「愛の起源」とヘドウィグが探し続ける「カタワレ」の関係性

 
こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん@performingart2)です。

ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』より “The Origin of Love” の英語歌詞を見てみると、ヘドウィグの考える「愛とは何か」がよく分かります。

本作の中核を担う概念「愛の起源」。しっかり押さえておきましょう。

※こちらの記事をお読みいただくと、より理解が深まります。是非、事前にお読みください!

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「愛の起源」とは何か

 

「愛の起源」とは “The Origin of Love” の訳で「愛はどのようにして始まったのか」を意味しています。

曲自体も愛の起源を歌う内容になっていますが、その概念は哲学者・プラトンの『饗宴』に書かれている内容が元になっています

 

 


『饗宴』は、あらゆる人物がお酒の席で「愛」をテーマに演説を行う物語で、約1センチの厚みしかない本ですが、非常に内容の濃い1冊です。

数ある演説のうち、古代アテナイの喜劇詩人・風刺詩人であるアリストパネス(アリストファネス)が説いた説が、”The Origin of Love” で歌われています。

The Origin of Love” を理解する上で重要なのは、アリストパネスが説いている次の2点です。

 

  1. 人間の本性(原形)
  2. その経緯

 

これらが『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で描かれる「性別」、「愛のカタチ」そして「ヘドウィグが探し求めるカタワレ」と直結しています。

歌詞を分解しながら詳しく見ていきましょう。

 

人間の本性(原形)

人間はかつて球体であった

 

アリストパネスが説いている「人間の本性(原形)」において注目すべきは、人間にはかつて球状だったという点です。

 

[HEDWIG]
When the Earth was still flat
And clouds made of fire
And mountains stretched up to the sky
Sometimes higher
Folks roamed the Earth like big rollin’ kegs
They had two sets of arms
They had two sets of legs
They had two faces peering out of one giant head
So they could watch all around them as they
Talked while they read
And they never knew nothing of love
It was before
The origin of love

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “The Origin of Love”(作詞:Stephen Trask)

 

歌詞の意味を見てみましょう。

 

  • 地球がまだ平らで、雲が火を作り、山が空に伸び、むしろ空よりも高くそびえたっていた頃
  • 人々は地球を樽のようにくるくると回転しながら動き回っていた
  • 彼らには4本の腕、4本の脚、1つの頭蓋骨に、2つの顔があった
  • だから彼らは全方向見渡すことができ、読みながら会話ができた
  • そして愛については何も知らなかった
  • それは愛の起源(始まり)よりも前のことなんだ

 

アリストパネスによれば、人間はかつて色付き部分のような姿かたちをしていたと言います。

また『饗宴』に書かれていることを補足すると、性器も2つ持っていたそうです。

 

人間にはかつて3つの性があった

 

球体の人間には3つの性があった…と説いているのも印象的です。

 

[HEDWIG]
And there was three sexes then
One that looked like two men glued up back-to-back
Called the

[HEDWIG with YITZHAK & ENSEMBLE]
Children of the Sun

[HEDWIG]
And similar in shape and girth
Was the children of the Earth
They looked like two girls

[HEDWIG with YITZHAK & ENSEMBLE]
Rolled up in one

[HEDWIG]
And the children of the Moon
Looked like a fork shoved on a spoon
They were

[HEDWIG with YITZHAK]
Part Sun, part Earth, part daughter, part son

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “The Origin of Love”(作詞:Stephen Trask)

 

意味はこうです。

 

  • かつでは3つの性があった
  • 男性2人が背中合わせになったような存在は「太陽の子」と呼ばれていた
  • そして似たような姿かたちをした存在は「地球の子」で
  • 2人の女性が背中合わせにしたような状態だった
  • そして「月の子」は先割れスプーンのようで
  • 部分的に太陽で、地球で、娘で、息子のような存在だった

 

つまり、今の人間が背中合わせになり、胴体が球状になっているような身体を持っていたことになり、それぞれの性器を持ち合わせた、3種類の性が存在していたことになります。

 

  • 太陽の子 … 男性×男性
  • 地球の子 … 女性×女性
  • 月の子 … 男性×女性

 

ここで月の子を「先割れスプーン」と表現することにセンスを感じます。

先割れスプーンは、スプーンとフォークの両方の特徴を持った食器ですが、どちらつかずな存在の象徴でもあります。こういった理由から正式な食事には向かないと、日本の学校給食では使用が避けられているようです。

アリストパネス自身は「月の子」に対してマイナスイメージを含んだ表現はしていませんが、”The Origin of Love” ではヘドウィグを印象付ける存在となるため、皮肉めいた表現になっていると考えられます。

なお、人間が球体だったのは親(太陽、地球、月)に似たからだと『饗宴』では説明されています。

 

人間が今の姿となった経緯

 

では、何故人間は今のような姿になったのでしょうか?それは神々の怒りをかったためでした。

まず、次の歌詞を見てみましょう。

 

Now the gods grew quite scared
Of our strength and defiance
And Thor said, “I’m gonna kill them all with my hammer
Like I killed the giants.”
But Zeus said, “No, you better let me
Use my lightening like scissors

[HEDWIG with YITZHAK]
Like I cut the legs off the whales

[HEDWIG]
And dinosaurs into lizards.”
And then he grabbed up some bolts
He let out a laugh

[HEDWIG with YITZHAK]
Said, “I’ll split them right down the middle
Gonna cut them right up in half.”

[HEDWIG]
And the storm clouds gathered above
Into great balls of fire

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “The Origin of Love”(作詞:Stephen Trask)

 

ここでは次のようなことが歌われています。

 

  • ある日神々は人間の強さと反抗心を恐れたので
  • 雷神・トールは「巨人たちを殺したように、奴ら全員を俺のハンマーで殺してやる」と言った
  • しかし全知全能の神・ゼウスは「それはいけない、代わりに私の稲妻をはさみのように使わせなさい。私が鯨の脚を切り、恐竜をとかげにしたように。」
  • そしてゼウスは稲妻を握りしめ、笑い出した
  • ゼウスは言った「人間を真っ二つに切ってしまおう」
  • そして上空に集まった嵐雲は大きな火の玉になった

 

人間は球状の身体を持ち合わせていたことから、自由に動き回ることが出来たため、次第に力をつけ神々に逆らうようになりました。

そこで、トールとゼウスは人間をどう対処するか話し合います。

ここに登場する2人の神は、それぞれ次のような特徴を持っており、歌われるエピソードに盛り込まれています。

 

  • 雷神・トール … 北欧神話に登場する神。神話の中でも主要な神で神々の敵である巨人と対決する戦神として活躍。
  • 全知全能の神・ゼウス … ギリシア神話の主神で、全知全能の存在。宇宙や天候を支配する天空神であり、人類と神々双方の秩序を守護・支配する神々の王。宇宙を破壊できるほど強力な雷を武器とする。

 

ゼウスは自身の武器である稲妻を人間に振り落とし、背中合わせになったような姿のちょうど真ん中を切り裂いていきます。

歌詞を見てみましょう。

 

[HEDWIG with YITZHAK & ENSEMBLE]
And then fire shot down
From the sky in bolts like shining blades of a knife
And it ripped right through the flesh
Of the children of the Sun and the Moon and the Earth
And some Indian god

[HEDWIG]
Sewed the wound up into a hole
Pulled it round to our belly

[HEDWIG with YITZHAK & ENSEMBLE]
To remind us of the price we paid

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “The Origin of Love”(作詞:Stephen Trask)

 

意味はこうです。

 

  • すると空から電光石火
  • まるで光るナイフのように稲妻が落ちた
  • そしてそれは、太陽と、月と、地球の子の肉体を真っ二つに切り離したのだ
  • いくつかのインドの神々が
  • 傷口をお腹の方に伸ばし縫い合わせた
  • それは我々人間に、過ちを記憶させるための代償として
  • そしてオシリスとナイルの神は大きな竜巻を起こした

 

つまり人間は1つの頭蓋骨、1つの顔、2本の腕、1つの性器という現在の姿かたちとなり、切り裂かれた背中は皮膚を伸ばすことで傷を隠し、お腹まで伸ばされました

皮膚が伸ばされた位置が現在の「へそ」であり、戒めとして今も残っているというのです。

そして我々が再び逆らえば、更に2つに切り裂かれることになっています。

 

 

「愛」とは「人間が1つに戻りたいという欲望」である

 

現在の姿かたちになった人間は「カタワレ」を失った結果、孤独になり「カタワレ」を探し求めるようになりました。

そしてカタワレを見つけ、かつての姿に戻ろうと抱擁するも、元に戻ることは叶わず、孤独のままに亡くなっていきます。

これを憐れんだゼウスは、性器を身体の前に付けることで、次のことを可能としました

 

  • 男性と女性が出会った場合、その喜びに抱擁し、セックスをすることで妊娠ができるようにした
  • 男性が男性と出会った場合、その喜びに抱擁し、欲を鎮めて、日常生活に戻ることができるようにした

 

つまり、カタワレを求め1つに戻ろうとする行為(セックス)「愛の起源(始まり)」と呼び、これは切り裂かれる前には存在しなかった行為・感情なのです。

これについて、ヘドウィッグは次のように歌っています。

 

[HEDWIG]
Last time I saw you we just split in two
You were looking at me, I was looking at you
You had a way so familiar, I could not recognize
‘Cause you had blood on your face, I had blood in my eyes
But I could swear by your expression
That the pain down in your soul
Was the same as the one down in mine
Oh, that’s the pain
That cuts a

[HEDWIG with YITZHAK & ENSEMBLE]
Straight line down through the heart

[HEDWIG]
We call it love
We wrapped our arms around each other
Trying to shove ourselves back together
We were making love

―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “The Origin of Love”(作詞:Stephen Trask)

 

意味はこうです。

 

  • あなたは私を見つめていて、私はあなたを見つめていた
  • 私は気付かなかったけれど、あなたは私ととても似ていた
  • 何故ならあなたは顔に血がついていて、私は目に血が付いていたんだから
  • でもあなたの表情に誓って言えるのは
  • あなたの魂の奥底にある痛みは、私の奥底にあるそれと同じ
  • それがあの痛みなの
  • あの時真っ二つに切られた心臓の痛みに由来するものなの
  • それを我々人間は愛と呼び
  • お互いを抱擁するようになった
  • かつての姿かたちに戻れるようにと
  • 愛を育んでいたのよ

 

どこか無意識的に惹かれ合うのは、自分が探し求めていたカタワレかもしれないから。そしてカタワレを思う時に胸が痛むのは、神々に切り裂かれた時の傷が由来するから。

球状の人間だった時には感じることのなかったこの痛みと行為を『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』では”The Origin of Love(愛の起源)” と呼んでいるのです。


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それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん@performingart2)でした。