東宝ミュージカル『ヘアスプレー(Hairspray)』より “(The Legend Of) Miss Baltimore Crabs” の英語歌詞を見てみると、この曲には4つの曲調が登場することが分かります。
4つの曲調とは何で、何故この曲に取り入れられているのでしょうか。
4つの曲調は、次の通りです。
- チャチャチャ(cha-cha-cha)
- ルンバ(rumba)
- マンボ(mambo)
- ツイスト(twist)
これらの曲調は、全てキューバ起源のラテン音楽で、黒人奴隷と強い関係にありますよ。
※この曲は、映画『ヘアスプレー』の歌詞を参考にしています。
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目次
“(The Legend Of) Miss Baltimore Crabs”に登場する、4つの曲調
チャチャチャ
“(The Legend Of) Miss Baltimore Crabs” の歌い出しは、ヴェルマのこの歌詞から始まります。
Front step, cha-cha-cha
Back step, cha-cha-cha
Side step, front step
Back, and turn―ブロードウェイミュージカル “Hairspray” より “(The Legend of) Miss Baltimore Crabs” (作詞:Scott Wittman and Marc Shaiman)
チャチャチャとは、次のような曲調です。
ルンバ
オーディションを始める時、ヴェルマは女子達に受験者を集めに行かせ、男子達には「ルンバを踊りましょう」と誘います。
Girls, go get ‘em.
Boys, let’s rumba.
One, two, three, four, five, six, seven―ブロードウェイミュージカル “Hairspray” より “(The Legend of) Miss Baltimore Crabs” (作詞:Scott Wittman and Marc Shaiman)
ルンバとは、次のような曲調です。
- キューバのアフリカ系住民の間から生まれたラテン音楽
- 1930年代にアメリカ経由で広まった
- 正しい名称は「ソン(son)」。アメリカで “song” と混同しないよう「ルンバ」と記された。(本来ソンとルンバは別物)
- キューバに奴隷として連れられてきたアフリカ系民によって成立した音楽・ダンス
◆参考:ルンバ(wikipedia)
マンボ
オーディションが始まり、トレイシー達が踊るシーンで「マンボ」が登場します。
Twist, twist, twist, twist.
Mashed potato, mambo―ブロードウェイミュージカル “Hairspray” より “(The Legend of) Miss Baltimore Crabs” (作詞:Scott Wittman and Marc Shaiman)
マンボとは、次のような曲調です。
ツイスト
先のシーンで「ツイスト」も登場していますね。
Twist, twist, twist, twist.
Mashed potato, mambo―ブロードウェイミュージカル “Hairspray” より “(The Legend of) Miss Baltimore Crabs” (作詞:Scott Wittman and Marc Shaiman)
ツイストは、どのような曲調なのでしょうか?
4つの曲調が暗に示していること
「黒人音楽」を使っている皮肉
お気付きの方もいらっしゃるとおもいますが、この4曲調には共通点があります。
- ラテン音楽である
- 1930年代~1960年代に流行
- キューバの黒人奴隷・アフリカ系移民の音楽がルーツ
キューバは歴史的に、アフリカから連れてこられた黒人奴隷が多くいました。
また、黒人の移民も多いためこういった音楽文化が定着し、時を経てアメリカ本土に渡ったのですね。
“(The Legend Of) Miss Baltimore Crabs” を歌うヴェルマは、人種差別の激しい女性で黒人を鼻から嫌っています。
しかし、そんな彼女が歌う曲に黒人音楽が入るということは、ヴェルマに対する最大の皮肉と言えるでしょう。
そういう意味で、意図的にこれらの曲調が使われたのではないかと、私は考えています。
「時代遅れ」という皮肉
また、トレイシーや娘のアンバーが生きているのは1960年代であるにも関わらず、ヴェルマ自身は自分が「ミス・ボルチモア・カニ」の栄光に輝いた1930年代から離れることのできない、時代遅れの女性です。
その証拠に、映画ではアンバーがこう言っています。
Mother, wake up from that dream of yours, this isn’t 1930
―ブロードウェイミュージカル “Hairspray” より “(The Legend of) Miss Baltimore Crabs” (作詞:Scott Wittman and Marc Shaiman)
ちょっと意訳して訳すならこうですね。
- お母様、いい加減目を覚ましてよ。今はもう1930年じゃないのよ。
それでも過去に引っ張られ続けるヴェルマですが、そんな彼女が男子達に「一緒に踊りましょう」と誘うのが、先にも紹介した「ルンバ」。
このルンバは1930年代にアメリカ経由で広まった音楽とありましたから、彼女が「ルンバ」を選んだこと自体もとても時代遅れだと言えます。
そして、もともと「ルンバ」は主張のあったダンスのようですから、ダンスの歴史的背景を知らずに流行りだけを追っている辺りも、ヴェルマの人間的薄さを表現しているように思えます。
しかし、ルンバの舞台が街頭から劇場やスタジオに移るとともに、即興を排してよりコンパクトに洗練された形に定型化していった。
ルンバの持つエネルギーは維持しつつも、個人的な愛や社会批判など、下層階級のダンスとしてのアイデンティティは失われつつある。
―ルンバ(wikipedia)
ずっと気になっていた「ルンバ」や「マンボ」ですが、調べてみたことで意外な発見がありました。
曲調は文化や歴史が如実に表れるので、ミュージカルを観る時は着目してみてくださいね。
ちなみに、曲調という意味ではこちらも興味深いので、是非併せてご覧くださいね。
“(The Legend Of) Miss Baltimore Crabs” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。