東宝ミュージカル『レント(RENT)』より “You Okay Honey?” の英語歌詞を見てみると、冒頭がホームレスの歌う歌になっています。
難しいフレーズではありませんが、マークが “Take Me Or Leave Me” で言う台詞 “I’m here. Nowhere.” と比較してみると、見えてくるものがありました。
この歌詞を見た時にまず感じたのは、ホームレスの “Somewhere else! Not here” と “Take Me Or Leave Me” でマークが言う “I’m here. Nowhere.” が似ているなということ。こういうところを発見してしまうと、比較したくなるのが私の性…
ということで、それぞれの言葉を1つずつ理解しながら見ていきたいと思います。
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台詞のおさらい
“You Okay Honey?” の冒頭は、ホームレスの男性による次の歌で始まっています。
A HOMELESS MAN:
Christmas bells are ringing
Christmas bells are ringing
Christmas bells are ringing
Somewhere else!
Not here―ブロードウェイミュージカル “RENT” より “You Okay Honey?” (作詞:Jonathan Larson)
“Christmas bells are ringing(クリスマス・ベルが鳴っている)” …けれども、ホームレスの置かれている環境はどのようなものでしょうか?
ホームレスとマークのフレーズを比較してみる
ホームレスの言葉
まず、ホームレスのフレーズから見ていきましょう。
- Somewhere else!
- Not here
“somewhere” は「どこか」、 “else” は「他の」、 “here” は「ここ」ですから、意味はこのようになります。
- Somewhere else! … どこか別の場所で
- Not here … ここではない
意味合いとしては、「クリスマス・ベルが鳴っている/どこかで/(でも確実に)ここではない(場所で)」ということでしょう。
これを深読みしていくとどうなるか…
“here” とは「自分が置かれている状況」のことだと言えます。ですから、拡大解釈をすれば “here” はホームレス男性自身で、 “somewhere” とは自分でない他の人たちのことです。
つまり自分の置かれている状況をひがんでいるんですね。
クリスマスでも自分の置かれている状況は変わらない、楽しい気持ちになることはない、自分の身の回周りでクリスマス・ベルが鳴ることもない…こういったことをひがんで歌っています。
マークの言葉
では、このホームレス男性の言葉に似ているフレーズのマークの言葉を見てみましょう。
- I’m here.
- Nowhere.
“somewhere” → “nowhere” 、 “not here” → “I’m here” と構成が似ているものが順序逆で使われています。これは意識してこのようになったのでしょうか…?真相は定かではありませんが、私は意識して書かれた台詞だと信じています。
“Take Me Or Leave Me” でマークが言うこの台詞は、「僕はここにいる。どことも言えないこの場所に。」という意味です。とても哲学的で印象的な台詞ですよね。
「誰のもとにいる訳でもないけれども、僕は今ここに生きている。それはどことも言えない場所だ。」ということだと私は考えています。
詳しい考察は次の記事をご覧くださいね。
共通点
この2つのフレーズを比較してみて、どちらにも共通すると感じた点は “here” の概念です。これは「今、自分自身が置かれている状況」や「自分自身」を指しています。そして “somewhere” も “nowhere” も「here(ここ)” ではない場所」を指しています。
これはRENTを通して言えることですが、このミュージカルからは「今、ここに、生きている」という強いメッセージや想いを感じずにはいられません。登場人物がどんな環境下にあったにせよ…です。
こういった内容をぎゅっと “here” に凝縮させ、 “somewhere” や “nowhere” と比較させることで “here” を際立たせる…そういった効果がこのたった2行から感じ取れます。
日本語もそうですが、シンプルなフレーズほど深みと味があります。こういった部分を見過ごさないことが、作品をより深く味わうことにつががりますよ。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。