劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「陽ざしの中へ(Out There)」の英語歌詞を見てみると、フロローがカジモドに言い聞かせるように歌っています。
「お前は外の世界では生きていけない、生きてはいけない。」という内容ですが、ここでやりとりされる内容は英語と日本語では微妙に異なってきます。
今回終盤の内容を悦明していきますよ。
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目次
歌詞のおさらい
今回はそれぞれ、次のパートを比較していきますよ。
英語版
Frollo:
Out there
They’ll revile you as a monsterQuasimodo:
I am a monsterFrollo:
Out there
They will hate and scorn and jeerQuasimodo(クァズィモド):
Only a monsterFrollo:
Why invite their curses
And their consternation?
Stay in here
Be faithful to meQuasimodo:
I’m faithfulFrollo:
Be grateful to meQuasimodo:
I’m gratefulFrollo:
Do as I say
Obey
And stay in hereFrollo:
Remember Quasimodo, this is your sanctuary.―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Out There” (作詞:Stephen Schwartz)
劇団四季版
フロロー:
怪物と罵られカジモド:
怪物フロロー:
お前は憎まれるカジモド:
怪物フロロー:
外に出ればつらいだけだ
私に従うのだカジモド:
従うフロロー:
感謝してカジモド:
感謝をフロロー:
言う通りにここにいろカジモド:
言う通りにここにいるフロロー:
ここだけが安全な聖域
お前のサンクチュアリーだカジモド:
僕のサンクチュアリー―劇団四季ミュージカル 『ノートルダムの鐘』 より 「陽ざしの中へ」(訳詞:高橋知伽江)
フロローが英語で歌っていること
外の世界に出たらどうなるか
「世間は残酷で醜く、彼らがわずかな情けをかけない限り醜いお前は理解されない」と教え込んできたフロロー。
そんな彼はカジモドに外の世界に出たらどうなるかを具体的に説明していきます。
“They’ll revile you as a monster” というのは「彼らはお前を怪物と罵るだろう」です。
劇団四季版と全く同じだということが分かりますね。
次の「お前は憎まれる」に当たる部分は意味が異なり、 “They will hate and scorn and jeer(人々はお前を嫌い、軽蔑し、あざけるだろう)” と歌われる部分からは、世の中の残酷さがリアルに伝わっきますよね。
フロローとカジモドで異なる “Out There”
このパートは “Out there” から始まっており、この曲題のフレーズと同じですがこの曲の後半で歌われるカジモドのソロと対照的になっています。
フロローの言う「外の世界(Out there)」とは残酷で醜い世界です。これは事実ですが、そういた部分が全面に出た歌い方をしています。
一方、カジモドの歌う「外の世界」は憧れそのもの。
彼が今まで目にしていた楽しそうで幸せそうな部分が全面に出た歌になっています。
この曲を通して聴くときは、是非こういった点にも気を向けてみましょう。
「怪物」という表現の種類
劇団四季版ではフロローの歌に対してカジモドが2回「怪物」と歌いますが、英語版では2回同じフレーズが繰り返されるのではなく、次のように表現が異なります。
- I am a monster
- Only a monster
1つ目は「自分が怪物のような見た目をしているという自覚」、2つ目は「そういう怪物のような見た目をしているのは僕しかいない」というもので、まるで消え入るように歌われています。
1つの「怪物」という言葉をとっても、その裏にどういう気持ちがあるのかが理解できることで、カジモドの胸の奥を感じることが出来ますね。
逆説的な表現が末恐ろしい
「外に出ればつらいだけだ」の部分は、英語で歌うと逆説的な表現になっています。
- Why invite their curses … 彼らの呪いを招いたらどうだ
- And their consternation? … そして彼らの驚きを
この歌詞に至るまでも、命令ではない言い方でカジモドを諭すように歌ってきたフロローですが、その中でもこのフレーズはじわじわと来ます。
逆説的な表現になっていますが、これを言い換えるのであれば「外に出れば、彼らの呪うような軽蔑と驚きを受けるだけだ」という意味になります。
しかし、これをカジモドの視点から歌い「外へ出てみたらいいじゃないか、そして彼らの呪うような軽蔑と驚きを招いたら良いじゃないか」と歌うことで、より強い印象を残す上に「そんなことはしたくないだろう?」と気持ちを誘導するような展開になっているんですね。
だからフロローはこう歌っているんです。
- Stay in here … ここにとどまっていろ
- Be faithful to me … 私に忠誠を誓いなさい
- Be grateful to me … 私に対して敬意を表しなさい
そうして知らず知らずのうちにフロローに束縛されていくカジモドは、 “I’m faithful(僕は忠誠を誓います)” 、 “I’m grateful(僕は敬意を表する)” と返答しているんですね。
フロローの最後の重い言葉
英語版の歌詞の展開で素晴らしいところは、カジモドに何も強制していない点でしょう。
フロローは何一つとして、理由なしにこれをしろと言ったりはしていません。カジモドに事実を伝え納得させ、自分の思う方向へと誘導していっているのです。
今まで「世間は残酷で醜く、彼らがわずかな情けをかけない限り醜いお前は理解されない」と歌ってきました。
そして「災難が起こると分かっているのに、自分から外に出ようとするか?そんな目にはあいたくないだろう?それであれば、私にの忠誠を誓い、敬意を表しなさい」と続いています。
これに続く最後のフレーズは、その流れの中でも決定的なものです。
- Do as I say … 私の言う通りにしなさい
- Obey … 従い
- And stay in here … そしてここに留まりなさい
とてもソフトに歌いますが、このフレーズでカジモドにとってフロローが絶対的な存在となったことが読み取れます。
そして “Remember Quasimodo, this is your sanctuary.(よく覚えておきなさい、ここがお前にとっての聖域だ)” というフレーズは凄いですよね。
ある種軟禁状態のカジモドにここは「聖域である」と伝え、そう信じさせてしまう要素がたっぷり含まれているところが凄いです。
そして何度も言う通り、フロローの視点は必ずしもウソではありません。
外の世界は残酷ですから、そういった点からみると「聖域」ではあります。
では、カジモドの視点から見たとき、ここは本当に聖域なのかということを考えさせられるのが、この次のカジモドのソロですよ。
是非引き続きお読みくださいね。
「中世ヨーロッパにおける身体障がい者の扱い」や、カジモドと「キリスト教における罪の概念」との関係性は【ミュージカル『ノートルダムの鐘』が現実的な3つの理由:~ 中世の身体障がい者、ジプシー、そして魔女狩り ~】で詳しくまとめています。
中世ヨーロッパのリアルを知ることで、作品の見え方に深みが出ます。読んで視野を広げてみて下さいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。