ミュージカル映画『ヘアスプレー(Hairspray)』より “I Know Where I’ve Been” のシーンを見てみると、デモに参加をした黒人やトレイシーが色々な種類のプラカードを手に持っていることが分かります。
全8種類あるこのプラカードですが、それぞれ何と書かれているかご存知ですか?
プラカードは、短い言葉で強い主張が書かれているものです。
その上、言葉1つ1つに皮肉、ユーモア、そしてセンスが光ります。
黒人差別により、テレビ番組に出られない多くの黒人の子どもたちを考えながら見ていきましょう。
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目次
プラカードに書かれている内容
まず、どんな種類があるか紹介します。
数えてみると全部で8種類あることが分かりました。
- LET OUR CHILDREN DANCE
- BLACK and WHITE UNITE
- BLACK AND WHITE ITS OUTTA SIGHT
- INTEGRATION NOW
- INTEGRATION NOT SEGREGATION ※トレイシーが持っているプラカード
- INTEGRATION YES SEGREGATION NO
- TV is BLACK AND WHITE
- DO THE CHECKER BOARD
黒人を意味する “black” 、白人を意味する “white” に加えて、次の単語がよく出てきますね。
- integration … 統合、人種差別の廃止
- segregation … 分離、人種的分離
これを踏まえて、1つずつ意味を見ていきましょう。
文字通りの主張、6種類
let our children dance
これはあまり難しくないですね。
「私たちの子どもたちを踊らせろ」です。
人種差別により黒人の子どもたちが出演できなくなったことに対して、直接的に「踊らせろ!」と抗議しているのです。
black and white unite
“black” と “white” はそれぞれ「黒人」と「白人」を意味します。
“unite” 「一体になる、1つになる」という意味ですから、ここは「黒人と白人が1つに!」という意味のプラカードですね。
black and white is outta sight
これは少し難しいかもしれません。私も初めは「?」となりました。
“outta sight” は “out of sight” を縮めた言い方です。
「見えないところに」という意味で使われることが多いのですが、次のような意味もありました。
- out of sight … 素晴らしい
…となると、ここは「黒人も白人も素晴らしい」という意味のプラカードだと分かります。
「黒人と白人に上下はない、どちらも平等で素晴らしいじゃないか」という訴えが見え隠れしますね。
integration now
これは分かりやすいですね。
“integration” は先にも説明した通り「統合、人種差別の廃止」ですから「今こそ統合(人種差別の廃止)を!」となります。
integration not segregation
これはトレイシーが持っていたプラカードです。
英文通りの語順で訳すと「統合(人種差別の廃止)を 人種差別ではなく」となりますが、このプラカードは “not” の所に下線が入っていますので “not” が強調されています。
他にも “and” に下線が入っているものもありますが、それも強調を意味しています。
integration yes segregation no
これも先程と意味はほぼ同じです。
“yes” は賛成、 “no” は反対と解釈しますので「人種差別の廃止に賛成 人種差別は反対」となります。
ここまでで6種類です。
文字に隠された主張、2種類
TV is black and white
6種類のプラカードは文字通りに理解できる内容ですが、残りの2つは比喩に加えて皮肉が入っており、プラカードとしてとても印象深いものになっています。
私はこれら2つのプラカードを見た時に、ただただ感銘を受けてしましました。
“TV is black and white” 文章的には一番分かりやすく、直訳すると「テレビは黒白だ」となります。
この作品の時代はテレビがカラーでなくモノクロ(黒白)でしたから、事実、テレビは黒白です。
しかし何故、あえてプラカードにそれを書くのか?実はこれ、とてもエッジの利いた主張になっているのです。
この文章には裏の意味あります。
- TV …テレビ番組
- black and white … 黒人と白人
ここに書かれている主張は「テレビ番組は黒人と白人で構成されている」ということなのです。
分かりやすく言うならば、プラカードにはこういうことが書かれています。
テレビは黒白(モノクロ)だ!
だから、出演者だって黒白(黒人と白人)のはずだろ!
このミュージカルで、一番的確でユーモアのあるプラカードだなと思います。
do the checker board
最後の1枚はこれ。これも好きですね。
“checker board” とは「チェスボード」のようなもので、チェッカーはオセロのようなゲームです。
ここで気付いて頂きたいことはその色について。
チェスボードは何色ですか?オセロは何色ですか?言うまでもなく「黒と白」ですよね。
このプラカードの意味は「オセロをやってみろ」。
オセロは、黒色と白色の駒がなければ成立しないゲーム。白色だけでは成立しません。つまり、それぞれの色が共存しなければプレイすることが出来ないゲームです。
それに人種的差別的意味を加えるとどうなるでしょうか?
- オセロをやってみろ!
- 白だけじゃ成立しないだろ?
- 黒と白が共存して初めて初めて成り立つように、我々黒人と白人だって共存するべきなんだ!
なかなか味のある、粋なプラカードだと思いませんか?
身近にあるものに例えて訴える。プラカードの極みです。
プラカードには言葉のセンスが必要
プラカードは短い言葉で自分の主張を表現し、かつインパクトを与えるものでもあるので、言葉のセンスが必要です。
アメリカの大統領選でドナルド・トランプが勝利した時、トランプを支持していなかったレディ・ガガは、次のようなプラカードを手にしていました。
“LOVE Trumps Hate”
(愛は憎しみに勝つ)―Lady GAGA
ここで言う “trump” とはトランプ大統領のことではなく、次の意味として使っています。
- trump … ~を負かす、~に勝つ
トランプ大統領の名前と同じ単語を使い、このプラカードで抗議したんですね。
レディ・ガガらしい皮肉とセンスの入り混じったプラカード。
このようにプラカードは少ない単語だからこそ、インパクトを与え強烈なメッセージを残します。
プラカードを掲げることは、訴えを受け入れられない現実があるということですから、目にすることはとても辛く、胸が苦しいものです。
しかし、そこには人間が選び抜いた言葉の数々が凝縮されています。
是非ニュースなどで見る機会があれば、1つ1つのプラカードを気にしてみてみて下さいね。
ミュージカル『ヘアスプレー』は、1960年代にアメリカで行われていた黒人差別撤廃運動をモデルにした作品です。
ボルチモアと黒人の関係や「コーニー・コリンズ・ショー」のモデルになっている「バディ・ディーン・ショー」を理解することで、作品の理解度も変わります。
是非、知識を深めて鑑賞してくださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。