったな!」と泥棒に叫んでいるのも面白いですね。

コートは盗まれてしまいましたが、この事件がなければ出会うこともなかった二人。それについて、エンジェルが “Christmas Bells” で触れていますので、こちらの記事も併せてご覧くださいね。

 

 

エンジェルの自己紹介

シンプルに、名前を

 

コートを盗まれた一連のやりとりが終わると、エンジェルが自己紹介をしますね。それが “I’m Angel” の部分です。とってもシンプルに「私はエンジェル」です。

エンジェルはdrag queen(ドラァグ・クイーン:女装をしたパフォーマー)なので、 “Angel(天使)” とは本名ではなくニックネームのようなものでしょう。

コリンズはその自己紹介に対して、「本当だ(indeed)、最高の天使(An angel of the first degree)だね」と言い、「友達は俺をコリンズと呼ぶよ、トム・コリンズだ」と自己紹介します。

こういった自己紹介はとても自然です。例えば、

 

  • I’m Tomoko. Please call me Tomo … 私はトモコです。トモと呼んでください。
  • I’m Tomoko. Friends call me Tomo … 私はトモコです。友達は私をトモと呼びます。

 

といった感じに自己紹介が出来ますよ。

ちなみに、エンジェルの “Hell, it’s Christmas Eve” の “hell” とは「地獄」の意味で、ここでは「最悪ね、クリスマスイヴなのに」といったニュアンスになりますよ。

悪いことがあった時に、とってもよく使うフレーズですので知っておくと良いでしょう。ちなみに、

 

 

という表現はよく耳にするので、覚えておくと良いですよ。

 

シンプルに、かつユーモラスに、AIDSであることを

 

ここまでのやりとりはごく自然でしたが、ここからが『レント』の作品として、そしてエンジェルの人間としての重みが出るパートです。

痛がっているコリンズを見て、膝に貼るバンドエイドを取ってきてあげるとエンジェルは言います。どこに取りに行くかというと「Life Support(ライフ・サポート)」ですね。「Life Support」は「人生の手助け」をする場所、つまり『レント』内ではエンジェルを含めたHIV陽性者が集まり、互いを助け合うグループのことを “Life Support” と呼んでおり、9:30pmに会合があるから行くんだというのです。

普通は “Life Support” と聞いて、何かの呼称だろうということは分かっても、説明がなければそれが何を指すかは分かりません。ましてやHIV陽性者であるということを知られたくなければ、それに関連づく単語を言うことはないでしょう。

でも、エンジェルは違いました。HIV陽性者の集まりである “Life Support” をごく自然な流れで言い、その流れでこう発します。

 

Yes — this body provides a comfortable home
For the Acquired Immune Deficiency Syndrome

―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “You Okay Honey?” (作詞:Jonathan Larson)

 

意味はこうです。

 

 

“AIDS” とは “Acquired Immune Deficiency Syndrome” の略ですが、エンジェルは “AIDS” と略さず、しっかりと、はっきりと自分の症状を口に出して言っています。自分がAIDSにかかっていると自覚することはとても難しいことかもしれないのに、病名を丁寧に正式名称で言うっています。

とても切なく辛い内容なのにも関わらず、シンプルでユーモラスなこの言い方。HIV陽性者であるにも関わらず、なんて前向きな表現なのでしょうか。…いえ、エンジェルが自分自身をHIV陽性者だと逃げずに受け止めているからこそ、こういう表現が出来るのです。こういった性格が周りの登場人物、そして私たち観客の心をほぐしてくれるのです。

そしてコリンズはこう続けます。 “As does mine” と。これは「俺のもだよ」という意味で、「俺の体も後天性免疫不全症候群にとても快適な環境を与えているよ」とことを言っています。

ちなみに “AIDS” を構成する単語の意味を1つずつ見てみましょう。

 

 

それぞれの意味を理解すると「後天性/免疫/不全/症候群」と訳されている理由が分かりますね。

(追記:2018.1.24)

ライフサポートについて、「RENTトリビア」では次のように記載されておりましたので、ここに紹介させて頂きます。

 

「RENT」に登場するライフ・サポート・ミーティングとは、一般に自助グループと呼ばれるものです。自助グループは、「RENT」のライフ・サポートのようにHIV陽性者や、アルコール依存症、虐待の被害者、性暴力の被害者、ガン患者など、さまざまな状況の当事者同士が集まり、ファシリテータという進行役が入った形で行うのが一般的で、内容としてはそれぞれの体験や思いなどを共有し合う(意見を述べたり批判したりせず、受容的に聞く)というものです。

「RENT」の中ではポールがファシリテータになっていましたね。ジョナサン・ラーソンはFriends In Deedという団体のミーティングに通い、このシーンを書き上げました。また、同団体の主宰者でファシリテータでもあるシンシア・オニール(Cynthia O’Neal)を「RENT」のリハーサル(稽古場)に招き、キャストやスタッフに話をしてもらったりもしています。「ライフ・サポート」という言葉はおそらく専門用語ではなく、ジョナサンが名付けたものと思われます。

RENTトリビア

 

 

 

エンジェルの誘い

 

お互いがHIV陽性者だと分かって、エンジェルはさらっとこう言います。

 

  • We’ll get along fine

 

これ、どういう意味だか想像がつきますか?

“get along” には「~と仲良くやっていける」という意味がありますので、ここで言う仲良くやっていく対象は恐らくAIDSだと思います。

初め、エンジェルはコリンズと仲良くやっていけそうだということを伝えたいのかなとも思ったのですが、恐らくそうではないでしょう。HIV陽性者であるコリンズを目の前に憐れむわけでもなく、同情するわけでもなく、同じ立場の人間として「大丈夫、私たち(AIDSと)仲良くやっていけるわよ」と言っているのだと感じていますし、そう解釈したいなとも思っています。

その後「一緒に行きましょう」といった具合にコリンズを引くエンジェル。 “Get you a coat(コートを持ってきてあげて)” 、 “have a bite(軽く食べて/何か一口食べて)” 、 “Make a night(夜をものにして)” …と言っていたら顔が赤くなってしまったんですね。 “I’m flush” はこの場合「(照れくさくて)顔が熱いわ」といった意味合いになります。コリンズはその誘いにを一度は断りますが、 “You’re cute when you blush(顔を赤らめると/照れるとかわいいのね)” とエンジェルに言われ、たじたじ。

最後の “And I do not take no(そして私は「ノー」は受け入れないの)” で、エンジェルの積極性が分かります。

辛いことが沢山あるかもしれない毎日の中で、なぜエンジェルはこんな生き方が出来るのでしょうか…学ぶべきところしかないなと、下げた頭が上がらない思いです。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!