ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “That Would Be Enough” の英語歌詞を見てみると、エリザベスのハミルトンに対する強い想いが読み取れます。
それはどのようなもので、どのような表現で歌われているのでしょうか?
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歌詞のおさらい
今回はこの曲の終盤を見てみましょう。
We don’t need a legacy
We don’t need money
If I could grant you peace of mind
If you could let me inside your heart…Oh, let me be a part of the narrative
In the story they will write someday
Let this moment be the first chapter:
Where you decide to stay
And I could be enough
And we could be enough
That would be enough―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “That Would Be Enough” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
涙腺崩壊です。もうダメです、号泣です。なんて寛大で、愛の深い女性なのでしょうかエリザベスは…。
留まって欲しい
前回の記事では、色々な表現でハミルトンに生きていて欲しいということをエリザベスは歌っていました。
そしてここからがクライマックスです。
・ We don’t need a legacy … 遺産なんていらない
・ We don’t need money … お金なんていらない
・ If I could grant you peace of mind … もしあなたにやすらぎを与えることができるなら
・ If you could let me inside your heart … 私にあなたの心に入っていくことを許してくれるのなら
もう、言葉がありません…どんな時もハミルトンと共に過ごし、彼を理解しようと努めるエリザベスの姿勢が伺えます。
そしてここが究極。
・ Oh, let me be a part of the narrative … あぁ、私を物語の一部にさせて
・ In the story they will write someday … いつの日か誰かが書く物語の
・ Let this moment be the first chapter … そしてこの瞬間を第一章にさせて
・ Where you decide to stay … あなたが留まると決めた場面を
何と素晴らしい表現なのでしょうか?
ハミルトンがいずれ歴史に名を残すことを見越した表現になっており、その上で「もう戦争には行かず、ここに残ると英断して欲しい」というエリザベスの強い気持ちが描かれているこの表現は、この曲になくてはならないものだと感じます。
そうして最後は諭しでこう締めくくられるんですね。
・ And I could be enough … それで私は満足できるの
・ And we could be enough … それで私たちは満足できるの
・ That would be enough … それで十分なの
“Satisfied” との比較
さて、歌詞の解説は以上ですが、どうしても伝えたいことがあります。それはこの曲とアンジェリカの歌う “Satisfied” との関係性です。
以前、 “Helpless” と “Satisfied” の曲は対比していると説明しました。 “Helpless” は「エリザベスがハミルトンに一目惚れをし、彼に恋をした高鳴る感情を歌った曲」で、 “Satisfied” は「ハミルトンに一目惚れをしたアンジェリカが、妹の気持ちに気付き自分の恋する気持ちを抑えた曲」です。
これと同じように、 “Satisfied” と “That Would Be Enough” は対比していると私は考えています。
“Satisfied” はアンジェリカが歌う歌で、曲題は「満足している」という意味ですが、歌われているのは「これで満足しようと努めている」内容で実際のところは満足してはいないのです。ハミルトンはアンジェリカに対して「僕たちは似ている、お互い満足の出来ない人間だ」と伝えていますが、彼女もそれを自覚しています。そこで分かるのが、ハミルトンもアンジェリカも気高く、向上心があり、満足することなく追及してしまう危うさがあるということです。
しかし一方の “That Would Be Enough” はまるで逆です。「たったそれで十分」というささやかなエリザベスの気持ちが凝縮された曲になっており、満足することのないハミルトンに対して「今の幸せを享受しよう」と何度も繰り返し諭す内容になっています。それと共に姉のアンジェリカとはやはり性格が異なるということも見せられています。
これらの曲の展開と対比は非常に素晴らしく、かつ分かりやすく観客を物語に誘うかたちになっており、さすがだなとただただ感心するばかりです。是非この点にも着目しながら歌詞を見てみてくださいね。
“That Would Be Enough” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。