東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “Tango:Morine” の英語歌詞を見てみると、「タンゴ」という曲調が使われた音楽だということが分かります。
しかし、何故この曲は「タンゴ」でなければならなかったのでしょうか?
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「タンゴ」とは?
気になったことはありませんか?この曲が何故「タンゴ」でなければならなかったのか…ということを。
社交ダンスには、他にも様々な種類のダンスがあります。「ワルツ」や「チャチャチャ」だって男女が手を取り合って踊るタイプのダンスですよね。
「ワルツ」や「チャチャチャ」に比べれば、「タンゴ」の方が情熱的な雰囲気があって、エロティックでカッコイイ。しかし、そんなぼやぁっとした理由でこの曲調が選ばれたのではないということが、「タンゴ」について調べるに当たって分かりました。
これを知ったときは、もう、感激で…天にも上る気分でしたね(笑)。着眼点をここに持って良かったと、我ながら感じています。
それではまず、タンゴとはどういう踊りなのかというところから押さえていきましょう。
タンゴは、1880年頃、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスと、ウルグアイの首都モンテビデオに挟まれて流れるラプラタ河が、大西洋にそそぐ河口地帯の両岸で生まれた。
当時、ブエノスアイレスの此の地帯は、新天地を求めて来た移民者がひしめき、雑然とした港町(ボカ地区)であった。
さまざまの人種が共存しているフラストレーションのはけ口として、男同士が酒場で荒々しく踊ったのが、タンゴの始まりである。
次第に、娼婦を相手に踊るようになり、男女で踊るタンゴの原型が出来ていくが、当時の新聞は、酔漢達やならず者が踊る下品な踊り、と非難した。
しかし、タンゴはそうした批判にもかかわらず、ブエノスアイレスやモンテビデオの下層階級を中心に、日増しに人気を得て行った。―アルゼンチンタンゴの歴史(アルゼンチンタンゴダンス協会)
もともとはストレスが溜まった男同士の荒々しい踊り、それが次第に娼婦を相手に踊るようになり、ここにも書いてある通り下品で低俗なイメージのついた踊りであったということですね。しかし、その後人気を博しヨーロッパで洗練されたのが今のタンゴになっているようです。
音楽のリズムとしては2拍子系、3拍子系などがあるようですが、私たちが一般的に耳にして「タンゴだな」と理解できるのは、2拍子系のもので「1・2・1・2」とカウントするときの2の部分に特にアクセントが来るものではないでしょうか。この “Tango:Maureen” もそうですね。
ちなみにタンゴとはこういう感じの踊りです。足さばきがすごい!
「タンゴ」に隠される数々の意味
なるほど、「もともとは荒々しいダンスだったから、何となくこの場面に合うよね」と納得してしまうのなら、それは非常にもったいない。実は、タンゴには隠語も含め色々な意味があるのです!
私はこの記事を書くにあたって、「タンゴには絶対何か裏の意味があるはずだ」と当たりをつけていました。そして調べたところ…やっぱりあったんです。かなり時間を要しましたが、もうこればっかりは根性ですね(笑)。
日本語ばかりで調べていても隠語が載っていなかったので、英語の辞書に頼ることにしました。
・Used in the military to signify target has been located/confirmed.
・A state of mind, aswell as a dance-style which is described as exotic and sensual.
・to participate in the act of sexual activites.
・Argentina’s capital city (Buenos Aires) typical dance…with the rose in the mouth.
・To fight with someone.―(uRbaN DICTIONARY)
“tango” には5つ意味があり、それぞれこのようになっています。
- Used in the military to signify target has been located/confirmed.
→ 軍隊の用語で、ターゲットを見つけた時に使われる - A state of mind, aswell as a dance-style which is described as exotic and sensual.
→ ダンスと同様に、エキゾチックで官能的な心境の時に使われる - to participate in the act of sexual activites.
→ 性的行為をすること - Argentina’s capital city (Buenos Aires) typical dance…with the rose in the mouth.
→ アルゼンチンの首都(ブエノスアイレス)の一般的なダンスで、口にバラをくわえて踊るもの - To fight with someone.
→ 誰かとけんかをすること
「セックス」という意味
色々な意味があることにお気づき頂けたかと思いますが、私が探していたのはこの意味なんです。多分、そういう意味があるのではないかと願い続けていました。そうしたらやっぱりありました。
モーリーンって浮気性ですよね。
次の記事でも説明していますが、他の男に目移りしてしまう以上のことをしてしまう人なんです。
色気があって甘えん坊だから、放っておけなくなるのは当然なんですが、そんなモーリーンの性格を一言で表したのが今回の曲題。つまり、「色々な相手と関係を持つ:モーリーン」ということだと私は解釈しています。
これは余談ですが、タンゴというダンスは「舞台上で行うセックス」などとも呼ばれているらしいですよ。
「けんかをする」という意味
そしてもう1つが、これ。例えば “tango” を使った慣用句があります。
- It takes two to tango … ((米俗)) (けんか・恋愛などについて)一人でできるものではない;(政治で)お互いに譲歩しなければ何もできない.
ここで「あ~!」と思っていただければ本望なのですが、これ、まさにマークとジョアンの状況を表していると言えませんか?
もともと荒々しいダンスのタンゴが口論に見えることから「けんかする」という意味になったのでしょうが、それに加えて2人以上いないとけんかは成り立たないことから「けんかとは1人でできるものではない」という意味の慣用句が出来たんですね。
そういう訳で、モーリーン、ジョアン、マークの3人を “tango” という1つの単語で説明してしまっているのです。ちなみにマークが “Tango:Maureen” と言うところは笑いどころらしいので、あながち間違いではないと思っています。
タンゴの動作に合わせて表現される感情
隠語という視点からは先の2点に注目していただきたいのですが、それ以外にも注目ポイントがあります。それはマークとジョアンが歌う中で出てくるいくつかの単語が、単語の動作にかけているといことです。
タンゴの動作でいうと次の3つの単語はこのような意味になります。
しかし、『レント』の中ではこのような感情として使われているんですね。
いかがですか?奥が深いですよね。
そして、タンゴとは基本的にどちらかがリードするダンスですから、そのリードしている状態から「主導権を握っている」という解釈ができ、モーリーンが主導権を握っている…つまり「(ジョアンもマークも)モーリーンの支配下にある」という意味も “Tango:Maureen” に隠されていると考えています。
こういった隠語があるからこそ、この曲は「タンゴでなくてはならず」、「それ以外の曲調では絶対にダメ」なのです!そんなことを踏まえて、是非歌詞の詳細を見て行ってください!いろいろな発見があるので、深みにはまりすぎないように注意してくださいね!
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。