Tango: Maureen②マークとジョアン、冒頭の会話

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “Tango:Maureen” の英語歌詞を見てみると、冒頭はマークとジョアンの会話で始まっています。

マークはモーリーンの元恋人、ジョアンはモーリーンの現恋人。この2人の修羅場は、どのようなやりとりで始まるのでしょうか?

※この曲がなぜ「タンゴ」なのかという点を考察してみました!こちらの記事を先に読んでいただくと、より理解が深まりますよ。


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歌詞のおさらい

 

さぁ、この曲…私大好きなんです!

タンゴのリズムに刻まれながら、頭のキレる両者が素晴らしい論理展開を繰り広げていきますね。過去の恋人であろうが、今の恋人であろうが、結局モーリーンに振り回されている2人が、なんだかんだいって協力しているのが本当に面白いナンバーです。

マークは元恋人であることからモーリーンのことをよく分かっているのに対して、現恋人のジョアンはまだまだモーリーンを理解しきれていない。それが恋敵であるはずのマークによって少しずつ理解を深めざるを得ないところが笑えます。そんなところに注目しながら見ていきましょう。今回は、歌に入る前のマークとジョアンのやりとりですよ。

 

(The lot. JOANNE is reexamining the cable connections for the umpteenth time.)

MARK:
And so into the abyss…The lot. Where a small stage is partially set up.

JOANNE:
(playing with some wires)
“Line in”…
I went to Harvard for this?

MARK:
Close on Mark’s nose dive.

JOANNE:
“Line out”…

MARK:
Will he get out of here alive…?

(JOANNE notices MARK approaching.)

JOANNE:
Mark?

MARK:
Hi.

JOANNE:
I told her not to call you

MARK:
That’s Maureen
But can I help since I’m here

JOANNE:
I hired an engineer …

MARK:
Great!
Well, nice to have met you

JOANNE:
Wait!
She’s three hours late
The samples won’t delay
But the cable —

MARK:
There’s another way
Say something — anything

JOANNE (into the mike):
Test — one, two three —

MARK:
Anything but that

―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “Tango:Maureen” (作詞:Jonathan Larson)

 

「奈落の底」に落ちて行くマーク

 

“the umpteenth time” とは、例えば “I’m telling you this for the umpteenth time.” のように使って、「何度言ったら分かるの!」という意味になるそう。冒頭ではジョアンが空き倉庫で、ケーブルの接続を確認しているのですが、この作業がもう何度目か分からない…ということを説明しています。

マークの言っている “And so into the abyss…The lot. ” は、「ということで、奈落の底の入り口…空き倉庫にやってきました。」という意味です。 “abyss” には次のような意味があり、マークは自分の恋敵であるジョアンがいることを知っていて、こういう表現をしているんですね。

 

  • abyss … 深いふち、底の知れない深い穴、深い底、混沌(こんとん)、地獄、奈落の底

 

ジョアンの “I went to Harvard for this?” は、ジョアンの気持ちを汲んで訳すと「私、こんなことのためにハーバードに行ったわけ?」でしょうね。優秀でエリートなジョアンが、好きになってしまったモーリーンのためにどんなこともしているという、自虐的な台詞です。

まだマークの存在に気づいていないジョアン。そんな彼女に近づきながら、マークはこう言います。 “Close on Mark’s nose dive” 。これは「マークの急降下にご注目くださいませ」という意味です。 “nose dive” は「鼻からダイブする」様子が文字からイメージできますが、まさにその様子から次の意味になるようです。

 

  • nose dive … (飛行機の)急降下、(価格・利益などの)暴落、急低下

 

先ほど、ジョアンに出会うことを「奈落の底の入り口」と表現していたことを受けての発言ですね。ジョアンを目の前にして、今まさに奈落の底(地獄へ)落ちて行こうとしていることを皮肉めいて言っているのです。それなのに、飄々とこういう表現をしてしまうマークが好きですよ、私は。

その間ジョアンは “Line-in” 、 “Line-out” と言っていますが、これはケーブルの接続に間違いがないか、線を入れてみたり抜いてみたりしている様子。集中してしまってマークには全く気付いていないようですが…。

そしてマークは言います、 “Will he get out of here alive…?(果たして彼はここを、生きて出られるのでしょうか?)” 。そしてジョアンはマークに気付き、徐々に曲が始まっていくという流れ。展開が素晴らしい上に、皮肉やユーモアが利いていてかっこいいですよね!

 

 

意地っ張りなジョアン

 

マークが来たと気づいて、 “I told her not to call you(あなたには電話するなって彼女に伝えたのに)” と嘆くジョアン。元恋人なんかに、お願いするとは、自分の立場がないですもんね。そりゃあ嘆きたくもなります。

それに対して、今までそういった経験を何度もしてきたであろうマークは、 “That’s Maureen. But can I help since I’m here” と返します。 “That’s Moureen.” の “That’s” ですが、これは「あれが」ではありません。「それが」という意味で、訳すなら「それがモーリーン(という女だ)」です。ジョアンの気持ちを汲んでいるんですね。「来たからには手伝うよ」とも言ってくれています。

しかし、プライドの高いジョアンは意地を張り通します。 “I hired an engineer …(エンジニアを雇ってあるから)” ときっぱり返されたので、マークは “Great! Well, nice to have met you.(なるほど!じゃあ、君にお会いできて良かったよ…ってことで)” と、さらっと帰ろうとします。

そう言われてジョアンは慌てて自分の置かれている状況を白状します。 “Wait! She’s three hours late. The samples won’t delay. But the cable.(待って!彼女3時間も遅刻しているの。サンプルを遅らせることはできないし、でもケーブルが…)” 。エリートで賢く、気の強いジョアンがモーリーンにぞっこんで、振り回されていることがよく分かる台詞ですね。

マークは “There’s another way. Say something — anything(他にも方法がある。何か言ってみて、どんなことでも良いから)” と言うと、ジョアンがマイクに向かって言ったのは「テスト 1、2、3」。これを受けてマークは “Anything but that(どんなことでも良いけど、それ以外で。)” と言います。

「テスト 1、2、3」という発声は、マイクテストの基本中の基本。「どんなことでも良い」と言っているのに、超ありきたりなことを言うジョアンに対して、どれだけ真面目でお堅い女なんだよ…と思ったからこそ出た台詞だと思います。

そうして2人の性格が真逆、立場が真逆、でもモーリーンが好きという気持ちだけは同一の2人の歌が始まります。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!