Netflix に『セックス・エデュケーション(Sex Education)』というオリジナル・ドラマがあります。
このドラマの「シーズン1・エピソード5」で、主人公・オーティスが親友・エリックの誕生日に、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』のチケットをプレゼントします。
しかし、これを境に2人が仲違いし最悪な状況になってしまいます。
最終的には仲直りする2人ですが、オーティスがエリックにプレゼントしたミュージカルが『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』であった意義、そして描かれていることを解説・考察していきます。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の解説・考察本を執筆しました!
ヘドウィグが探し求めた「カタワレ」とは?何故「ベルリンの壁」が登場するのか?「愛の起源」を解説しながら、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の中毒性に迫る考察本。
台本と映画を踏まえてながら、プラトンの『饗宴』に影響を受けた「愛の起源」、ドイツの歴史、旧約聖書「アダムとイヴ」の3つの視点から作品に切り込んだ1冊。
Kindle(電子書籍)、ペーパーバック(紙書籍)、いずれも Amazon で販売中。
Kindle Unlimitedを初めてご利用の方は、体験期間中に0円で読書可能!
目次
『セックス・エデュケーション』とは
Netflix オリジナルの「性教育ドラマ」
Netflix オリジナル・ドラマに『セックス・エデュケーション(Sex Education)』があります。
話題を呼んだこの作品は「性教育」を軸にしたドラマで、固定概念や偏見にまみれた「セックス」や「ジェンダー」を非常に丁寧かつコミカルに描いています。
主人公は男子高校生・オーティス。
セックス・セラピストである母親を持ち、セックスや生殖器に対する知識は人一倍持っているものの、自身はあるトラウマからセックス経験がありません。
影の薄いオーティスですが、ある日ひょんなことから同級生にセックス・セラピーをしたところ、大成功。
彼の才能に目をつけた同級生の女子高校生・メイヴから、お金稼ぎのために「一緒に学校でセックス・セラピーをやらないか」と持ち掛けられ、あらゆるセックスのかたちを軸にしながら、学園生活が描かれていきます。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が登場するシーン
誕生日プレゼントのチケット
オーティスには親友・エリックがいました。エリックは陽気な性格のゲイです。
2人は長年の親友で、お互いのことは良く理解していました。
そんなエリックの誕生日にオーティスがサプライズでプレゼントしたのが、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のチケットです。
2人で観に行くために、チケット2枚分を用意したオーティスに飛びついて喜ぶエリックは、シーズン1・エピソード5で目にすることができます。
学校から帰宅し、2人共作品の主人公・ヘドウィグに扮してバス停で待ち合わせる予定でした。
彼らが住んでいるのはイギリスの田舎町。
ミュージカルが観られる都心まで行くには、1時間に1本程度しか来ないバスに乗って行くしかありませんでした。
しかしオーティスが待ち合わせ場所に向かう途中「ある女子生徒から受けた相談(女性器の画像流出)の犯人が見つかりそうだ」と、メイヴに呼び止められます。
約束があると断るオーティスですが「画像流出がどれ程の事態か理解しているのか」と押され、メイヴと寄り道したところ、あと一歩というところでバスに乗り遅れてしまいます。
バス車内から叫ぶヘドウィグ姿のエリック、バスを全力で追いかけるヘドウィグ姿のオーティスが印象的です。
仲違いする2人
オーティスと連絡を取り合うも、オーティスから上演に間に合わないことを伝えられ、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を観る気を失うエリック。
このまま自宅へ帰ろうとバスへ向かおうとしたところ、自分の鞄がなくなっていることに気付きます。一瞬の隙をつかれて、スリに遭ったのです。
財布もなければ携帯電話もなく、ひたすら歩くエリック…しかし、ようやく町に戻って来た辺りで、そのルックスをバカにされボコボコに。
近くの人々に助けを求めるも、そこで全てがボロボロとあふれ出てしまいます。
一方、オーティスは無事に事件解決。
帰宅すると無残な姿のエリックが。しかし、事件が解決して興奮冷めやらぬオーティスは、謝罪もそこそこに自分の話をし始めます。
そんな態度に頭に来たエリックは、オーティスなど親友ではないと、足早に自宅へ帰ります。
エリックにとって、最悪の誕生日です。
仲直りする2人
しばらくの間、険悪な状況が続く2人。
謝るタイミングを失ってしまったオーティスでしたが、そんな2人が仲直りするのがプロムの日です。
「自分のあり方」にずっと思い悩んできたエリックは、もっと自分らしいファッションでいたいと考えてきました。
このプロムでそれを実践しようと試みたエリックは、自分の理想とするファッションで、ひとりプロムに出向きます。
エリックが会場について間もなく流れる『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の “The Origin of Love(意味:愛の起源)”。
「大好きな曲だ…」呟くエリック。エリックを見つけるオーティス。
2人は会場の中心で和解し、踊り、親友に戻ります。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』とは
エリックが好きなミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は、どのような作品なのでしょうか?
『セックス・エデュケーション』での描かれ方を理解する上で、最低限知っておくべき展開は次の通りです。
- ヘドウィグ(本名:ハンセル)は共産主義体制下の東ドイツで生まれた少年
- ある日アメリカ軍人と恋に落ち、自分はゲイであることを自覚
- 恋に落ちた相手と結婚して渡米するために、性別適合手術を受ける
- しかし手術は失敗し、股間に1インチ(約2.5センチ)の手術痕が残ってしまう
- 渡米に成功するも、結婚生活は1年程で解消
- ヘドウィグは少年の頃夢見ていたロック歌手の活動を始める
- ロック活動の過程で2人の人間に恋をするが、いずれも上手くいかない
- 上手くいかないのはセックスが出来ない、自分の身体のせいだと考えるヘドウィグ
- 「愛の起源(The Origin of Love)」について考え、自身には必ず「自分のカタワレとなる存在がいるはずだ」と探し続けるヘドウィグ
- しかし恋した相手に「カタワレなどいない、自分自身で完全体なのではないか」と気付かされ、自分自身を受け入れていく
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が『セックス・エデュケーション』で登場する意義
では『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が登場する意義について考えてみましょう。
私は次のように考えおり、主にエリックとヘドウィグの共通点を『セックス・エデュケーション』ならではの視点で描いているところに重要性を感じています。
- 仲違いした2人が元に戻ること
- 「愛」について考えさせること
- エリックが自分自身を生きていること
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は、”The Origin of Love(意味:愛の起源)” を軸に自分を満たすカタワレを探し続ける物語です。
そしてこの作品における「カタワレ」とは、いわゆる「恋愛」の延長線上にある「愛」で、性行為はその愛に伴うものとして描かれています。
しかし、エリックとオーティスの場合は「恋愛」や「性行為」が絡むことのない関係性。
それでも2人が仲直りする直前に “The Origin of Love(意味:愛の起源)” が流れることは、「愛の起源」に対して、次のような関係に生じる「愛」も解釈に加えてたのではないかと考えています。
- 親友
- 兄弟
- 家族
- シスターフッド
- ブラザーフッド
また、最終的に自分自身の身体を受け入れて生きることを決めるヘドウィグと、例え周囲に理解されなくとも、ありたい自分を出すことを決意したエリックの姿は重なります。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は難しいと思われがちな作品ですが、その中に描かれる哲学に触れると、非常に奥が深く考えさせられる作品です。(曲も良い!)
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の解説・考察は、記事最後に紹介している本でまとめているので、興味のある方は是非お読みくださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。