Tango: Maureen⑥どこでタンゴを習ったか

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “Tango:Maureen” の英語歌詞を見てみると、お互いがどこで単語を習ったのかを確認し合うシーンがあります。

マークとジョアンは、それぞれどこで習ったのでしょうか?

※この曲がなぜ「タンゴ」なのかという点を考察してみました!こちらの記事を先に読んでいただくと、より理解が深まりますよ。


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歌詞のおさらい

 

大好きです、この曲!

タンゴのリズムに刻まれながら、頭のキレる両者が素晴らしい論理展開を繰り広げていきますね。過去の恋人であろうが、今の恋人であろうが、結局モーリーンに振り回されている2人が、なんだかんだいって協力しているのが本当に面白いナンバーです。

マークは元恋人であることからモーリーンのことをよく分かっているのに対して、現恋人のジョアンはまだまだモーリーンを理解しきれていない。それが恋敵であるはずのマークによって少しずつ理解を深めざるを得ないところが笑えます。そんなところに注目しながら見ていきましょう。

今回は、お互いがどこでタンゴを習ったのか確認する場面ですよ。

 

MARK:
Where’d you learn to tango?

JOANNE:
With the French Ambassador‘s daughter in her dorm room at Miss Porter’s. And you?

MARK:
With Nanette Himmelfarb.
The Rabbi’s daughter at the Scarsdale Jewish Community Center.

(They switch, and JOANNE leads.)

It’s hard to do this backwards.

JOANNE:
You should try it in heels!

―ミュージカル “RENT” より “Tango: Maureen”

 

ジョアンはエリート学校の寮で

 

ジョアンはハーバード大学出身のエリート弁護士。そんな彼女はお付き合いも上流なのでしょう。マークに “Where’d you learn to tango?(タンゴの踊り方はどこで習ったの?)” と聞かれ、こう答えています。

 

  • With the French Ambassador’s daughter in her dorm room at Miss Porter’s.And you? … フランス大使の娘と共に、Miss Porter’s(ミス・ポーターズ)学校の寮で。あなたは?

 

初め、Miss Porter’sって人の名前かと思ったのですが、これは学校の名前だったんですね!しっかりとしたホームページがあり、方針を見てみると何やら意識高い系の学校のよう…。

 

Our Mission:
Miss Porter’s School educates young women to become informed, bold, resourceful and ethical global citizens. We expect our graduates to shape a changing world.

Our Vision:
In keeping with our founder’s vision, Miss Porter’s School joins tradition with innovation to provide an exemplary education to young women. Generation after generation, our leadership is defined by our ability to articulate how young women think, how young women learn, and why gender matters. Within our legacy lies our future.

Our Core Characteristics:
The Miss Porter’s School community cultivates and commends the following core characteristics:
Intellectual Curiosity
• Leadership
Global Citizenship
Integrity
Courage

Miss Porter’s School

 

学校の方針をざっくり説明するとこうなっています。

 

  • わが校の使命:若い女性を見聞が広く、果敢で、臨機応変で、論理的な国際人に育てます。
  • わが校の目標:模範となる若い女性を世に送り出します。リーダーシップとは若い女性がどのように考え、どのように学び、何故ジェンダーが問題になっているのかを明確にすることが出来る能力だと考えています。
  • わが校の核となる精神:知的好奇心、リーダーシップ、国際性、誠実、勇気

 

いかがですか?意識高い系の学校だということを分かって頂けたのではと思います。こういう学校のことを「フィニッシングスクール」と言うそうで、日本語では「花嫁学校」などと訳されるようです。

社交場などを含め、どこに行っても恥ずかしくない女性に育てる学校であり、中でもミス・ポーターズ・スクールは名門だそうです。入学制限はないそうですが、高額な学費から一部の富裕層しか入れないのも事実のよう。

つまり、 “Miss Porter’s” と聞いて知らない人はおらず、ジョアンがどれだけ教育された女性なのかということがピンと来てしまうわけですね。フランス大使館の娘と寮で一緒にと言っているところから見ても、どれだけジョアンがエリートなのかが伺えます。

なのでこのセリフを続く “And you?” と共に訳すと、「フランス大使の娘と共に、Miss Porter’sの寮で。あなたは?」となり、特に “And you?” の言い方からして、Miss Porter’sに通っていたということが、ジョアンにとってどれだけ誇り高きことなのかというのが伺える1フレーズになっています。

 

 

マークは…?

 

では一方のマークはどうでしょう?

 

  • With Nanette Himmelfarb. The Rabbi’s daughter at the Scarsdale Jewish Community Center … ナネット・ヒンメルファルブと。ラビの娘、スカーズデールのジューイッシュ・コミュニティー・センターで。

 

先に言いましょう。ここ、笑いどころなんです。

まず、マークは自分がどこで単語を習ったのかを、ジョアンと同じ文脈で説明しています。

 

  • With the French Ambassador’s daughter → With Nanette Himmelfarb. The Rabbi’s daughter
  • in her dorm room at Miss Porter’s → at the Scarsdale Jewish Community Center

 

誰と、どこでという順で説明しており “with ~” 、 “at ~” となっています。しかも、どちらも誰かの娘とタンゴを学んでいるので、意図的にこういう構造にした台詞と解釈できます。いずれも “with ~’s daughter” 、 “at ~” という風になっているのがお分かり頂けると思います。

このような構造になっている上で、どこで学んだのかが対比されている点が笑いどころで、ジョアンの “Miss Porter’s” に対し、マークは “Jewish Community Center” という非営利団体で学んだというのです。

(JCC)とは実在するもので、ホームページにはこのように説明されていました。

 

The Jewish Community Center of Mid-Westchester is a nonprofit organization dedicated to enriching the community by providing cultural, social, educational and recreational/fitness programs, human services and Jewish identity-building opportunities to people of all ages, backgrounds, religions, or sexual orientation.

JCC MidWestchester

 

JCCの方針は次のようなものです。

 

  • ジューイッシュ・コミュニティー・センターは、文化的、社会的、教育的でレクリエーションのあるプログラム、人的サービスを提供し、ユダヤ人(教)のアイデンティティを構築する機会を、すべての年齢、背景、宗教、性的指向に与える、より豊かな社会を目的とした非営利団体です。

 

これを聞いて何となくピンと来たでしょうか?

あくまでも私の解釈ですが、ここの笑いどころを解説するとこうです。

ジョアンが通ったのは、超エリート校であるMiss Porter’s。誰に対してもオープンにされているという名目でありながら、実際のところはごく一部の富裕層しか入学の出来ない教育機関です。しかし一方のマークは利益を求めない教育機関で同じようなことを学んでいます。

いずれの学校も掲げていることはあまり変わらないのです。しかし、エリートのジョアンに対して、堂々としかも飄々と述べる感じが、きっと観客にとっては「よくぞ言った!」という感覚になるのではないでしょうか。

そして、その後タンゴをリードするのがマークからジョアンに代わり、マークが “It’s hard to do this backwards.(後ろ向きは大変だね!)” と言います。男性であるマークが、初めて女性側を踊った感想を言っており、それに対してジョアンが “You should try it in heels!(ヒールを履いてやってみなさいよ!/ヒールを履いて試してみたら?)” と返すんですね。

初めマークがリードしていたということは、この時点まではマークが主導権を握っているという演出なのでしょう。しかし直後、ジョアンにリードが代わったということはジョアンが主導権を握る形になり、先ほどのYou should try it in heels!” には「女をなめないで!」というニュアンスがあるんじゃないかなぁ…と思っています。

あとは誰もが知っている名門 “Miss Porter’s” に対して、誰もが知っているとは言い難い “JCC” なのかなと思ってみたり…解釈は様々できそうですが、少なくともこの場面ではジョアンは超エリート出身であることが明確になり、マークはユダヤ系で今の活動をしているのはJCCに通っていたからではないかと考えさせられますね。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!