英語歌詞「マスカレード」は怪人の心も映した二重の意味になっていた

劇団四季ミュージカル『オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)』より「マスカレード(Masquerade)」の英語歌詞を見てみると、 この曲がダブルミーニングになっていることが分かります。

 

マスカレードは「仮面舞踏会」を意味します。

 

歌詞の表向きの意味は仮面舞踏会を楽しんでいる人々を表現していますが、裏の意味はオペラ座の怪人であるエリックの心の内を表現しています。

 

このミュージカルにおける仮面の立ち位置は、非常に重要です。仮面舞踏会にとっての仮面エリックにとっての仮面を比較しながら、二重の意味を考えていきましょう。

Music from the Musical・作品名:オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)

・曲名:マスカレードMasquerade

・訳詞:安東伸介(作詞:Charles Hart & Richard Stilgoe)

アルバムを視聴/楽譜 ・アルバム(日本語):オペラ座の怪人
・アルバム(英語):The Phantom of the Opera
・楽譜:

 

「マスカレード」とは何か

 

『オペラ座の怪人』をご覧になったことのある方の多くは、マスカレードが「仮面舞踏会」であることはご存知でしょう。

しかし、仮面舞踏会がどのようなものかご存知ですか

皆さんの理解している仮面舞踏会とは、恐らくこういったものでしょう。

 

仮面舞踏会(かめんぶとうかい)は、仮面をつけ身分素性を隠して行われる舞踏会のこと。

仮面舞踏会(wikipedia)

 

しかし、舞踏会で仮面を付ける意味を改めて考えると、説明が難しいのではないでしょうか?

仮面舞踏会を踏み込んで説明すると、こうなります。

 

だから仮面はある意味では「この仮面をつけている間は、無礼講で、今日の私のことは不問にしてくださいね」といった記号であったわけです。ここには「顔」がその人そのものを表す一番重要なものだ、という意識があります。

貴族たちは記号である仮面が意味するところを理解し、無粋にならないように参加者と接したわけですね。

結局のところ、仮面をつけての社交という非日常な体験と、無礼講を理解する粋な雰囲気を味わう、これが仮面舞踏会の醍醐味であったと考えられます。

仮面舞踏会って結局なんなのか(OLIVE)

 

仮面をかぶっていても相手が誰か検討はつくが、知らないふりをすることがルールだということ。

目の前の「誰か」が不倫をしようが、暗殺をしようが「知らない」ことが暗黙の了解なのです。

そういった意味で、仮面舞踏会が行われていた当時は風紀が乱れるという理由で禁止されていたこともあったようです。

 

『オペラ座の怪人』における仮面の重要性

取ることのできる仮面

 

『オペラ座の怪人』における「マスカレード(Masquerade)」は、一時的に素性を隠して行われる舞踏会ですから、舞踏会が終われば取るものです。

ですから、仮面舞踏会に参加する者にとっての仮面はこのようなものだと言えます

 

・素性が知れている

 

・別の自分を楽しむための顔

 

・非日常を味わうためのもの

 

・一時的な顔

 

普段の顔と、仮面を付けている時の顔で自分を使い分けるといった感覚ですね。

 

取ることのできない仮面

 

しかし、エリックにとっての仮面とはどのようなものでしょうか?

彼は顔の醜さ故に、仮面がなければ人前に出られないのです。仮面がなければ生きられないのです。

そんなエリックにとっての仮面は、このようなものでしょう。

 

・素性が知れていない

 

・本来の自分を生きるための顔

 

・日常を味わうためのもの

 

・永続的な顔

 

エリックにとっての仮面は、顔の一部。使い分けることのない顔です。

普段の顔とは、彼にとってあまりにも辛すぎるもの。できれば存在して欲しくないとさえ思っているでしょう。

だからこそ、前半クリスティーヌが仮面を取った時に激怒し、最後クリスティーヌが仮面のない自分と向き合ってくれた時、涙したのです。

そして、エンディングで仮面を残し行方をくらますシーンが、観客の心をかき乱します。

 

これらの違いを理解した上で「マスカレード(Masquerade)」の意味を深掘りしていきましょう。

 

 

英語歌詞の意味

仮面舞踏会 参加者の立場から(表向きの意味)

 

まずは、仮面舞踏会に参加している人々にとって「仮面舞踏会」がどのようなものかを見ていきましょう。

フレーズは意訳している部分もありますが、なるべく文字通り直訳するよう努めました。

マスカレード(Masquerade)」のフレーズの順ではなく、書かれている内容ごとにまとめていますが、二重構造を理解することが重要なので、全体像をつかんでいきましょう。

 

仮面舞踏会の「説明」

 

1つ目は、仮面舞踏会がどのようなものなのかが説明されています。

 

・Paper faces on parade … 偽りの顔の行列

 

・Hide your face, so the world will never find you! … 顔を隠して、そうすれば世間は決して君を見つけることは無い

 

・Every face a different shade … 全ての顔に異なる影

 

・Look around—there’s another mask behind you! … 見渡して、もう1つ別の仮面が背後に

 

・Faces … 顔と顔

 

・Take your turn, take a ride … 君の番、さあ乗って

 

・On the merry-go-round in an inhuman race … メリーゴーランドに、それは残忍非道なレースさ

 

仮面舞踏会は、偽りの顔(仮面)を身につけ、素性を明かさない付き合いであることが分かります。

“Every face a different shade” とは、先にも説明した全ての人間には別の顔があるという、仮面舞踏会の醍醐味を表しているのでしょう。

知っているような、知らないような人々が密集した空間にいることが伝わってくるフレーズの数々です。

残忍非道なレースとは、仮面を付けている間はむごいことをお構いなしだと、私は解釈しています。

 

仮面舞踏会の「華やかさ」

 

2つ目は、どれだけ華やかな雰囲気かを説明している部分です。

 

・Flash of mauve … 紫色の閃光

 

・Splash of puce … 暗赤色のしぶき

 

・Green and black … 緑に黒

 

・Thigh of blue … 青色の足

 

・Spinning reds … 回転する赤

 

・Grinning yellows … 笑顔輝くの黄色

 

あらゆる色から、あらゆる仮面、衣装、セットが想像できますね。

 

仮面舞踏会の「光景」

 

3つ目は、仮面舞踏会で目にする賑わう光景が説明されています。

 

・Trace of rouge … わずかなルージュ

 

・Face of beast … 野獣の顔

 

・Curl of lip … ゆがんだ唇

 

・Swirl of gown … ガウンの渦

 

・Ace of hearts … ハートのエース

 

・Face of clown … 道化の顔

 

・Drink it in, drink it up … 見とれて、飲み干して

 

・Till you’ve drowned … おぼれ死ぬまで

 

・In the light, in the sound … 光の中で、音の中で

 

・Take your fill—let the spectacle astound you! … 満たされて、この光景に驚いて

 

仮面に、衣装やセット、ゲームに興じる姿や、お酒を楽しんでいる様子が想像できるでしょう。

 

仮面舞踏会 参加者の「視線」

 

4つ目は、仮面舞踏会で交わされる参加者の視線です。

 

・Burning glances … 熱烈な視線

 

・Turning heads … 振り向く顔

 

・Stop and stare at the sea of smiles around you! … 立ち止まって見つめて、周りに広がる笑顔を

 

・Seething shadows, breathing lies … 渦巻く影、息づく嘘

 

・You can fool any friend who ever knew you! … 君は騙すことが出来る、君のことを知っているどんな友達のことも

 

・Leering satyrs, peering eyes … いやらしい目つきの性欲(サチュロス)、凝視する目

 

・Run and hide—but a face will still pursue you! … 走って隠れて、でも顔は未だにつきまとう

 

非日常を味わうために来た参加者の中で、何か破廉恥なことが起こりそうな予感がしますね。

サチュロスとは、ギリシャ神話に登場する精霊で「欲情の塊」として表現されることが多いようです。

 

サテュロス(古希: Σάτυρος, Satyros, ラテン語: Satyrus, 英語: Satyr)、複数形サテュロイ(古希: Σάτυροι, Satyroi) は、ギリシア神話に登場する半人半獣の自然の精霊である。(中略)「自然の豊穣の化身、欲情の塊」として表現される。その名前の由来を男根に求める説がある。

サチュロス(wikipedia)

 

仮面舞踏会を行うことで風紀が乱れるというのは、この舞踏会で新しい出会いがあり、性的なお楽しみも沢山あったからということです。

「顔がつきまとう」ところは、女性を男性がつきまとう様子をイメージできますね。

 

エリックの立場から(裏の意味)

 

では、エリックの立場から歌詞を見ると、内容はどのように変わるのでしょうか?

“you” をエリックと置き換えながら見ていきましょう。

 

エリックにとっての「顔」

 

ここは、先ほどの仮面舞踏会の「説明」として説明していた部分です。

 

・Paper faces on parade … 偽りの顔が行列をなしている

 

・Hide your face, so the world will never find you! … 顔を隠せば、世間は自分を見つけることは無い

 

・Every face a different shade … 全ての顔に異なる影が

 

・Look around—there’s another mask behind you! … 見渡して、もう1つ別の仮面が背後に

 

・Faces … 顔と顔

 

・Take your turn, take a ride … 君の番、さあ乗って

 

・On the merry-go-round in an inhuman race … メリーゴーランドに、それは残忍非道なレース

 

ここではエリックが顔に仮面を付けて、世間から身を潜めて生きてきた雰囲気が伝わってきます。

それに加えて、何かにずっと追われているような空気感も…。

残忍非道なレースは、エリックが人々から受けてきた非道の数々を象徴していると考えられ、それが逃れられない(繰り返される)メリーゴーランドのようだと解釈できます。

 

エリックの「胸の内」

 

ここは、先ほどの仮面舞踏会の「華やかさ」として説明したフレーズです。

先に押さえておきたいのが、英語では色で感情や立場を表現するということです。

色を表現する英単語を感情に置き換えていくとこのような意味に変わります。

 

・Flash of mauve … 高貴な身分の絢爛さ

 

・Splash of puce … しぶき

 

Green and black … 嫉妬心険悪

 

・Thigh of blue … 下品な足

 

・Spinning reds … 繰り返す怒りの数々

 

・Grinning yellows … 卑劣な笑み

 

エリックに向けられてきた非道の数々と、それに報復してきた彼の行為が目に浮かんできませんか?

 

エリックにとっての「クリスティーヌ」

 

ここは、先ほどの仮面舞踏会の「光景」として説明した部分です。

意味はほとんど変わりませんが、エリックの立場になって考えた時に、意味が大きく変わるのが色付き部分です。

 

・Trace of rouge … わずに残された口紅

 

・Face of beast … 野獣の顔

 

・Curl of lip … ゆがんだ唇

 

・Swirl of gown … ガウンの渦

 

・Ace of hearts … 恋の成就

 

・Face of clown … 道化の顔

 

・Drink it in, drink it up … 見とれて、飲み干して

 

・Till you’ve drowned … おぼれ死ぬまで

 

・In the light, in the sound … 光の中で、音の中で

 

・Take your fill—let the spectacle astound you! … 満たされて、この光景に驚いて

 

「ハートのエース」は一般的に恋の成就を意味します。

クリスティーヌが最後、野獣のような顔のエリックの、ゆがんだ唇に残したルージュ(口紅)

その瞬間エリックの全てが満たされた…そんなことがこの文章から汲みとれます。

「見とれて、飲み干して」以降は、地下の湖と関連づけながら、愛・音楽というプラス要素に加えて、闇・悲しみにも溺れていくような印象を残します。

 

エリックの「過去」

 

ここは、先ほどの仮面舞踏会 参加者の「視線」として説明した部分です。

裏の意味では、エリックの外見が人の目を引き付けていた辛い過去が読み取れます。

 

・Burning glances … 熱烈な視線

 

・Turning heads … 振り向く顔

 

・Stop and stare at the sea of smiles around you! … 立ち止まって凝視する、僕の周りに広がる笑み

 

・Seething shadows, breathing lies … 渦巻く影、息づく嘘

 

・You can fool any friend who ever knew you! … 僕は騙すことが出来る、僕のことを知っているどんな友達のことも

 

・Leering satyrs, peering eyes … 横目で見る半人半獣(サチュロス)、凝視する目

 

・Run and hide—but a face will still pursue you! … 走って隠れて、でも顔は未だにつきまとう

 

私はこの部分で絶句しました。

特に「サチュロス(satyrs)」に「欲情の塊」と「半人半獣の精霊」という2つの意味、 “leer”に「いやらしい目つき」と「横目で見る」という2つの意味があることに、打ちのめされました。

 

サテュロス(古希: Σάτυρος, Satyros, ラテン語: Satyrus, 英語: Satyr)、複数形サテュロイ(古希: Σάτυροι, Satyroi) は、ギリシア神話に登場する半人半獣の自然の精霊である。(中略)「自然の豊穣の化身、欲情の塊」として表現される。その名前の由来を男根に求める説がある。

サチュロス(wikipedia)

 

そして「走って隠れて~」は、どんなに自分の顔を隠しても、本来の顔が自分につきまとうことを連想させます。

 

いかがでしたか?

仮面に込められた二重の意味、そして「マスカレード(Masquerade)」を通して訴えられる怪人・エリックの胸の内をお分かりいただけたでしょうか?

マスカレード(Masquerade)」は、このミュージカルの肝になる曲です。

是非、皆さんも考察を深めて観劇してみてください。

 

曲のポイント

 

・仮面舞踏会における仮面は、一時的なもの。

 

・怪人・エリックにとって、仮面は永続的なもの。

 

・相反する仮面の存在価値が、1つの歌詞に込められたのがこの曲。

 

・「マスカレード(Masquerade)」は、『オペラ座の怪人』の肝となる曲。

 

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