ミュージカル『シックス(SIX)』より “Get Down” の英語歌詞を見てみると、”dirty rascal” というフレーズが登場します。
直訳すれば「汚いラスカル」ですが、アニメ『あらいぐまラスカル』から汚いイメージを抱く方は、ほとんどいないでしょう。
“rascal” はどのような意味を持っていて、“dirty rascal” は何を意味するのか解説していきます。
※アン・オブ・クレーヴスの詳しい人物像は、こちらの記事でまとめています。
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『あらいぐまラスカル』と “rascal” の関係性
初めて “rascal(ラスカル)” という単語を聞いた時、私はこの単語の意味が「アライグマ」だと思っていました。
何故なら、ラスカルと聞けば『あらいぐまラスカル』が瞬時に浮かび「ラスカル=あらいぐま」という方程式が自然と浮かび上がってしまうからです。
このように耳馴染みのある単語の意味、特にカタカナで表記された単語は、深掘りすることなくスルーしがちです。
しかも、この作品の場合はあらいぐまのニックネームとして「ラスカル」が使われているため「単なる名前」と処理しがちなのです。
しかし “rascal(ラスカル)” には、明確な意味があります。それが「わんぱく小僧」です。
“rascal” が「あらいぐま」のニックネームになっているのは、「わんぱく小僧」や「イタズラ好きだが憎めない人」という意味があるためです。
これだけ聞くと、アニメは「いたずら好きなあらいぐまの物語なのだ」と捉えがちですが、実は『あらいぐまラスカル』は非常に現実的なテーマを描いている作品だと分かりました。
それは「人間と自然の共存の難しさをテーマにした物語」だということです。
『あらいぐまラスカル』は、アメリカの作家スターリング・ノースが1963年に刊行した小説「はるかなるわがラスカル(Rascal: A Memoir of a Better Era)」を原作としており、作者の少年時代に出会ったアライグマがモデルで、ほぼ実話だそう。
1963年に発表された小説はベストセラーとなり、1969年にはディズニーが実写映画(”Rascal”)を上映、1977年には 日本でアニメ『あらいぐまラスカル』が放送されています。
日本ではアニメの影響もあり、原産国アメリカからあらいぐまを輸入し、ペットブームが起きたようです。
しかし、ペットとして品種改良されていた動物ではなかったため、本能むき出しの野生動物・あらいぐまは、今では害獣(駆除対象)として扱われてしまっています。
人間の自分勝手な振る舞いが、あらいぐまに悲劇をもたらしたと言っても過言ではありません。
『あらいぐまラスカル』に関する詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
ヘンリ8世に向けられた “dirty rascal” の意味
“rascal” には「わんぱく小僧」の意味があり、『あらいぐまラスカル』も、その意味合いからニックネームになっていることが分かりました。
では、ヘンリ8世に向けられた “dirty rascal” は「汚いわんぱく小僧」という意味合いなのでしょうか?
あらいぐまに付けられたニックネームの意味合いには「イタズラ好きだが憎めない人」といったニュアンスが含まれます。
つまり「やんちゃだけれども、何だかんだいって可愛い」といった気持ちがこもっています。
しかし、ヘンリ8世はどうでしょうか?「イタズラ好きだが憎めない人」だったでしょうか?
自分のために、妻と離婚し、斬首を言い渡すような相手を「イタズラ好きだが憎めない人」とは到底言い難いでしょう。
実は “rascal” には大きく分けて3つの意味があるそうです。
- イタズラ好きだが憎めない人 … 何かをしでかした子供や老人を親しみを込めて指し示すのに使われたりする。
- 《旧語》不誠実な人、悪い人 … 1960年代に出版された小説『Godfather』では、この意味で “rascal” が使われる場面がある。
- 《廃語》下層階級の人、生まれつきの身分が低い人 … 英語圏で暮らす平均的な人は “rascal” に「下層階級の人」という意味があるのを知らない。
―『あらいぐまラスカル』の「ラスカル」の意味を教えて!(この英語の意味がわからない!)
『あらいぐまラスカル』は①の意味ですが、ヘンリ8世が妻たちにしてきたことを踏まえれば、”Get Down” で歌われる “rascal” は②であると考えるのが妥当です。
実際、”rascal” の意味を調べると「悪党、人でなし」といった意味があると分かります。
- やくざなやつ、悪党、人でなし、悪漢
- いたずら好きな人、わんぱく小僧
- (親しみを込めて)やつ
―rascal(英辞郎)
しかもそこに「汚い」を意味する “dirty” が付いているため「悪党」や「人でなし」を強調づけていると言えます。
ちなみに “rascal” の語源はフランス語 “rascaille” だそうです。
“rascal” の語源は「群衆、暴徒、最下層の階級の人々」を意味する古フランス語 “rascaille” です。”rascaille” から先の語源は、「こそぎ取る、こする」などを意味する俗ラテン語 “rasicāre” だと考えられています。
―『あらいぐまラスカル』の「ラスカル」の意味を教えて!(この英語の意味がわからない!)
コトバンクでは “rascaille” を「社会のくず、ごろつき、ならず者」と説明しています。
一国の王であったヘンリ8世が「社会のくず」「ごろつき・ならず者(最下層の階級の人々)」を由来とした単語で呼ばれるとは、なんとも皮肉ですね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。