ミュージカル『オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)』には、オークションの品物を始め、観客の記憶に残る小道具が多く登場します。
原作にはオークションのシーンがないので、ミュージカルに登場する品々は原作からインスピレーションを受けたものがほとんどです。
登場する品々にどのような背景があるか、考察したことをまとめます。
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オークション
原作は、著者であるガストン・ルルーが「オペラ座の怪事件」のリサーチをするという展開で物語が始まります。
そのためオークションのシーンはありませんが、ルルーがリサーチの過程で見聞きした内容が、オークションの品々には散りばめられています。
『ハンニバル』のポスター
原作において『ハンニバル』の上演シーンはありますが、ポスターが登場することがありません。
ポスターを落札するのはラウル。
クリスティーヌが初めて名声を手にした作品ですが、その成功を勝ち取るまで、声楽の手ほどきは怪人から受けていた…という背景を含めて、思い入れの深いひと品だと言えるでしょう。
3つの骸骨と拳銃
オペラ演目の小道具として出品される1品ですが、これは原作には登場しません。
ラウルではなく、別の人物が落札します。
これは原作において、怪人によって眠らされた3人の男と、ペルシア人とラウルが持っていた拳銃からインスピレーションを受けたものだと思われます。
怪人はオペラ座の地下にある地底湖を渡った薄暗いところに住んでおり、到達するにはボートを渡るしかありません。
しかし、実はそれ以外にも方法があります。
それが『ラホール王』のセットの間から侵入するというもので、ジョセフ・ビュケが首を吊られることになった場所に当たります。
恐らくビュケはその付近にいたことから怪人に殺されたのだと推測できますが、怪人の過去を知り、地下を知り尽くしているペルシア人は、怪人に狙われぬようボートではなく、ラウルとこの場所からの侵入を試みます。
クリスティーヌを探しにペルシア人とラウルがここ到着するまでの間、2人はそれぞれ拳銃を持っており、いつでも撃てるように構えていますが、その過程で眠らされた3人の男を発見します。
ミュージカルではラウルにとって思い入れのある品ではありませんが、原作ではラウルにとって緊張が走るシーンとして描かれています。
猿のオルゴール
オークションでは、地下から発掘されたひと品として紹介されます。
ラウル自身が地下へ行った時は目に留まりませんでしたが、その後クリスティーヌから話を聞いてその存在を知っていたのでしょう。
ラウルが落札した後、過去に思いを馳せ、歌いますね。
「猿のオルゴール」は原作には一切登場しませんが、詳しい考察はこちらの記事をご覧ください。
シャンデリア
原作にもミュージカルにも登場し、怪人が自身の力を見せつけたひと品。
原作では、5番ボックス席でカルロッタ主演の公演を観ていた新支配人2人は、ひき蛙のような声で歌ったカルロッタを目にした後、背後に怪人の気配を感じます。
そして彼がこう言うのを耳にします。
今夜の彼女はシャンデリアがはずれるほどの声で歌っている!
ー『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー著、三輪秀彦訳(p.147)
そしてそれは、支配人の関係者で観客の頭上に落ち、死者を1名出すこととなります。
これにより、怪人の力がオペラ座の人間に示されることとなります。
怪人の指輪
怪人の指輪は左小指につけられており、クライマックスでクリスティーヌの左薬指にはめられます。
指輪がはめられる指の意味に焦点を当てると、非常に興味深いので、ここに引用します。
まず、怪人の左小指から。
- チャンスを呼びこむ
- 恋を引き寄せる
- 変化とチャンスの象徴
恋人が欲しい人や、現状を変えたいと思っている人は左手の小指に!
そして、クリスティーヌの左薬指。
- 愛を深める
- 絆を深める
- 願い事を叶える
恋をしているときは、寝ている時だけつけても効果的と言われています。
怪人の視点から考えた時、例えそれが強引であったとしても「恋を引き寄せる」形から「愛・絆を深める」形に変わっていったのだ…と分かりますね。
最終的にはクリスティーヌによって返却されますが、これは決して「怪人を愛せない」という意味ではないでしょう。
互いの間にあるのは、指輪1つで縛るような、不自由なものではないと、私は感じています。
ちなみに原作では、怪人がクリスティーヌに「私が埋葬されたら、指輪を私にはめてくれ」と頼まれたため、怪人の死後に返却されるという展開です。
ガストン・ルルーが死体を発見した時に、怪人の死体と分かったのは、このためです。
ポスターに描かれる「仮面」と「バラ」
ミュージカル『オペラ座の怪人』のポスターには仮面とバラが描かれています。
ポスターを見た時に感じたのは「バラは何を意味しているのだろうか」ということでした。
原作にはラウルがクリスティーヌの父親の墓地を訪れた際に次ような描写がありますが、このシーンはミュージカルには登場しません。
花崗岩の墓石の上に置かれ、白い土の上にまであふれている花々の鮮やかな色調に気づいた。それらの花はブルターニュの冬のなかで凍てついていた一角を芳香で満たしていた。その驚くほど赤いバラの花々は、雪のなかで今朝咲いたように見えた。そこでは死がいたるところに満ち溢れていたので、その花々は死者たちのなかに存在する数少ない生命と言えた。
ー『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー著、三輪秀彦訳(p.105)
ここでミュージカルの演出を思い返すと、ラウルが初めてクリスティーヌの楽屋を訪れる時にバラを1輪持っていきます。(『オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン』において)
この点から考えると、次のように考えられます。
- 仮面 … 怪人
- バラ … ラウル
つまり、クリスティーヌを巡る2人の男性の存在、言い換えればクリスティーヌがそれぞれに与えた別々の愛の形を示しているのではないかと考えています。
いかがでしたか?
ぜひあなたも、あなたなりの考察を楽しんでみてくださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。