劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「エスメラルダ(Esmeralda)」英語歌詞を見てみると、後半で “fleurs-de-lis” という見慣れない単語が登場します。
読み方は「フルール・ド・リス」。一体どういう意味で何を指しているのでしょうか?
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サビパートは「炎」の描写に注目
「エスメラルダ(Esmeralda)」は、エスメラルダを魔女扱いしたフロローが「ジプシーのエスメラルダを捕らえろ」と命令を下す内容の曲です。
また曲の中盤では、エスメラルダに恋をしたフィーバスがフロローの命令に背いたことから「ジプシー(エスメラルダ)と軍人(フィーバス)を捕らえろ」といった内容に変わっていきます。
どちらの内容もサビパートで歌われ「奴らを捕らえるまでは、松明を掲げ続けろ!」という内容になっていますね。
例えば、最初のサビはこうなっています。(2つ目のサビは “the gypsy Esmeralda” が “the gypsy and the soldier” に変わるだけなので、意味はほとんど変わりません。)
Hunt down the gypsy Esmeralda
Don’t let her flee
And vanish in the night
These are the flames of Esmeralda
While she is free
Our torches will burn bright…―ミュージカル“The Hunchback of Notre Dame”より “Esmeralda”(作詞:Stephen Schwartz)
意味はこうです。
- ジプシーのエスメラルダを捕らえろ
- 彼女を逃し
- 彼女が夜に消え入ることのないように
- これらはエスメラルダの炎だ
- 彼女の身が自由なうちは
- 松明が明るく輝き続ける
では “fleurs-de-lis(フルール・ド・リス)” がどこで登場するのかというと、この曲最後のサビで登場します。(引用の色付きは、あきかんによる。)
QUASIMODO, FROLLO, PHOEBUS, SOLDIERS & CONGREGATION:
Where is the girl called Esmeralda?
The flames grow tall
And sharp as fleurs-de-lis―ミュージカル“The Hunchback of Notre Dame”より “Esmeralda”(作詞:Stephen Schwartz)
意味はこうです。
- エスメラルダという名の少女はどこだ?
- 炎は上がる、高く
- そしてフルール・ド・リスのように鋭く
このようにサビに注目すると、歌詞では「松明に掲げる炎」に「エスメラルダ」を関連付けて歌っていることに気付きますね。
また “fleurs-de-lis” 直後の歌詞は “All Paris burns for Esmeralda” となっていますが、1、2つ目サビの “burn” と3つ目サビの “burn” では意味が異なります。
1、2つ目は「燃える」ですが、3つ目は “burn for ~” で「しきりに~を求める」という意味で「パリ中がエスメラルダを必死に探し求めている」という意味になります。
“burn” という単語を用いた言葉遊び、言葉選びが面白いですね。
また、フロローは「地獄の炎(Hellfire)」で、自分を乱したのはエスメラルダが「火種だ」とも歌っていますから、曲構成としても素晴らしい展開になっていると言えるでしょう。
“fleurs-de-lis(フルール・ド・リス)” とは
フランスにおける「権威」を示すマーク
では「フルール・ド・リス」とは何なのでしょうか?
「フルール・ド・リス」とは、アイリスの形をしたフランスの紋章で、王権的・政治的意味合いを強く持つマークです。
フランス作品に触れると、お目にかかることが多いのではないでしょうか。
フルール・ド・リス(仏語:fleur-de-lis もしくは fleur-de-lys)は、アヤメ(アイリス)の花を様式化した意匠を指す。特に紋章の場合は政治的、王権的、芸術的、表象的、象徴的な意味をも持つが、現代においてもフランスに関わる政治的・表象的・象徴的意味合いが強い。
―フルール・ド・リス(wikipedia)
つまりこのマークは権威性があり、フランスを強く象徴付けるものだと分かります。
そのため「炎」をフルール・ド・リスで表現するということは、間接的にエスメラルダをフランスの象徴で表現していることになるわけです。
フランスにおける「烙印」の役割も
しかし、ここで疑問が湧きませんか?
エスメラルダは、ジプシーです。特にフロローの立場で考えれば、忌み嫌う相手です。
そんな相手をフランスの象徴的なマークで表現するというのは、不自然だと感じませんか?
不自然…というよりも、自分がフロローだったら、このような気高い表現は用いないでしょう。
そんなことを考えている時、こんな説明書きを発見しました。犯罪者にフルール・ド・リスの烙印を押すと言うのです。
フルール・ド・リスは、現代のフィクションに歴史的、神秘的なテーマ性を付与している。例えば、ベストセラー小説「ダ・ヴィンチ・コード」や、シオン修道会について述べた他の作品などに顕著である。しかし、フランス文学ではつとに繰り返し現れているもので、著名なものにヴィクトル・ユーゴーの「ノートルダム・ド・パリ」、デュマの「三銃士」などがあり、犯罪者にフルール・ド・リスの烙印を押すという古い習慣(フランス語でFleurdeliser)が出てくる。
―フルール・ド・リス(wikipedia)
これがどういうことなのか調べてみると、ようやく腑に落ちました。
- 犯罪者にフルール・ド・リスの烙印を押すことで、王家の所有物を意味していた。
つまり、フルール・ド・リスはプラスの意味でもマイナスの意味でも、フランスの王権・権威性を示すものだということなんです。
そう考えるとフルール・ド・リスが登場するあのサビの歌詞は、なかなか奥が深い。
「フルール・ド・リスのように高く鋭く上がる炎」とは、具体的にどういう感情が込められた歌詞なのか…。
想像の余地がありそうですね。
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。