劇団四季ミュージカル『ウィキッド(WICKED)』より “I’m Not That Girl(私じゃない)” の英語歌詞を見てみると、 “that girl” とか “that boy” というふうに歌われているだけで、それぞれを示す名前が出てくることはありません。
もちろん、それぞれが「グリンダ」と「フィエロ」を示すということは歌詞を読めば分かるのですが、名前を言わないことが、この恋の歌をより切なくしています。
ちょっとした単語の違いがもたらすこの曲の奥深さを、ここではご説明します。
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「私じゃない」で描かれる「恋」とは
この曲はエルファバの心境を歌っており、前半ではフィエロに対してエルファバの体全体がどんな反応を示しているかが表現されています。
恋とはまさにこういうこと…きっと、あなたもこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか…?
英語歌詞でどんなことが書かれているかは、次の記事で説明しているのでご覧くださいね。
「私じゃない」で描かれる「グリンダ」とは
そして後半では、自分の恋心にも気付きながらも、フィエロとグリンダがお似合いだということを歌っています。
自分が持たない全ての事をグリンダは持っている…そんなことを歌っているんですね。
エルファバから見たグリンダがどんな女の子なのかを歌ったフレーズについては、次の記事をご覧ください。
“that girl” がもたらす意味
それでは本題に入ります。まずは “I’m Not That Girl(私じゃない)” の冒頭のブロックを見てみましょう。
Hands touch, eyes meet
Sudden silence, sudden heat
Hearts leap in a giddy whirl
He could be that boy
But I’m not that girl―ブロードウェイミュージカル “Wicked” より “I’m Not That Girl” (作詞:Stephen Schwartz)
最後の2行に注目して下さい。 “that boy” と “that girl” と表現されていることが分かりますね。
thatというのは、「あの」とか「あれ」という意味を指しますが、ここで使われているthatは、具体的に目に見えているものを指した表現ではありません。
このシーンでのthat boyとは、「エルファバが頭の中で描いている恋の相手(フィエロ)」や「心の中で抱いている恋の相手(フィエロ)」を指すので、目に見えるものではないんですね。
that girlについてもそうです。エルファバの頭の中で「フィエロが恋の相手として思い描いてている女の子」や「フィエロが恋の相手として思い描いている女の子」を指しているのがthat girlになります。
エルファバはそれに該当する女の子ではないので、 “I’m not that girl(それは私ではない)” となります。だからこそ、日本語訳では「私じゃない」となるわけですね。
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切なすぎる “the girl” に含まれる意味
ちなみに、1箇所だけ “that girl” ではなく “the girl” になっているところがあります。その部分を抜き取りますね。
Blithe smile, lithe limb
She who’s winsome, she wins him
Gold hair with a gentle curl
That’s the girl he chose
And Heaven knows
I’m not that girl―ブロードウェイミュージカル “Wicked” より “I’m Not That Girl” (作詞:Stephen Schwartz)
thatとは「あの」とか「あれ」という意味で、何かを特定する時に使われるthe(その、それ)と似ていますが、thatの方が空間的距離が少しあります。
theはthatに比べて距離感が近いですし、ニュアンス的にも特定の度合いを高めています。
that girlが「その子」なのに対して、the girlは「まさにその子」と訳すと分かりやすいでしょう。
何となくぼんやりしていたイメージが、 “That’s the girl he chose(フィエロが選ぶのは、まさにこの子)” の部分で、確固たるものになったという…空気感が伝わってきます。
しかも、この1回でしか使わないことで、切実さが伝わってきますね。
誰もが、誰かの特定の人になりたがる…それが恋。
そんな切なくて甘酸っぱい感情を、見事theとthatを使い分けて歌詞にしていると言えるでしょう。
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ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。