ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』より “Angry Inch” の英語歌詞を見てみると、「怒りの1インチ(Angry Inch)」とは何かが分かります。
「怒りの1インチ」とは、性別適合手術をしたヘドウィグの股間に残った1インチ(約2.5センチ)の手術痕のこと。
この存在によって、男女いずれとも言い切れない身体となったヘドウィグですが、それはどのような過程で出来たものなのかを見ていきましょう。
※こちらの記事をお読みいただくと、より理解が深まります。是非、事前にお読みください!
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自由を求めた結果、残ったもの
サビ以外では、ハンセルがヘドウィグになり、どのように渡米したかが歌われています。
ヘドウィグは抑圧によって住民から自由を奪っていた、旧東ドイツの出身でした。
自由を求め、前進しようとした自身をこのように歌っています。
[HEDWIG] I’m from the land where you still hear the cries
I had to get out, had to sever all ties
I changed my name and assumed a disguise
I got an angry inch(中略)
The train is coming and I’m tied to the track
I try to get up but I can’t get no slack
I got an angry Inch, angry Inch―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Angry Inch”(作詞:Stephen Trask)
意味はこうです。
- 私は未だに泣き声が聞こえる国の出身
- 私は飛び出す必要があった、縛られている全ての縄を切って
- 私は名前を変えて、変装した
- でも私には「怒りの1インチ」が残っていた
- (中略)
- 電車がやってくるけど、私は線路に縛られている
- 起き上がろうとするけれど、縄は緩まない
ちなみに “I’m tied to the track” の “track” には「線路」以外に次のような意味があります。
- track … 追跡、困難な旅
ヘドウィグの渡米は、逃げれば追われる困難な旅であることも匂わせられているように感じます。
手術直後のことを、ヘドウィグはこのように歌っています。
[HEDWIG, spoken] Yeah, long story short
When I woke up from the operation
I was bleeding down there
I was bleeding from the gash between my legs
My first day as a woman
And already it’s that time of the month
Two days later, the hole closed up, the wound healed
And I was left with a one inch mound of flesh
Where my penis used to be, where my vagina never was
It was a one inch mound of flesh
With a scar running down it like a sideways grimace
On an eyeless face
It was just a little bulge
It was an angry inch―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Angry Inch”(作詞:Stephen Trask)
意味はこうです。
- 手短にね
- 手術台から起き上がったら
- 出血していたの
- 股間にできた深い傷から出血していたのよ
- 女性としての初日ってわけ
- しかもその月の生理初日だったのよ
- 2日後、穴は閉じて、傷は癒え、
- 1インチのこんももりとした肉体が残ったのよ
- 私のペニス(男性器)があった場所に、ヴァギナ(女性器)ができることはなく
- 1インチのこんももりとした肉体が残ったのよ
- そこに残る傷口は、まるでに目のない顔が放つ軽蔑的なまなざしのしかめっ面よ
- それは小さな男性器
- それは「怒りの1センチ」
手術失敗後の出血を「生理初日」と、いずれの性器でもなくなった股間の塊を「人々が送る軽蔑顔」のように表現しているところが、かなりの皮肉ですね。
また、4行目の “gash” とは「長く深い傷」のことですが、次のような意味もあります。
- gash … 女性器、セックスの対象としての女
手術直後は「女性器」のようなものだった股間の傷が、2日後にはヘドウィグの葛藤の原因となったわけですね。
Angry Inch(アングリーインチ)とは「股間に残った手術痕」のこと
ハンセル(ヘドウィグ)は、自由とロックスターになる夢を手に入れるために、結婚することで渡米することを決意します。
結婚相手はアメリカ軍人・ルーサー。
ゲイのハンセルは母親に顔が似ていたことから、母親の名前・ヘドウィグをもらい、性別適合手術を受け、心身共に女性になることを目指しますが、手術が失敗。
結果、ヘドウィグの股間には「怒りの1インチ」が残ってしまいます。
これについて、ヘドウィグは次のように歌っており、サビになっています。
[HEDWIG] My sex-change operation got botched
My guardian angel fell asleep on the watch
Now all I got is a Barbie Doll-crotch
I got an angry inch [HEDWIG with ENSEMBLE] Six inches forward and five inches back
I got a—
I got an angry inch―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Angry Inch”(作詞:Stephen Trask)
意味はこうです。
- 私の性別適合手術は失敗
- 私の守護霊は監視中に居眠りしてしまった
- 私がいま持ちうるすべてはバービー人形の股みたいなもの
- 私には「怒りの1インチ」が残ったの
- 6インチ突き出ていたものが5インチ引っ込んで
- 「怒りの1インチ」が残った
「バービー人形の股みたいなもの(Barbie Doll-crotch)」とは、「そこにペニスもヴァギナもない」という意味でしょう。
また「6インチ突き出ていたものが5インチ引っ込んで(Six inches forward and five inches back)」は痛烈で、本来無くなるはずのものが中途半端に残ってしまったことを皮肉めいて歌っていることが分かりますね。
ヘドウィグの身体については、”Exquisite Corpse”でも独創的に歌われているので、併せてご覧くださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。