“Exquisite Corpse”は、ある芸術手法でヘドウィッグの身体を賛美した曲

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』より “Exquisite Corpse” の英語歌詞を見てみると、ヘドウィグの身体を「優美な屍骸」という1つの芸術表現で賛美していることが分かります。

Exquisite Corpse” とは「優美な屍骸」のこと。

ヘドウィグの身体優美な屍骸の関係性を見ていきましょう。

※こちらの記事をお読みいただくと、より理解が深まります。是非、事前にお読みください!

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“Exquisite Corpse”は「優美な屍骸」という芸術表現の1つ

 

曲の解説に入る前に、まず「優美な死骸(Exquisite Corpse)」について押さえましょう。「優美な死骸」とは、次のようなものです:

 

  • シュルレアリスムにおける作品の共同制作の手法
  • 複数の人間で制作するが、制作メンバーがどのようなものを制作しているかを知ることなしに、自分のパートだけを制作する
  • 絵画の場合、紙を4つに折り曲げ、他の3人が何を描いたか見えないように折ったまま、自分のパートのみを描く。4人が描いた時点で、紙を広げれば、完成した絵を見ることができる。

 

このような制作手法をとることによって、個々の共同制作者の誰も予想できなかったような、意外な作品が完成します。

これは、シュルレアリスムにおける「集団の意思の重視」という思想と親近性を持ち、文章や詩でも行われるようですが、”Exquisite Corpse” では絵画的表現の視点で歌われているので、絵画における「優美な死骸」をイメージしながら、歌詞を見ていきましょう。

 

ヘドウィグの身体はツギハギ

 

Exquisite Corpse” の1曲前の “Hedwig’s Lament” では、ヘドウィッグは自由と愛を求めるたびに、心が刻まれていく辛さを嘆いていました。

 

Exquisite Corpse” はその流れを受けていますが、この曲の行きつく先を事前にお伝えすると「切り刻まれたその身体は、なんて素敵な芸術作品(優美な死骸)なんだ」という展開で終わります。

冒頭で歌われているのは、現在のヘドウィグの身体がどのような状態かです。

 

[HEDWIG] Oh God, I’m all sewn up
A hardened razor-cut
Scar map across my body
And you can trace the lines
Through misery’s designs
That map across my body

[HEDWIG with ENSEMBLE] A collage!
All sewn up
A montage!
All sewn up

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Exquisite Corpse”(作詞:Stephen Trask)

 

意味はこうなります。

 

  • ああ神様、私は全身縫われている
  • 固くなったカミソリの傷口
  • 全身を巡る傷口の地図
  • あなたはなぞることができるわ
  • 悲惨を表すデザインを
  • 私の全身を巡る傷口の地図の
  • まさにコラージュのよう
  • 全身縫い合わされて
  • まさにモンタージュのよう
  • 全身縫い合わされて

 

性別適合手術の失敗によって中途半端に男性器が残ってしまった結果、人を素直に愛せず、また愛されず、傷付き続けたヘドウィグ

そんな悲しみに満ちたヘドウィグの傷が身体中を巡っている様子が、歌詞から見てとれます。

そして自身の身体を皮肉交じりに「コラージュ」や「モンタージュ」だと叫びます。

 

 

「切り刻む」という表現は、次の記事で解説している通り『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の重要な要素「愛の起源」に関係するものです。

人間が傲慢になり神々によって切り裂かれた結果、人は孤独になり、カタワレを探し求めて、愛を育むようになったことが「愛の起源(始まり)」だと “The Origin of Love” で歌われます。

 

次のパートは「神々に切り裂かれた」という発想を受けて、バラバラになってしまったパーツ(カタワレ)が集合体を成し、非常に不気味な姿かたちになってしまったことが分かります。

 

[ENSEMBLE] A random pattern with a needle and thread
The overlapping way diseases are spread through
Tornado body with a hand grenade head
And the legs are two lovers entwined

[HEDWIG with ENSEMBLE] Inside I’m hollowed out
Outside a paper shroud
And all the rest’s illusion
That there’s a will and soul
That we can wrest control
From chaos and confusion

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Exquisite Corpse”(作詞:Stephen Trask)

 

その姿とは次のようなものです。

 

  • ランダムな布地と、針と糸
  • 重なり合うところでは病気が広まり
  • 非難に満ちた身体と手りゅう弾の頭に
  • そして絡み合う恋人の脚でできた脚
  • 内側は空洞になっていて
  • 外側は紙で覆われ
  • それ以外は全部錯覚
  • そこには意志と魂がある
  • 我々が混沌と混乱から支配権を奪い取ることのできる(望みと魂が)

 

見た目には凄まじく感じられますが、後半の「空洞」「紙で覆われて」「全部錯覚」の部分では「見た目など虚無なものでしかない」といった雰囲気が伝わり、重きを置くべきはその中に存在する「意志」と「魂」だということが伝わってきます。

これは、ヘドウィッグ自身の生き方を示すものですね。

そして最後に歌われるのは、その身体は美しいのだということ。

 

[HEDWIG with ENSEMBLE] The automatist’s undoing
The whole world starts unscrewing
As time collapses and space warps, oh
You see decay and ruin
I tell you “No, no, no, no
You make such an exquisite corpse,” oh yeah

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Exquisite Corpse”(作詞:Stephen Trask)

 

意味はこうです。

 

  • 全自動主義者は破滅
  • 全世界がネジを緩め始めている
  • 時間が崩れとか空間がゆがむと
  • 君は崩壊と破滅を見るだけ
  • 私は君に言うよ「いやいや、
  • 君はなんて素敵な芸術作品(優美な死骸)なんだ」ってね

 

自分の心と身体の葛藤を、芸術の手法になぞらえて表現し、自らを受け入れていく姿が感じられる曲ですね。

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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