劇団四季ミュージカル『ライオンキング(The Lion King)』より「ワン・バイ・ワン(One by One)」の歌詞を見てみると、何やら馴染のない言語で歌われていて内容を理解することが出来ません。
しかし歌詞の意味を知った時、あなたはきっと胸を締め付けられ、アフリカという大地と歴史に想いを馳せることになるでしょう。
涙なくしては読めないこの歌詞、一体どんなことが歌われているのでしょうか?
「ワン・バイ・ワン(One by One)」はズールー語というアフリカの言語で歌われています。
この曲は、敵や人種差別に屈しないアフリカ人の誇りと強さを歌っていますよ。
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目次
ズールー語とは?
ライオンキングの2幕のオープニングと言えば「ワン・バイ・ワン(One by One)」ですよね。
唯一人間が登場するこのシーンでは、全員が鮮やかな衣装で現れ、空を舞う鳥たちと共に幸せそうに歌います。
「ワン・バイ・ワン(One by One)」は、全てズールー語で歌われているので、ほとんどの方がどんな内容を歌っているかを理解することができないでしょう。
ズールー語(Zulu、isiZuluとも)は、南アフリカ共和国のズールー族の95%、約900万人によって話される言語である。アパルトヘイトが終了した1994年には、南アフリカ共和国の11の公用語の一つと制定された。
―ズールー語(wikipedia)
しかし歌詞の意味を調べてみると、アフリカの壮絶な歴史をベースに歌われていることが分かりました。
曲の意味を知った後「あの明るい曲調と笑顔の裏に、こんなシリアスな内容が描かれていたなんて」と、胸が締め付けられ涙がこみ上げてきました。行き所のない涙が、ただ、もう、ボロボロとこぼれるばかりです。
今回お世話になったのは、The Lion King WWW Archiveという英語のサイトです。ズールー語に英語が併記されていましたので、英語を元に解説していきます。
少し長い記事になりますが、これは必読情報です!是非お時間を頂ければと思います。
みなさん…タオルと心の準備は宜しいでしょうか?それでは1つずつ説明していきますね。
ズールー語の歌詞の意味
支配下に置かれたりなんかしない
「ワン・バイ・ワン(One by One)」の歌詞をブロックごとに引用していきますね。
まずは始めのブロックです。
Ibabeni njalo bakithi(Hold on tight, my people)
Ninga dinwa(Don’t get weary)
Ninga phelelwa nga mandla(Don’t lose your strength)
Siya ba bona(We can see)
Bebe fun’ ukusi xeda(They wanted to hold us back)
One by one
Ngeke ba lunge(They will not succeed)
One by one
Sizo nqoba(We will win)
One by one
Ngeke ba lunge(They will not succeed)
One by one―ブロードウェイミュージカル “THE LION KING” より “One by One” (作詞:Lebo M)
どうですか?
英単語を見て何となく「あれ?明るい内容じゃないかもしれない…」と気付いたのであれば、正解です。
答えを先に言いましょう。
この曲は「アフリカ人が西洋人に奴隷として連れて行かれる歴史を背景に、アフリカ人の誇りを描いた曲」なんです。
内容は次のようになっています。
・ Hold on tight, my people … しっかり掴まって、私の仲間よ
・ Don’t get weary … 決して諦めたりしないで
・ Don’t lose your strength … 強さを失わないで
・ We can see … 我らには見える
・ They wanted to hold us back … 彼らが私たちを支配下に置きたいということが
・ One by one … 1人ずつ
“weary” は「うんざりする」なので訳せば「うんざりしないで」ですが、状況的にうんざりする以上の出来事を指すので「諦めないで」が近いと思います。
続く歌詞では、それぞれのフレーズに対して “one by one” とあるので、それを活かして訳すとするとこうなるのではと思います。
・ They will not succeed … 彼らは成功なんてしない
・ One by one … 1人1人では
・ We will win … 我らが勝つんだ
・ One by one … 1人ずつ
・ They will not succeed … 彼らは成功なんてしない
・ One by one … 1人1人では
前半部分だけで、もう涙です。真っ向から闘おうという意志の強さと団結を感じます。
こう見ると “one by one” とは「1人ずつ(アフリカ人を奴隷として)連れていく」ことを指す一方で「1人1人の力を合わせていく」ことも指し、とても奥の深い題名になっていることが分かりますね。
自分が何者かを知っている
次のブロックを見てみましょう。
Sizo nqoba(We will win)
Ngoba thina(Because)
Siya zazi(We know who we are)Ngoba thina(Because)
Siya zazi(We know who we are)―ブロードウェイミュージカル “THE LION KING” より “One by One” (作詞:Lebo M)
ここでは直前のブロック “Sizo nqoba(We will win)” に対して更に強い気持ちが加えられています。
・ We will win … 我らが勝つ
・ Because … 何故なら
・ We know who we are … 我々は自分達が誰だかを知っているから
「どんなこと知っているか」は先に出てきますよ。
Zobona bayabaleka(Come and see)
Zobon, zobona(The cowards are running away)―ブロードウェイミュージカル “THE LION KING” より “One by One” (作詞:Lebo M)
ここで言う “cowards(卑怯者)” とは侵略してきた西洋人を指しているので、内容はこうですね。
・ Come and see … 来て見てごらん
・ The cowards are running away … 卑怯者が逃げていくぞ
自分たちで戦い、敵を蹴散らす様子が想像できますね。
アフリカ人であることの誇り
そして次が最後のブロックです。ここで先程の「どんなこと知っているか」の答えが出てきます。
Ibala lami(The color of my skin)
Elimnyama(That is dark)
Ndiya zidla ngalo(I’m proud of it)Ibala lami(The color of my skin)
Elimnyama(That is dark)
Ndiza kufa nalo(I will die with it)Ibala lami(The color of my skin)
Elimnyama(That is dark)
Ndiya zidla ngalo(I’m proud of it)―ブロードウェイミュージカル “THE LION KING” より “One by One” (作詞:Lebo M)
フレーズの各先頭に出てくる “Ibala lami(The color of my skin)” 、これはその文字の通り私の肌の色という意味です。
それに続く文章が2種類ありますね。1つ目はこうです。
・ The color of my skin … 私の肌の色
・ That is dark … それは黒い
・ I’m proud of it … 私はそれが誇りだ
2つ目はどうでしょう?
・ The color of my skin … 私の肌の色
・ That is dark … それは黒い
・ I will die with it … 私はそれと共に死んでいく
…涙腺崩壊です。
私はここの歌詞で完全に涙腺崩壊しました。
何と強く、美しく、熱い気持ちを持っているんでしょう。
“I will die with it” では「それ(黒い肌)と共に人生を全うする」という解釈が良いかもしれませんね。
そこに誇りを持つし、背を向けないということです。
アフリカは美しい
そしてこう締めくくられます。
Kumnandi(Oh yes)
Kwelakakith Eafrica(It’s beautiful in Africa)―ブロードウェイミュージカル “THE LION KING” より “One by One” (作詞:Lebo M)
お分かりかもしれませんが、意味はこうです。
・ Oh yes … ああ、そうさ
・ It’s beautiful in Africa … アフリカはこんなにも美しい
何とも勇ましい締めくくり方…!
感涙です。言葉が出ない…。
独特な呼吸が耳に残るワケ
いかがでしたか?
「ワン・バイ・ワン(One by One)」は、アフリカ人の、アフリカ人による、アフリカ人の誇りを、魂を込めてストレートに歌った曲だと分かりました。
これは補足情報ですが、私が劇団四季で働いていた時にこんな話を聞いたことがあります。
「ワン・バイ・ワン(One by One)」のオープニングの荒い息遣いは「母の背中におんぶされた子どもが背中越しに聞いた、母の息遣い」だと。
つまり子どもをおんぶして、支配者達から全力で逃げている時の息遣いなんだだそうです。
私はこれを聞いた時に、鳥肌が立ち、二の句が継げなくなりました。
そういった歴史的情景が、この音楽にはぎゅっと凝縮されているのですね。
アニメでは描かれない良さを感じて
もし、ミュージカル『ライオンキング』にこの曲がなければ「衣裳がすごい、演出がすごいだけの作品」に留まっていたかもしれません。
しかし、アフリカ人にとっての悲しい過去を盛り込み、高らかに歌いあげながら問題提起をしたからこそ、より血の通った作品になったような気がします。だからこそ高い評価得て、今もなお観客の心をつかんで止まないのです。
本場ブロードウェイではアフリカ系のキャストが歌う訳ですから、よりリアルな体感が出来るのではないかと思います。近い将来、ブロードウェイで観たいなと思っています。
最後に。
この動画で歌っているのが、ズールー語歌詞を担当したLebo.Mです。力強い歌い方に、アフリカの大地を感じて止みませんね。
「ワン・バイ・ワン(One by One)」の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。