東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “La Vie Boheme” の英語歌詞を見てみると、難しい単語の羅列ばかりで何のことを歌っているのかさっぱり分かりません…
ここではそんな難しい単語を1つずつ解説しながら、内容を掘り下げていこうと思います。今回はミミがベニーに「こんな奴らとつるむな…」と話をしているパートをご紹介します。
ボヘミアンの意味については、こちらの記事をご覧ください。
また “La Vie Boheme” の歌詞解説については、こちらの記事をご覧くださいね。
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目次
ベニー、モーリーンへ反撃
前回の記事で「ライフ・カフェに来ているのは、モーリーンの祝杯にくるためさ」とうまいことを言っていたベニー。それに対して “Go to hell(地獄へ落ちろ)” と言ったモーリーンに、彼はこう返します。
BENNY:
Was the yuppie scum stomped
Not counting the homeless
How many tickets weren’t comped―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:Jonathan Larson & Billy Aronson)
ここは1行目と2、3行目に分けると分かりやすいですよ。 “yuppie” というのは、
- young urban professionals(YUP) … 米国の,第二次大戦後に生まれた都会派エリート
を指しているのだと思われます。それをバカにして “yuppie(ヤッピー)” と呼んでいます。それに “scum(人間のくず、人間のかす)” がついています。エリートとはベニーのことですから、意味としては「人間のくずのエリートは踏みにじられたってことか」という意味になりそうです。モーリーンの “Go to hell” に反発する発言ですね。
そして残りの2行はモーリーンに対する挑発です。「ホームレスの分は数えないで、チケットはどれだけ売れなかった?」ですね。あまり反響が良くなかったことを知ってのこの発言です。
“Alison” と言い直した理由
私の見解
その後ロジャーが発言し始めています。
ROGER:
Why did Muffy —BENNY:
AlisonROGER:
Miss the show?BENNY:
There was a death in the family
If you must knowANGEL:
Who died?BENNY:
Our AkitaBENNY, MARK, ANGEL, COLLINS:
Evita―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:Jonathan Larson & Billy Aronson)
間にベニーが “Alison” と割って入っていますよね。これはどういうことなのでしょうか?まず、ロジャーは本来、
- Why did Muffy miss the show? … どうしてマフィーはショーに来られなかったんだ?
と言いたかったんですね。でも “Muffy” の直後にベニーが “Alison” と言い直していることから、恐らく “Muffy = Alison” なのであろうと想像が付きます。では何故、言い直す必要があったのでしょうか?
“muffy” は先ほどの “yuppie” 同様、 “muff” を冷やかしたような言い方ですから “muff” の意味を調べてみました。すると該当しそうないくつかの意味を持っていました。
- 〔防寒具の〕マフ◆女性が手を入れるためのもので、毛皮製で円筒形をしている。(英辞郎より)
- 台無しにする、壊すまたは破滅させる(weblioより)
- 〈性俗〉女性器(英辞郎より)
1の「マフ」はよくロシア人が両手を前に組んで手に付けているあれですね。具体的にそれを指さなかったにせよ、毛皮のようにふわふわしたもの…という意味で “muffy” を使うこともあります。なので、
- アリソン → 最初は毛皮を着ている裕福な女性 → muffy
なのかな、と思っていました。しかし、2のような意味も持っているとなると、
- アリソン → 立ち退きを支持し、Avenue Aを台無しにしようとしている女性 → muffy
とも考えられます。しかし、一番ありそうだな…と思っているのは、実は3です。何といってもお下品なボヘミアンですから言いそうなことです。女性器を指すということは、つまりベニーのセックス相手を意味することが出来ます。従って、
- アリソン → ベニーのセックス相手 → muffy
なんだろうな…と私は考えています。こういう言い方をされれば、ベニーも “Alison” と言い換えざるにはいかないですから。
その続きの会話で、「アリソンが来れなかったのは、愛犬の秋田犬、エヴィータが死んだからだ」とベニーは言いますが、その時に “If you must know” と付け加えていますね。これは
- If you must know … どうしても知りたいと言うのなら申し上げますが、別に言う必要もないことですが
という意味で、日常的にも使われるフレーズですよ。
ネット上で見つけた情報(追記:2018.1.30)
英語版の「yahoo!知恵袋」で次のような質問を見つけました。
Why does Roger call Benny’s wife “Muffy”? Benny corrects him and says “Alison” – which is her real name. I have seen RENT many many times and still don’t know why. I also searched everywhere on google and can’t find the reason.
ーQuestion about RENT The Musical?(YAHOO! ANSWERS)
何故ロジャーはベニーの妻のことを “Muffy” と呼び、ベニーは “Alison” と正すのか…というのが質問の内容です。私が気になっていたことと同じ。ベストアンサーはどうなっているでしょうか?
Roger calls her Muffy (and with an affected accent) because he’s making fun of the fact that Benny married into a upper class/WASP-ish family. Mark and Roger felt abandoned by Benny because he used to be “one of them” before he married into money, which is a point of contention throughout the show. “Muffy” (along wth other names such as Bunny or Biff) is a very old-school WASP-y name, so he uses it to highlight the class difference.
ーQuestion about RENT The Musical?(YAHOO! ANSWERS)
「ベニーがわざとらしく “Muffy” と呼ぶのは、ベニーが上流階級のWASPっぽい家族と結婚したからだ」そうです。「お金と結婚する」前は、ベニーと自分たちは同じだと思っていたが、そんな捨てられたような気になっていたマークとロジャー。 “Muffy” というのはWASPっぽい名前の1つなので、違う階級に住んでいることを強調するために、そんな名前で呼んだのだ…とあります。
では問題のWASPとはなんなのか…です。 “WASP” とは “White Anglo-Saxon Protestant” の略でwikipediaにはこういう説明がありました。
アメリカ合衆国における白人エリート支配層の保守派を指す造語であり、当初は彼らと主に競争関係にあったアイリッシュカトリックにより使われていた。
ーWASP(wikipedia)
もともと “WASP” というのは相手をなじる言葉だったんですね。確かに、自由奔放なボヘミアンと比べると、まるっきり逆の立場にいるような集団です。そんな集団を象徴するような名前 “Muffy” と呼ぶことで、「WASPのアリソンはどうして来なかったんだ?」と聞いているという流れになります。
はー、なるほど。これは調べてみなければ分からない事項でした。そういう意味があったんですね!
ミミへの説得
そんなやりとりを終え、ベニーは元彼女であるミミの元へ向かいます。
BENNY:
Mimi — I’m surprised
A bright and charming girl like you
Hangs out with these slackers
(Who don’t adhere to deals)
They make fun — yet I’m the one
Attempting to do some good
Or do you really want a neighborhood
Where people piss on your stoop every night?―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:Jonathan Larson & Billy Aronson)
言っていることをざっくり説明すると「何故君のような明るくかわいい子がこんな怠け者とつるんでいるんだ?」です。ちょっと改行位置を変えると分かりやすくなるので見てみましょう。
- They make fun
- yet I’m the one attempting to do some good
- Or do you really want a neighborhood where people piss on your stoop every night?
まず1つ目。 “they” とはボヘミアン達のこと。
続けて2つ目。 “I’m the one ~” とはよく使う表現の1つですが、「~をする/しているのはまさにこの俺だ」のような意味です。 “some good” はこの場合、立ち退きのことを言っています。
そして最後の3つ目。 “piss” は「おしっこ(小便)をする」で “stoop” は「玄関口の階段です。従って内容は次の通りです。
- They make fun … 奴らは楽しい
- yet I’m the one attempting to do some good … しかし一方で何か良いことをしようと試みているのは、まさにこの俺だ
- Or do you really want a neighborhood where people piss on your stoop every night? … それとも君は、毎晩玄関口の階段に小便をかけるようなご近所が、本当に欲しいのかい?
「小便をかけるようなご近所」はつまり、今ミミがつるんでいるボヘミアン達のこと。こういう表現をしていることから、ベニーは彼らのことを低俗に見ているということが分かりますね。
きっかけはベニーの「ボヘミアは死んだ」
そしてベニーはこう続けます。
Bohemia, Bohemia’s
A fallacy in your head
This is Calcutta
Bohemia is dead―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “La Vie Boheme” (作詞:Jonathan Larson & Billy Aronson)
ここから、この発言からあのどんちゃん騒ぎが始まります。La Vie Boheme/英語歌詞の内容と意味を理解する①で、レストランの店員が “can’t have a scene(騒がれては困る)” と言っていましたが…始まってしまうんですよね…
で、ベニーは一体何と言ったのか?これも分かりやすく改行位置を変えるとこうなります。
難しい単語は “fallacy” と “Calcutta” でしょう。それぞれ「誤信」と「カルカッタ/コルカタ」です。カルカッタとはインドのとても貧困な町です。世界の中でも、特に貧しい地域の1つと言ってよいでしょう。
こちらの記事を読んでいただけたら、ある程度イメージしていただけるのではないでしょうか。
そしておさらいとして “Bohemia(ボヘミア)” は「自由奔放な人々」や「芸術家気取り」を指します。詳細は『RENT』の “La Vie Boheme” ってどういう意味?をご確認頂きたいのですが、思い返せば確かに登場人物の中には自由奔放でアーティストを名乗っている人たちばかりですよね。
それで芸術気取りな奴らを良く思っていないベニーは「ボヘミア、ね。ボヘミアの精神なんて誤信だよ。」とは言ったのです。そして「この有様ではまるでカルカッタのようだ。ボヘミアと精神は死んだんだよ。」と続けています。この有様というのは彼らが芸術家を気取っているという「夢」と、家賃も払えない「現実」の現実の方を言っています。つまり言い換えると、「夢ばかり見て貧困に喘いでいるじゃないか、夢は消えたんだよ」となるでしょう。
それを言われては黙っていられないのがボヘミアン達。もう、収拾がつきません!彼らの思うボヘミア精神を最大に披露し、猛反発。その中に著名な人物が沢山出てくる…ということなんですね。
ここから先が、この曲の本題。
沢山の単語、沢山の人名、そして沢山のスラング(かなり下品なものも!)が登場しますが、彼らが披露している内容をしっかり把握していきましょう。
続きはこちらからご覧くださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。