ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “You’ll Be Back” の英語歌詞では、植民地アメリカの人々に対するイギリス国王・ジョージ3世の気持ちが歌われています。
何とも穏やかな曲調で歌われるこの曲ですが、その内容、実はかなり冷酷。
二重人格のように甘ったるい口調と激昂する口調が時に入れ替わるこの曲の面白さを押さえましょう。
ジョージ3世が歌う曲は全て皮肉交じりです。ゆえに、かなりの笑いどころになります。
大いに笑うためにも、最低限の歴史は押さえておきたいところです。
“You’ll Be Back” はイギリスがアメリカを植民地下に置いていた時の歌ですから、完全にアメリカを見下して歌っていますよ。
※ この記事は、西川秀和先生(@Poeta_Laureatus)の記事を参考にさせて頂きました。詳しい歴史的背景は、こちらをご覧ください:西川秀和 note
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ジョージ3世が歌う3曲はセットで理解する
イギリス国王・ジョージ3世は『ハミルトン(Hamilton)』を通して次の3曲を歌います。
これらは全て同じ曲調ですが、ジョージ3世の歌う内容はアメリカとの距離感によって徐々に変わっていきます。
・ You’ll Be Back … アメリカがイギリスの植民地下にあったため、自分の権威を誇示している
・ What Comes Next? … 独立戦争でアメリカが勝利したため、自分の支配下ではなくなり、意固地になっている
・ I Know Him … ジョージ・ワシントンが大統領から退くことを知り、アメリカの行く末を野次馬根性で見届けている
どんどんアメリカとの距離が遠くなっていくので、後半になるにつれて、お得意の “Da da da da da da da da da daye da(ルンルンルン♪)” も少なくなっていきますよ(笑)。
それでは “You’ll Be Back” から見ていきましょう。
ジョージ3世が歌っていること
ボストン茶会事件
穏やかな口調で歌っている冒頭ですが、ここは政治的かつアメリカ見下した内容を歌っています。
You say,
The price of my love’s not a price that you’re willing to pay
You cry,
In your tea which you hurl in the sea when you see me go by
Why so sad?
Remember we made an arrangement when you went away
Now you’re making me mad
Remember despite our estrangement, I’m your man―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
“price” をどうとらえるかが重要ですが、前者のpriceは「代償、代価」、後者は「犠牲」ではないかと思います。ニュアンスはこうです。
・ 君たちは言うよね?僕が提示する愛の価値は、君たちが払う犠牲には等しくないって
それに続けて歌われているのが、ボストン茶会事件のこと。
・ 君たちは嘆くよね?僕がかまってあげなければ、海に紅茶を投げ捨ててしまうんだもんね
ボストン茶会事件とは、イギリスが植民地アメリカに課した税金問題の流れで起きた事件です。
ボストン茶会事件(ボストンちゃかいじけん、英: Boston Tea Party)は、1773年12月16日に、マサチューセッツ植民地(現アメリカ合衆国マサチューセッツ州)のボストンで、イギリス本国議会の植民地政策に憤慨した植民地人の急進派が、港湾に停泊中の貨物輸送船に侵入し、イギリス東インド会社の船荷である茶箱を海に投棄した事件である。
―ボストン茶会事件(wikipedia)
これら2点の発言から、ジョージ3世は「自分がやっていることはアメリカのためになっていることだ」と言いたげなことが分かります。
それに加えて、ストレートにこんなことを言います。
・ 覚えてていてよね?互いに距離があるからって…僕が君たちの支配者なんだよ?
また、ところどころでジョージ3世の本性が現れるわけですが、このブロックでは下線部分がそれに当たりますよ(笑)。
・ Now you’re making me mad … ふざけんなよ、僕を怒らせやがって
権威の誇示
サビを見てみましょう。
You’ll be back
Soon you’ll see
You’ll remember you belong to me
You’ll be back
Time will tell
You’ll remember that I served you well―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
あまり難しい単語はありませんが、内容はこうなります。
・ 君たちは戻って来る
・ すぐに分かるはずさ
・ 君たちは僕のものだって思い出すはずだよ
・ 君たちは戻ってくる
・ 時間が経てば分かる
・ 君たちは僕が何をしてあげたかってことを思い出すはずだよ
“belong to ~” は「~に属する」という意味ですが、ここはこういう構図が成り立つので「僕のもの」と言い換えても良いでしょう。
・ 僕(ジョージ3世)に属している = 僕の支配下にある = 僕のもの
サラっと怖いこと言いますよね…事実ではありますが。
そして、戦争を起こそうとしているアメリカに対しては、こう凄みます。
And when push comes to shove,
I will send a fully armed battalion to remind you of my love―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
意味はこうです。
・ そしてもしあまりにも強引になるようだったら
・ 僕の愛を君たちに思い出してもらうために、完全武装軍を送っちゃうからね
この後にお得意の “Da da da da da da da da da daye da” がやってくるので、もうサイコパスとしか言えませんね(笑)。
そして、どんどん調子が出て来てこんなことを歌います。
You say our love is draining and you can’t go on
You’ll be the one complaining when I am gone―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
「僕がいなくなったら、君たち立ち行かなくなっちゃうでしょ?僕に歯向かって良いのかな?」と言わんばかりですね。
・ 君たちは言うよね?僕たちの愛が足りなくて、もうやっていけないって
・ 君たちは僕がいなくなったら、まず文句を言う人達だよ
国王の好きな話題は「アメリカ」
ここは “subject” という単語に注目しましょう。
And, no, don’t change the subject
‘Cause you’re my favorite subject
My sweet, submissive subject
My loyal, royal subject
Forever and ever and ever and ever and ever―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
冒頭はジョージ3世の本性、再びですね(笑)。
ここの “subject” は「話題」という意味です。
・ And, no, don’t change the subject … それから、ダメだ!話題を変えんじゃねーよ!
そして、ここからが少し複雑。
“subject” には「(国王・君主の下にいる)国民,臣民」という意味もありますから、二重の意味を持つ部分もありそうです。
・ だって君たちこそが、僕の大好きな話題(民)なんだからさ
・ 僕の愛らしい、言いなりになるアメリカの民よ
・ 僕の従順な、従順なアメリカの民よ
・ ずっと、ずっと永遠に永遠に永遠に…
国王の凄み
そして最後ですね。
You’ll be back
Like before
I will fight the fight and win the war
For your love
For your praise
And I’ll love you till my dying daysWhen you’re gone, I’ll go mad
So don’t throw away this thing we had
‘Cause when push comes to shove
I will kill your friends and family to remind you of my love―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “You’ll Be Back” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
ここは絶対的権威を自分が持っていることを、非常に柔らかな口調で言っています。
要約するとこうです。
・ 僕は君たちのために戦争に勝って
・ 君たちが死ぬまで愛し続けるよ
・ 君たちがいなくなったら、発狂しちゃうよ
・ もしあまりにも強引になるようだったら
・ 君の友達や家族を殺しちゃうから…僕の愛を君たちに思い出してもらうためにね(知らしめるためにね)
はー、恐ろしい!
一言で言えば「君たちは、僕から逃げられないんだよ」と、凄みをきかせているんですよね。
“Everybody!(皆さんもご一緒に!)” と号令をかけて、上機嫌になる感じもまたサイコパス。
しかしこのジョージ3世の立場も、徐々に崩れていきます。
“What Comes Next?” もお楽しみに!
“You’ll Be Back” の、他の記事はこちらから。
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