東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “Take Me or Leave Me” の英語歌詞を見てみると、歌が始まる前にマークが導入をナレーションしている部分があります。
最後を “I’m here. Nowhere.” と締めくくっていますが、どういう意味なのかを考察してみました。
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台詞のおさらい
まずマークの台詞をおさらいしてみましょう。
MARK:
Valentine’s Day.
Pan across the empty lot.
Roger’s down at Mimi’s, where he’s been for almost two months now,
Although he keeps talking about selling his guitar and heading out of town.
Still jealous of Benny.
God knows where Collins and Angel are.
Could be that new Shanty Town near the river or a suite at the Plaza.
Maureen and Joanne are rehearsing.JOANNE:
I said once more from the top!MAUREEN:
I said no!MARK:
That is, if they’re speaking this week.
Me? I’m here. Nowhere.―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “Take Me Or Leave Me” (作詞:Jonathan Larson)
途中でモーリーンとジョアンの言い合いが入るところが良いですよね(笑)。この一連の流れの最後に、今回取り上げる “I’m here. Nowhere.” がありますよ。
ボヘミアン達の近況
冒頭に “Valentine’s Day.” とあることからバレンタインデーであることが分かります。バレンタインデーとは日本では「女性が好きな男性にチョコをあげる」習慣になっていますが、世界的に見るとどちらから…といった決まりはなく、カップルの愛を誓い合う日となっています。
そんな訳で、ナレーションはそれぞれのカップルについての内容になっています。
ボヘミアンについて知りたい方は次の記事をご覧くださいね。
“Pan across the empty lot.” は、初めどういう意味だか理解出来なかったのですが、それぞれの単語に次の意味があると分かりました。
よってここは、「バレンタインデー。空き地をパン撮りする。」とマーク自身の行動をナレーションしていると分かります。
ロジャーとミミ
ロジャーとミミについては次の3行で説明されています。
- Roger’s down at Mimi’s, where he’s been for almost two months now,
- Although he keeps talking about selling his guitar and heading out of town.
- Still jealous of Benny.
1つずつ見ていきましょう。
“down at” というのはニュアンス的に「~に行く、行っている」となりますので、ロジャーはミミの所に行っている」です。 “where” は関係代名詞で「ミミの所」を指しますから、直訳すれば「ロジャーはミミの所にいる、それは彼が約2ヶ月滞在している場所」となります。
“Although” は「だが、しかし」、 “jealous ” は「やきもちを妬いている」ですから、意味合い的には「ロジャーはもうミミの所に行って約2ヶ月になるが、未だに自分のギターを売って街へ向かうと言っている。そしてまだベニーにやきもちを焼いている。」です。
コリンズとエンジェル
コリンズとエンジェルについては次の2行で説明されています。
- God knows where Collins and Angel are.
- Could be that new Shanty Town near the river or a suite at the Plaza.
“God knows” とは文字通り「神だけが知っている、神のみぞ知る」という意味ですが、転じて「誰も知らない」となるので、「コリンズとエンジェルがどこにいるかは誰も知らない(神のみぞ知る)」です。
“God knows” という表現はとても素敵な表現ですので、覚えておくといいですね。このシーンのニュアンス的には興味がなくて「知らなーい」のではなく、探せば分かるかもしれないけれども、そっとしておくというような気持ちが含まれているように感じます。
“Shanty Town” は「スラム街、貧困街」、 “suite at the Plaza” は直訳だと「広場ににあるスイートルーム」です。これは両極端なものを例えにすることで、本当にどこにいるか分からないことや、どんな所にいてもおかしくないということを示しているんですね。
よって「コリンズとエンジェルがどこにいるかは神のみぞ知る。川のそばのスラム街にいるかもしれないし、広場のスイートルームにいるかもしれない。」となります。
よって、「コリンズとエンジェルがどこにいるかは神のみぞ知る。川のそばのスラム街にいるかもしれないし、プラザホテルのスイートルームにいるかもしれない。」という意味になります。(2017.12.12更新)
(以下、補足:2017.12.12)
この記事はtwitterのフォロワー様のご依頼で執筆したもので、書きあがった後ご連絡を差し上げたところ、次のようなご指摘を頂きました。
ありがとうございました!感激です!
“I’m here. Nowhere.”私はマークに感情移入してみることが多くて、妙に気になるフレーズでした。
他の人々の具体性と対称的で、やはり深い意味で哲学的だったんですね。少し気になったんですが、Plazaはプラザホテルでしょうか。ニューヨークにあるようですし。
— 景 (@key525600) December 6, 2017
『 “Plaza” とはニューヨークにある「プラザホテル」のことではないか?』というご指摘です。
確かに、「広場ににあるスイートルーム」では直訳すぎますよね。「広場のホテルのスイートルーム」という意味で解釈していたのですが、 “The Plaza Hotel(プラザホテル)” という高級ホテルがあり、これを省略したのがこのフレーズ内の “Plaza” だったんですね。
確かに “suite(スイートルーム)” という単語が入っていることからホテルと考えるのが妥当ですし、建設されたのが1907年で、 “RENT” が舞台になっているのは1989年のニューヨークですから、すでに “The Plaza Hotel” は存在します。ということで、これは「プラザホテル」という解釈で間違いないでしょう。
“The Plaza Hotel” は高級ホテル!『ホーム・アローン2』などの映画でも使われているようです。ホームページに “Rooms&Suites(部屋&スイートルーム)” とありますが、かーなーりー良い部屋ですよ!一度泊まってみたいものですね。
※ちなみに、 “plaza” とは「広場、ショッピングセンター」のことを指しますが、先頭が大文字になって “Plaza” となると特定の広場を指すことになります。なので、ある地域に有名な広場があったら “the Plaza(あの広場)” で通じます。これと同じ要領でニューヨークで “the Square” と言えば “Times Square(タイムズ・スクエア)” を指しますよ。( “square” も日本語にすると「広場」です。)
ジョアンとモーリーン
ジョアンとモーリーンは会話が入ることでよりリアルに近況が伝わってきますね。その後の歌に入りやすくなっている効果もあると言えるでしょう。
- Maureen and Joanne are rehearsing.
- JOANNE:I said once more from the top!
- MAUREEN:I said no!
- That is, if they’re speaking this week.
ここはそんなに難しい内容ではありませんね。ジョアンとモーリーンの台詞部分にいずれも “I said ~” とありますが、本来なくても良いです。つまり、 “Once more from the top!” 、 “No!” でも良い訳です。しかしあえて “I said ~” となることで、「私はこう言っている」という主張が強くなります。
最後の “That is, if they’re speaking this week.” は少し表現が難しいですが、「それが今週2人が話していること」といった意味合いです。
従って、「モーリーンとジョアンはリハーサル中。『もう一度頭からって言ってるでしょ!』『嫌だって言ってるでしょ!』それが、今週の2人の会話。」といった具合です。
マークの近況
それぞれみな忙しくしているボヘミアンカップル達ですが、それではマークの近況はどうなのか。
一通り仲間の近況を報告した後に言うマークの台詞は “Me?” ですが、これはそのまま「僕?」ですね。「僕はどうなのか…だって?」というニュアンスです。
そしてこの一連の流れの中で一番説明が難しいのがそれに続く “I’m here. Nowhere.” です。
シンプルに言いましょう。
“I’m here.” は「僕はここにいる」で、そのままです。そして、その “here(ここ)” とはどんな所なのか…それが “nowhere(どこでもない場所)” です。
とっても深く、哲学的。
ボヘミアンは誰かの傍という意味であっても、具体的な場所という意味であっても、皆どこかにいます。
一方のマークはどうか。誰のもとにもおらず、目的があってどこか明確な場所にいる訳ではない…そんなことを全てひっくるめたのが、この “I’m here. Nowhere.” に凝縮されていると言えます。つまり精神的にも肉体的にもどことも言えない場所にいる…ということになるでしょう。
つまり、私が考える一連の流れ・ニュアンスはこうです。
- ロジャーはミミの所に行ってもう2週間ほど。でも未だベニーに嫉妬しているし、相変わらずギターを売って街へ経つと言っている。
- コリンズとエンジェルは行方知れず。スラム街にいるかもしれないし、良いホテルにいるかもしれないし…それは神様だけが知っている。
- モーリーンとジョアンはリハーサル中。会話することがあるとすれば「最初からだって」「嫌よ」…とそんなことばかり。
- じゃあ僕は…だって?僕はここにいる。どことも言えないこの場所に。
いかがでしたか?
この “I’m here. Nowhere.” はそれまでの全体の流れをくんだ上でより深さが発揮されるフレーズだということが分かりましたね。
ボヘミアンたちのバレンタインの日を想像しながら、マークの心境・近況にも注目して頂きたいシーンです。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。