“Hedwig’s Lament”で歌われる、ヘドウィグの嘆き

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』より “Hedwig’s Lament” の英語歌詞を見てみると、ヘドウィグの嘆きが歌われていることが分かります。

短い歌詞の中で、ヘドウィグが何を嘆き悲しんでいるのか見ていきましょう。

※こちらの記事をお読みいただくと、より理解が深まります。是非、事前にお読みください!

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の解説・考察本を執筆しました!

ヘドウィグが探し求めた「カタワレ」とは?何故「ベルリンの壁」が登場するのか?「愛の起源」を解説しながら、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の中毒性に迫る考察本。

台本と映画を踏まえてながら、プラトンの『饗宴』に影響を受けた「愛の起源」、ドイツの歴史、旧約聖書「アダムとイヴ」の3つの視点から作品に切り込んだ1冊。

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Hedwig’s Lament” は、3ブロックで構成されています。

 

I was born on the other side
Of a town ripped in two
And no matter how hard I’ve tried
I end up black and blue

I rose from off of the doctor’s slab
I lost a piece of my heart
Now everyone gets to take a stab
They cut me up into parts

I gave a piece to my mother
I gave a piece to my man
I gave a piece to the rock star
He took the good stuff and ran

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Hedwig’s Lament”(作詞:Stephen Trask)

 

意味を1つずつ見ていきましょう。

第1ブロックでは、ヘドウィグがどのような環境で育ったかが歌われています。

 

  • 私は生まれたの
  • 2つに切り裂かれた反対側の街で
  • そしてどんなに努力しても
  • 青黒いアザが残って終わった

 

ヘドウィグが生まれたのは、ベルリンの壁の東側・旧東ドイツ

次の記事でも解説している通り、ヘドウィグが旧東ベルリン生まれであることは重要な1つの要素で不自由さを象徴するものとなっています。

 

「2つに切り裂かれた街」はベルリンで、ベルリンの壁によって2つに分かれてしまったことを意味しています。

ベルリン東西を占領していた国は次の通りですが、旧東ドイツを「反対側」と表現する理由は、ヘドウィグがアメリカでこの曲を歌っているからです。

アメリカ人から見れば、自国が占領していなかった東ドイツは、壁を隔てた「反対側」だということですね。

 

  • 自由主義陣営に属するドイツ連邦共和国(西ドイツ):イギリス、アメリカ合衆国、フランス
  • 社会主義陣営に属するドイツ民主共和国(東ドイツ):ソ連

 

共産主義体制下にあった東ドイツは、住民の自由を阻み、抑圧し続ける政権下にありました。

実際、壁を越えて西へ逃れようとする人々が撃ち殺される事態が起きていたことを踏まえれば、努力を重ねて自由を勝ち取ろうとしても、ねじ伏せられていたことが容易に想像できます。

 

ヘドウィグはロックスターになる夢を追って渡米を決意し、そのために性別適合手術を受け身体的に女性になった上で、恋人のアメリカ軍人・ルーサーと結婚することにします。

しかし、その手術が失敗。これについて、第2ブロックで歌われています。

 

  • 私が医者の手術台から起き上がると
  • 心の一部を失くしてしまった
  • 今やみんなが寄ってたかって
  • 私のことを切り刻むの

 

手術の失敗によって1インチの男性器が残ってしまったことは他の曲でも歌われていますが、ここではそれと同時に心の一部を失ったのだと歌われています

自由を求めたヘドウィグは、身体だけではなく、心にもしこりを残ってしまったのだと分かります。

 

「切り刻む」という表現は、本作の中核を担う「愛の起源」を踏まえると、理解が深まります。

「愛の起源」は、人間の身体が切り裂かれたことで孤独となり、カタワレを探し求め、愛し合うことになったという思想です。

※詳しくは次の記事をご覧ください。

 

このように切り裂かれた人間のイメージに重ねるように「切り刻む(cut me up into parts)」という表現が使われていますが、ここでは、男女いずれとも言い難い存在・ヘドウィグを罵る言葉や行動が心を切り刻む…というイメージと捉えて良いでしょう。

ヘドウィグの愛に満ちた心は、手術台から起き上がった直後から刻まれ続け、今では欠片しか残っていないような状態であることが、第3ブロックで分かります。

 

  • 私は母親に(愛の)一部を与えた
  • 私は私の男に(愛の)一部を与えた
  • 私はあのロックスターに(愛の)一部を与えた
  • そして彼は私の良いものをとって逃げていったのよ

 

私の男とは元夫・ルーサー、元彼・ロックスターとはトミーのことです。

自由を求めるたびに引き裂かれていく愛。それをヘドウィッグは嘆いているのです。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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