劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「奇跡御殿(The Court of Miracles)」の英語歌詞を見てみると、曲の題名にもなっている “The Court of Miracles” というフレーズが目に留まります。
日本語訳では「奇跡御殿」…随分夢のあるような場所に聞こえますが、実際は真逆なんです…!
クロパンを筆頭に、陰湿な雰囲気の中で歌われるこの曲。
一体「奇跡御殿」とはどんな場所なのか、そしてここで歌われる「miracle(奇跡)」の本当の意味について調べてみました。
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目次
歌詞から分かる「奇跡御殿」
さて、こちらの記事はかなり気合が入っており、少~し長めです。
でも必ず納得の行く情報をお届け出来ますので、しばらくお付き合いください!
まず、”The Court of Miracles”とはフランス語で “Cour des miracles” 、直訳すると「奇跡の御殿(Court of Miracles)」という意味になります。
私自身、courtとは「裁判所」のことだと思っていたので、冤罪になりかけた人が無罪になる…逆転無罪判定…!のようなイメージを持っていました。
いずれにしても「奇跡」と名前が付くのだから、随分夢のような場所のような気がしてきますよね。しかし、実際のところは全く違うんです。
一言でいうと「嘘が集結した場所」です。
トプシー・ターヴィー(Topsy Turvy)のシーンの初めがどういうものだったか覚えていますか?
クロパンの周りにジプシー達が終結し、眼帯をしたり、松葉杖をついたりしていますよね。
「クロパンは怪我もしていないのに、何であんな格好をしなければならないんだろう?」と疑問に思わなかったでしょうか?
そして、もし見逃していなければ、直後、クロパン達の前を通った男性がお金を盗まれています。
この一連の流れこそが、まさに「奇跡御殿」なのです!
クロパンのこの行為についてのまとめた記事は、こちらからご覧ください。
「奇跡御殿」ってどんなところ?
実在した場所
残念ながら “The Court of Miracles(奇跡御殿)” を日本語で説明しているサイトは見つけられませんでしたが、英語版wikipediaに解説がありましたので、内容を一緒に見ていきましょう。
まず、簡潔に説明した一文を引用してみましょう。
Cour des miracles (“court of miracles”) was a French term which referred to slum districts of Paris, France where the unemployed migrants from rural areas resided.
―”court of miracles“(wikipedia)
ここで分かるのは「奇跡御殿とは、郊外から出稼ぎにきた仕事のない移住者が住む、パリにあったスラム街を指すフランス用語だ」ということです。
ただ、これの情報だけでは「スラム街」というだけで「何が奇跡なのか」が分かりませんよね。
病気のふりをする人間たちの溜まり場?
では「奇跡御殿」ではどんなことをしていたのか、詳細を見ていきましょう。
In pre-modern Paris a large portion of the population relied on begging for its survival. Since those with a clear handicap could expect more alms, a number of beggars faked terrible injuries and diseases. By the time they came back to their homes in the slum, they dropped their characters.
―”court of miracles“(wikipedia)
「代以前のパリでは、人口の大部分が生き延びるために物乞いを当てに生活していました。
そんな中「真の障がい者」が施し金を期待出来るようになって以来、多くのこじき達が酷い怪我や病気のふりをするようになったそうです。
つまり、偽者の障がい者を演じることで、人を騙し、施し金を得る多くのこじき達がいた…ということですね。
「奇跡御殿」と呼ばれる理由
皮肉まじりの呼び名だった
そういった詐欺行為を働くこじき達がスラム街の家へ戻ってくる頃には、彼らは自分たちが演じていた「(身体障がい者という)役」を脱ぎ捨てます。
この様子が、まさに 「奇跡」なのです!説明文の最後を見てみましょう。
A beggar who had pretended to be blind or crippled the whole day could see or walk again once back in the slum. This phenomenon gave the generic name to these areas where so many “miracles” occurred every day: courts of miracles.
―”court of miracles“(wikipedia)
盲目のふりをしたり、不自由な体で1日を過ごしていたこじき達は、自分達の家があるスラム街に戻れば「(身体障がい者という)役」を脱ぎ捨てるので、この時点でまた目が見えるようになったり歩けるようになっています。
このような「奇跡」が毎日のように起こったため、一般的にこの地域を “The Court of Miracles(奇跡御殿)” と呼ぶようになったそうです。
身体障がい者のふりをして、物乞いでお金を稼ぐ…そんな手法で毎日を生きている人間が集まるパリにあったスラム街が、The Court of Miracles(奇跡御殿)でした。
「身体障がい者のふりをした人間が、自分の家に戻る頃には元の姿に戻っていること」に対して「奇跡」という皮肉を込めた言葉を使って表現されていることが分かります。
実はクロパンも変装していた…!
冒頭にも記載したことを思い出して下さい。トプシー・ターヴィー(Topsy Turvy)の冒頭で、クロパンが眼帯をして、松葉杖をついて、直後男性がお金を盗みます。たった1分弱のシーンですが、ここにThe Court of Miracles(奇跡御殿)の全てが集約されていたんですね。彼らもここで説明したような「身体障がい者を演じるこじき達」だった訳です。
ちなみにこの現象、この様子は「奇跡御殿(The Court of Miracles)」の歌詞内で分かりやすく説明されています。その詳細を知りたいという方は次の記事も併せてご覧くださいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。