東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “La Vie Boheme” の英語歌詞を見てみると、難しい単語の羅列ばかりで何のことを歌っているのかさっぱり分かりません…
ここではそんな難しい単語を1つずつ解説しながら、内容を掘り下げていこうと思います。今回はロジャー、エンジェル、コリンズの紹介と、ミミとロジャーの会話についてです。
ボヘミアンの意味については、こちらの記事をご覧ください。
また “La Vie Boheme” の歌詞解説については、こちらの記事をご覧くださいね。
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目次
各自を紹介
前回に続き、ボヘミアン達がボヘミアン達を紹介している内容へと変わっていきます。ここではロジャー、エンジェル、コリンズの3人が紹介されていますよ。歌詞から見ていきましょう。
MARK:
Roger will attempt to write a bittersweet, evocative song.
(ROGER picks up a guitar and plays Musetta’s Theme.)
That doesn’t remind us of “Musetta’s Waltz”COLLINS:
Angel Dumott Schunard will now model the latest fall fashions from Paris
While accompanying herself on the 10 gallon plastic pickle tub.ANGEL:
And Collins will recount his exploits as an anarchist —
Including the successful reprogramming of the M.I.T.virtual realityequipment
To self-destruct, as it broadcast the words:ALL:
“Actual reality — Act Up — Fight AIDS”BENNY:
Check!!(BENNY exits. Lights on MIMI and ROGER.)
―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:Jonathan Larson & Billy Aronson)
ここ、ナンセンスなことばかり書かれているので、意味を理解したところで「???」と思ってしまうでしょうが、ボヘミアンにとって「ナンセンス」などありません!
早速1人ずつ見ていきましょう。
マークが紹介するロジャー
まずはロジャーの紹介から。
- Roger will attempt to write a bittersweet, evocative song … ロジャーはほろ苦く喚情的な曲を書こうと試みています。
- (ROGER picks up a guitar and plays Musetta’s Theme.) … (ロジャーはギターを取り出し「ムゼッタのテーマ」を弾く。)
- That doesn’t remind us of “Musetta’s Waltz“ … 決して「ムゼッタのワルツ」を思い起こさせるものではありません
う~ん、ここは少し解釈が難しいですね。まず「ムゼッタのワルツ」は『RENT』の元になっているオペラ『ラ・ボエーム』の中に出てくる曲の1つです。
ほろ苦い曲を書こうとしているけど、『RENT』の元になっている曲を思い起こさせるような曲を書こうとしているわけではありません…というようなことを言っているのだと思います。
「ムゼッタのワルツ」については、次の動画と歌詞をご覧くださいね。
コリンズが紹介するエンジェル
お次はエンジェルです。これは容易に理解できる内容ですよ。
- Angel Dumott Schunard will now model the latest fall fashions from Paris … エンジェル・ダモット・シャナードは、パリで最新の、秋のファッションをお見せします
- While accompanying herself on the 10 gallon plastic pickle tub … 10ガロンのプラスチックの漬物桶で伴奏をしながら
最新のファッションとポリバケツで登場…といったところですね。ガロンとは堆積の単位で、イギリスでは約4.5リットル、アメリカでは約3.8リットルだそうです。『RENT』はアメリカが舞台ですから、10ガロンとは約38リットル!随分大きいですが、いつもエンジェルが叩いているあのサイズ観なんでしょう。
エンジェルが紹介するコリンズ
- And Collins will recount his exploits as an anarchist … そしてコリンズは無政府主義者としての、彼の偉業詳しく話します
- Including the successful reprogramming of the M.I.T. virtual reality equipment … その中にはマサチューセッツ工科大学の、バーチャルリアリティ(仮想現実)機器の再プログラムに成功したことも含みます
- To self-destruct, as it broadcast the words … それは自己破産を起こし、このような言葉を放送するものでした
- “Actual reality — Act Up — Fight AIDS” … 「実在現実、Act Up、エイズと闘え」
“Actual reality – Act Up – Fight AIDS” の意味
さて、個々の紹介は済みましたが、最後の一文が気になるところです。 “Fight AIDS” は文字通り「エイズと闘え」で良いのですが、それ以外の、
- Actual reality
- Act Up
に着目してみましょう。
Actual realityとは
まず、 “Actual reality” という言葉はないんですね。これは “virtual reality” の反対の言葉です。「virtual…仮想」なのに対して「actual…実在」です。パソコンの世界は “virtual” 、でもAIDSは “actual” ですよね。こうやって比較することで、エイズとは現実に今、存在するものなんだということを強調しているんです。
そもそも “actual” も “reality” も「実際に存在をする」という意味ですから、 “actual reality(実在現実)” というのは言葉としても不思議なんですよね。日本語でも違和感があると思います。「実在する」という意味を続けて使っていることに、強い意味を感じますし、またこの流れで “virtual reality” と対比しているあたりが、歌詞として非常に高度だなと感じました。
Act Upとは
それでは “Act Up” とはどうでしょうか?普通に文章として読めば、次のような意味になります。
- act up … あばれる、ふざける、調子が悪くなる
しかし、歌詞中にはそれぞれの単語の先頭が “Act Up” のように大文字になっていました。となると、何か別の意味があるのではないか…と気になったんですね。それで調べてみると、あったんです。ACT UPという団体が。それがどういう団体かというと…
- ACT UP…AIDS Coalition to Unleash Power
直訳すると、「力を解放するエイズ連合」という意味になるでしょう。どんな団体なのかというと、こういう説明がありました。
アクトアップは、1980年代よりHIV陽性者の権利拡大運動の象徴的存在として活動を展開している。
同団体は、1987年、ニューヨークで劇作家ラリー・クレイマー Larry Kramer の演説に触発された人々が集まり結成された。結成から2週間後、ニューヨークの金融街であるウォール街で、当時から高額だったエイズ治療薬やアメリカ食品医薬品局 Food and Drug Administration FDA に対する抗議運動を行った。こうした動きは、米国メディアに広く取り上げられ、アクトアップはサンフランシスコなどの米国国内の各都市で組織され、さらには世界へと広がっていった。
アクトアップは、HIV陽性者、HIV/AIDS研究、そして大手製薬会社の関係を変え、さらにはエイズ患者と医療従事者の関係も変える、重要な功績を残した。アクトアップは米国国立衛生研究所 National Institutes of Health NIH に対して、エイズ研究にもっと投資するよう働きかけ、この結果、エイズの治療薬の認可が加速された。また、アクトアップは政治的にも非常に活動的であり、そのターゲットは共和党レーガン政権、マス・メディア、反同性愛を唱える宗教指導者たちなどに広く及んだ。
ー「アクトアップ」設立から20年(グローバル・エイズ・アップデート)
へー!すごい団体ですね。エイズの障害となっている高額だった治療薬に対して、真正面から抗議し、世の中の動きを変えたんです。
この “AIDS Coalition to Unleash Power” の略である “ACT UP” と、問題に対して行動を起こすという意味での “act up” がかかっているのかもしれないですね。
すごい、とにかくすごい。調べてみるものです。ちなみにACT UPのホープページは次のようですよ。
そして、ベニーは “Check!(会計!)” と声を張り上げます。もう、この場にいても収拾がつかない。注文されたものの全てを支払おうと、出ていってしまいます。彼にしてみれば、こんな理解不能な場所にはもういられないですし、そもそもMr.グレイが愛想をつかして出て行ってしまいましたから。ベニーにしてみたら大迷惑です。
ミミとロジャーの会話
さて、ここまで来たらもうこの曲も終盤です。高らかにエイズと闘うことを掲げたところで、スポットはミミとロジャーに向けられます。
MIMI:
Excuse me — did I do something wrong?
I get invited — then ignored — all night longROGER:
I’ve been trying — I’m not lying
No one’s perfect. I’ve got baggageMIMI:
Life’s too short, babe, time is flying
I’m looking for baggage that goes with mineROGER:
I should tell, you —MIMI:
I’ve got baggage tooROGER:
I should tell you —MIMI:
I got baggage, tooROGER:
I should tell you —BOTH:
Baggage – wine —OTHERS:
And beer!(Several beepers sound. Each turns off his or her beeper.)
MIMI:
AZT break(MIMI, ROGER, ANGEL, and COLLINS take pills.)
ROGER:
You?MIMI:
Me. You?ROGER:
Mimi―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:JJonathan Larson & Billy Aronson)
このシーン、良いですよね…冷たく張りつめていたものが、緩んでじんわりと温かくなっていく感じ。 “baggage” とは一般的には「荷物、手荷物」ですが、ここでは「精神的な重荷」のことのようです。
自分には重荷があって…と告白するロジャーですが、ミミの方で自分の重荷と一緒に出来る重荷を探しているわ…と返します。温かいですね、つまり、あなたの重荷を受け入れるということを歌っているんですね。
そんな二人が言っている重荷とは「エイズ」のことでしょう。そんな時にAZTを飲む時間を知らせるアラームが鳴ります。AZTとは抗HIV剤です。
そして、ロジャーとミミは目の前にする相手も自分と同じ「重荷」を抱えていると分かるんですね…。なんと素敵な展開なのでしょうか…どんちゃん騒ぎから一転、しっとりと場面が変わるこの展開、最高です。
いかがでしたか?
以上で “La Vie Boheme” の解説は以上です!長かったですねー、でも大分理解頂けたのではないでしょうか?分からなくなったらいつでも読み返してみてくださいね!
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。