ミュージカル『シックス(SIX)』より “Get Down” の英語歌詞を見てみると、ヘンリ8世の4人目の妻・アン・オブ・クレーヴス(Anne of Cleves)の本音が歌われていることが分かります。
実はこのタイトルには2つの意味があるとお気づきでしたか?
※アン・オブ・クレーヴスの詳しい人物像は、こちらの記事でまとめています。
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目次
“Get Down” の2つ意味
“Get Down” という曲は、4人目の妻・アン・オブ・クレーヴスがヘンリ8世に対し、こんなことを歌っている曲です。
- 自分は王妃だ
- 自分は自立している(ヘンリ8世などいらない)
こういった歌詞からは「私(女)を見くびるな」といった主張が強く感じられます。
そんな強い主張の中に度々登場する “Get Down” というフレーズですが、これは時と場合に応じて使い分けがされていると捉えています。
“Get Down” には沢山意味がありますが、私はこれらの内「ひざまづく」と「ダンスをする」の2つの意味が使い分けられていると考えています。(引用の色付きは、あきかんによる。)
- 下げる、(乗り物などから)降りる、降ろす、着地する
- ダンスをする
- 書き記す、書き取る、書き留める、メモを取る
- 飲み下す、飲み込む
- (こつ・基本・要領などを)飲み込む
- テーブル(食卓)から離れる
- 身をかがめる、ひざまずく、かがむ
- 倒す、撃ち落とす、撃ち殺す、取り壊す、取り除く
- 気分を下げる、落ち込む、落ち込ませる、失望(がっかり)させる、意気消沈させる、しょんぼりさせる、しょげさせる、疲れさせる、気がめいる、うんざりさせる、弱らせる、病気にする
- 身を入れて取りかかる、気合いを入れてやる、本気になる、集中する、真面目にやる、ビシッとやる、始める
- 羽を伸ばす、くつろぐ、楽しくやる、楽しむ、(気分が)のる、リラックスする
- 【俗】セックスする、薬をやる、賭ける
ーget down(英辞郎)
それぞれの意味を、歌詞を見ながら押さえていきましょう。
ひざまづけ
“Get Down” が「ひざまづけ」の意味をなしているのは、サビの部分です。
You, you said that I tricked ya (Tricked ya)
‘Cause I, I didn’t look like my profile picture
Too, too bad I don’t agree
So I’m gonna hang it up for everyone to see
And you can’t stop me ‘cause
I’m the queen of the castle
Get down, you dirty rascal
Get down―ブロードウェイミュージカル“SIX”より “Get Down”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)
この歌詞は次のような意味になります。
- あなたは「私があなたをだました」と言う
- 私が肖像画と見た目が違うという理由でね
- あら、ごめんなさい、私は同意しかねるわ
- だから私は皆に見えるように肖像画を飾るの
- あなたに私は止められない、だって
- 「私はこの城の王妃、ひざまづけ、この汚い野郎が」
- ひざまづけよ
次の記事でも説明している通り、ヘンリ8世は、宮廷画家・ハンス・ホルバインの描いたアン・オブ・クレーヴスの肖像画に一目惚れして結婚を決めています。
いざ対面したら肖像画と違ったため「結婚無効」という手段をとったヘンリ8世ですが、そういった行為に抗ったのがこのサビなのです。
不当なやり方で結婚無効にされたものの、一時は王妃となったアン・オブ・クレーヴス。
対等な立場として反論を突き付け、身勝手なヘンリ8世に対し「ひれ伏せ」と言わんばかりに “Get Down” と歌っています。
ダンスする
「ひざまづけ」が歌詞全体の表面を飾る意味であれば、「ダンスする」はこの曲を下支えしている意味だと言えます。
というのも、この曲の2番にはアン・オブ・クレーヴスがダンスフロアに向かう歌詞があります。(引用の色付きは、あきかんによる。)
Making my way to the dance floor
Some boys make an advance, I ignore them
‘Cause my jam comes on the lute, lookin’ cute
Das ist gut
All eyes on me, no criticism
I look more rad than Lutheranism
Dance so hard that I’m causin’ a sensation
Okay ladies, let’s get in reformation―ミュージカル“SIX”より “Get Down”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)
また最後の方では “Get down with me” と歌っています。
彼女が「私と一緒にひざまづいて」と言うはずがないので「私と一緒に踊りましょう」の意味と捉えて良いでしょう。
曲調がダンスミュージックのような雰囲気であること、ダンスフロアで自分自身を本領発揮していることを踏まえれば、ヘンリ8世に対する “Get Down” とアン・オブ・クレーヴスに対する “Get Down” の関係性は次のように異なると言えるのです。
- ヘンリ8世に対して言い放つ “Get Down” … アンを見下すヘンリ8世に対して抗いを見せる「ひざまづけ」
- アン・オブ・クレーヴス自身に言い放つ “Get Down” … 自身を解放するかたちとしての「ダンスする」
こういった対比が、見事にフレーズと歌詞の中に盛り込まれているように思います。
“I’m the queen of the castle, Get down, you dirty rascal” の意味
“Get Down” に加えて、サビで印象に残るのは “I’m the queen of the castle, Get down, you dirty rascal” というフレーズです。
ここが印象に残りやすいのは、この部分だけ曲調が違うという理由もあるでしょう。
ではなぜここだけ曲調が変わるのでしょうか?
それは、この部分は元からあったフレーズと曲調を引用しているからです。
このフレーズは、英語圏に育った子どもがよく使うフレーズで、相手を小馬鹿にしたり、冷やかしたりする場合に使われるものになります。
(日本で言う「お前のかあちゃん、出~ベソ!」のような類のものです。←古いですが)
しかし “Get Down” で歌われている歌詞と、元の歌詞とでは1点だけ異なる部分があります。
それが “queen” です。元は “king” で、次のように歌われます。
- I’m the king of the castle, Get down, you dirty rascal … 俺はこの城の王様、ひざまづけ、この汚い野郎が
曲調は、こちらからご確認下さい。
(ちなみにここでは “you’re the dirty rascal” となっていますが、歌詞は複数のパターンがあるようです。)
つまり、引用元となっている歌詞の “king(王)” を “queen(王妃)” に変えることで、男性目線だったこのフレーズが、女性目線に変わります。
言い換えれば、前者はヘンリ8世の目線、後者はアン・オブ・クレーヴスの目線で、このような意味の違いが生じます。
- I’m the king of the castle, Get down, you dirty rascal … 俺(ヘンリ8世)はこの城の王様、ひざまづけ、この汚い野郎(アン・オブ・クレーヴス)が
- I’m the queen of the castle, Get down, you dirty rascal … 私(アン・オブ・クレーヴス)はこの城の王妃、ひざまづけ、この汚い野郎(ヘンリ8世)が
もちろん、ヘンリ8世が “I’m the king of the castle, Get down, you dirty rascal” と歌ったわけではありません。
しかし、元のフレーズが男性目線で歌われていることに注目し、”queen” に変更した上で、アン・オブ・クレーヴスに歌わせたのは、”Get Down” の中で最も効果的な歌詞だと感じています。
“dirty rascal” の意味については、次の記事をご覧ください。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。