劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』を観てみると、エスメラルダをはじめ、たくさんのジプシー達が登場します。
エスメラルダやクロパンがジプシーであるということは分かっても「ジプシーがどのような存在か把握しきれていない」という方は多いのではないでしょうか?
この記事では、彼らがどのような歴史を持ち、どのような生活をしてきたのかをまとめます。
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中世ヨーロッパにおける「身体障がい者」の扱いはどのようなものだったのか?「ジプシー」はなぜ迫害され、「魔女狩り」はどのようにして起こったのか?
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ジプシーとは
「ジプシー(gypsy)」とは、15世紀半ばにキリスト教ヨーロッパに現れた人々を指します。
原作『ノートル=ダム・ド・パリ』と同じく、ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』の時代設定は1482年なので、時代背景としては当てはまります。まさに、この時代にエスメラルダやクロパンが生きていたと分かりますね。
彼らが「ジプシー」と呼ばれるようになった経緯は「エジプトから来た人」を意味する「エジプシャン(Egyptian)」に由来しています。
こう聞くと「ジプシー=エジプト人」と考えがちですが、実はそうではありません。15世紀ヨーロッパの人々が「エジプト方面から訪れたらしい人々」を「ジプシー」と呼び、定着しました。
研究によれば、ジプシーの起源はインドにあるとされています。
なお、現在「ジプシー」は差別用語に指定されているため、「ロマ(Roma、一部のジプシーの自称)」という呼称が推奨されています。
ロマ(ジプシー)に対する偏見
ロマは文字を持たず、歴史を書き残すことがありませんでした。そのためロマの歴史は非ロマ(ロマでない人々)によってまとめられています。
ロマについてまとめられた情報には誤解や偏見を含んでいたため、未だにそのイメージは世界各地に定着しています。
例えば『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』に登場するロマは3人で、次のような職業に就いています。
- エスメラルダ:ダンサー
- クロパン:乞食、泥棒
- フロリカ:娼婦(的なイメージ)
これらの職業は、ロマをイメージした際の典型的なものと言えるでしょう。
しかし実際にロマはこのような職業に就いているのでしょうか?仮にそういった職業に就いていたとして、そのきっかけは何だったのでしょうか?
ロマがヨーロッパに入って来る過程で、ヨーロッパでは次のような出来事に見舞われ、15~16世紀にかけて大量の貧民、流民が都市にあふれました。
- 封建制から近代資本主義体制への移行
- 百年戦争(1337~1453年)
- オスマン勢力のヨーロッパ進出
ジプシーに限らず誰もが生きることに必死だったこの時代では、ジプシーに限らず泥棒や売春行為に走ったであろうことは、容易に想像できます。しかし、それらがあたかもジプシーの仕事のように定着していく過程には、当時の価値観がありました。
当時のキリスト教的価値観では、次の3点を重視しており、これに当てはまる人々を「ヨーロッパ的」と考えていました。
- キリスト教徒である
- 定住している
- 雇われて仕事をしている
一方、ロマはこれらの価値観に当てはまらなかったことから「非ヨーロッパ的である」と捉えられ、徐々に差別的な目で見られるようになっていきます。
悲しいかな、我々がジプシーに対して抱いているイメージは、15世紀以降に形成されたものと変わっていないのが現状です。
ロマ語とは?
ロマは文字を持ちませんでしたが、主に「ロマ語」で会話することで意思の疎通をはかっていました。
ロマ語(ロマご、ロマニー語、ジプシー語)はインド・ヨーロッパ語族インド語派の言語で、インドから北アフリカ、ヨーロッパへ移住した少数民族ロマ(ジプシー)が使用する。
ロマは国家をもたないため標準語はない。方言が非常に多様で、20群60種類以上に分類される。もともと固有の文字はなく、現在ではラテン文字で筆記されることが多い。
ロマ語(wikipedia)
『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』の「酒場の歌(The Tavern Song/Thai Mol Piyas)」では、一部ロマ語で歌われています。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
ロマ(ジプシー)の文化はあらゆるものに影響を与えています。
例えばフラメンコの原型と言われていたり、有名なクラシック音楽もロマの音楽からインスピレーションを受けて出来たなどなど。
迫害され、一言では語れない歴史を持っているロマですが、その影響力は私たちの想像を超えているといえるでしょう。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
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また、英語歌詞の解説・考察を読みたい方は、こちらのページからご覧ください。
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ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。