劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「フィナーレ(Finale)」の英語歌詞を見てみると、自らの最期でとても重要な言葉を残していることが分かりました。
日本語版では訳されていないこの言葉、どういう意味を持っているのでしょうか?
『ノートルダムの鐘』の解説・考察本を執筆しました!
中世ヨーロッパにおける「身体障がい者」の扱いはどのようなものだったのか?「ジプシー」はなぜ迫害され、「魔女狩り」はどのようにして起こったのか?
中世ヨーロッパのリアルに焦点を当てながら、ミュージカル『ノートルダムの鐘』の奥深さを紐解く解説・考察本。
Kindle(電子書籍)、ペーパーバック(紙書籍)、いずれも Amazon で販売中。
Kindle Unlimitedを初めてご利用の方は、体験期間中に0円で読書可能!
目次
フロローの最期、日本語と英語で比較
「フィナーレ(Finale)」ラテン語パートの意味の終盤、哀しみに耐えかねたカジモドがフロローを掴み、塔から突き落とすシーンがあります。フロローの最期です。
日本語版でそのシーンがどう描かれているかというと、こうなっています。
石像達/ガーゴイル(アンサンブル):(略)フロローは屋根の端を越えて奈落の底へ
フロロー:あー!―劇団四季ミュージカル 『ノートルダムの鐘』 より 「フィナーレ」(訳詞:高橋知伽江)
日本語は「あー!」と叫びながら落ちていっていますね。
しかし、英語版ではそうではありません。どうなっているか見てみましょう。
Congregation:(略)threw his master over the edge of the roof into the abyss below.
Frollo:Damnation…!―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Finale” (作詞:Stephen Schwartz)
フロローが何か言いながら落ちていっていることが分かりますね?これ、どういう意味なのでしょうか。
英語版では台詞を発していた!
英語版では明らかに台詞を発しています。 “damnation” と言っていますね。これ、どういう意味なのでしょうか?
- damnation … 地獄に落とすこと、天罰、破滅
傍から見たら行きすぎた行動に出てしまっているフロローかもしれませんが、根本的に彼は「神に忠実な聖職者」です。神への忠誠心がとても強い人間だということは、作品をご覧になった方なら手に取るように分かるでしょう。
そう考えるとこの “damnation” を日本語に置き換えるなら「天罰」という言葉がしっくりくるように感じませんか?言い換えるなら、こういう最期を迎えてしまったのは「神の判断だ」「天から受けた罰だ」ということです。加えて、「地獄に落ちていく自分」、「破滅してしまった自分」も “damnation” という1単語に凝縮されています。
台詞の意味で大きく変わるフロローの印象
意味を把握する重要性
日本語版は言葉なく叫びながら落ちていくので「カジモドの手によって落とされた」という印象が残ってしまいますが、英語版では “damnation” という一言があることによって、「(自分の過ちで)天罰が下った」のだとフロローが認識していると観客に伝わります。
日本語版と英語版が大きく異なるのはここです。
フロローという登場人物を完全に悪役扱いできないのは、誰もが彼の考え方や気持ちを理解出来るからでしょう。完全に非難できないからこそ見ていて辛いのです。
そんな彼の最期の言葉は、最後の最後まで聖職者として生き抜いた姿を見せてくれています。
たった数秒のシーンかもしれませんが、英語版と日本語版では私たちの心に残すものが大きく異なります。是非、観劇をされる際はこの事実を知って観劇して下さいね。
原作ではどうなっている?
(2017.10.5追記)
この記事を書いてから、フォロワー様からの反響がとても多かったのですが、次のように教えて下さった方がいたのでご紹介します。
これ、原作の段階でこの単語言ってるんですよね…。英語でもフランス語でも綴りは同じです。手元の和訳(電子書籍版)でどうなっているか確認したら、まさかの「無念!」でした…うーん、これは何にしても原語で味わう方がよさそう。 https://t.co/5QkLdDaMgA
— 森野智子(本名ではなくHNです) (@morisato_snow) October 5, 2017
※ご本人より掲載許可取得済。
なるほど、 “damnation” というのはミュージカルの脚本からではなく、ヴィクトル・ユーゴーの原作の時点から書かれているということなのです!これは初耳でした!!
そして、日本語訳で「無念!」だということ…うーん、これは遠からずも近からずといった感じで悪くはないのですが、フロローの全てともいえる「聖職者」という立場からいうと、 “damnation” の意味を表現しきれていない気がします。 “damnation” の意味を知って「無念!」と読めばその意味の深さを理解できますが…
たった1つの単語を知っているか知らないかで、受ける印象がガラリと変わることが分かりますね。
当初の劇団四季の訳は何だった?
(2017.10.5追記)
また、こんなことを教えて下さったフォロワー様もいらっしゃいました!
これちなみにオーディションの段階でちくしょう!ってなってて
小梅太夫みたいになるなと思ってたらなくなったので安心した笑 https://t.co/FCHYfiYwTX— 岡田匡平 (@companydirecter) October 5, 2017
※ご本人より掲載許可取得済。
…えっ?もともとは「ちくしょう!」が最期の言葉だったの?
これはまた随分と印象の変わる訳ですね。「あー!」に変えて正解だと思います(笑)。
「フィナーレ(Finale)」の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。