『SIX』”No Way”の歌詞で歌われる妻の本音

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

ミュージカル『シックス(SIX)』より “No Way” の英語歌詞を見てみると、ヘンリ8世の1人目の妻キャサリン・オブ・アラゴン(Catherine of Aragon)の本音が歌われていることが分かります。

ヘンリ8世が望んだ男子出産を果たせず、離婚させられたキャサリンの胸中を詳しく見ていきましょう。

キャサリン・オブ・アラゴンの詳しい人物像は、こちらの記事でまとめています。

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キャサリン・オブ・アラゴンはどのような人物だったか

 

キャサリンはヘンリ8世の1人目の妻です。

まずは、彼女に関する重要なポイントから見ていきましょう。

 

  • ヘンリ8世の兄・アーサーの妻だった
  • アーサーの死去により、ヘンリ8世のと再婚する
  • ヘンリ8世は後継ぎとして息子を望んだが、7人出産したうち1人の娘しか生き残らなかった
  • 息子を望めないと分かり、キャサリンへの興味が薄れる
  • ヘンリ8世により離婚の申し出があるが、ローマ教皇により却下される
  • 教皇の首位権は違法であるという論文をまとめ、離婚を強行
  • 次の妻となるアン・ブーリンとの間に子どもができる
  • キャサリンは軟禁状態に置かれ、以降1人娘と会えないまま死去

 

これらの情報を見ると「なかなか不遇な女性だな」と思われるかも知れませんが、キャサリンは物事に屈しない女性でした。

特に離婚の申し出があった時も、自身には否がないことをローマ教皇に対し伝えるなどしています。

こういった彼女の芯の強さを、リズミカルで力強い音楽に乗せたのが “No Way” という曲です。

“No Way” とは日常的にもよく交わされる言葉ですが、訳すならこのような意味になります。

 

  • no way … とんでもない、勘弁して、無理、そんなわけがない、そりゃないよ

 

慎ましく、物事に屈しなかったキャサリンの本音を見て行きましょう。

 

サビで歌われていること

 

サビで繰り返し歌われるこの3行。

 

You must think that I’m crazy
You wanna replace me?
Baby, there’s n-n-n-n-n-n-no way

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

この3行は、次のような意味になります。

 

  • あなた(夫・ヘンリ8世)は私をキチガイだと思うでしょうね
  • あなたは私を(別の誰かと)取り替えたいと?
  • ベイビー、それは無理な話よ

 

最初の「キチガイだと思う」というのは「今まで黙って来た私がこんな発言を突然してびっくりする」というニュアンスだと考えています。

そして、あらかじめ押さえておきたいのは、キャサリンがヘンリ8世に「正直であれば、真摯でいてくれれば要望に応じる」というスタンスを取り続けているということです。

このような点を踏まえて “No Way” で歌われているキャサリンの人生について見て行きましょう。

 

“No Way” で歌われる、キャサリン・オブ・アラゴンの本音

キャサリンが守ってきたことと、不倫に対する本音

 

キャサリンは国民から愛された女性で、教養もあり、教育にも力を入れた人物でもあったそうです。

大きなスキャンダルもなくこの世を去ったキャサリンですが、彼女は自身について、まずこのように歌っています。

 

There’s no way
You must agree that baby
In all the time I’ve been by your side
I’ve never lost control
No matter how many times I knew you lied
Have my golden rule
Got to keep my cool
Yeah, baby

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

1点気を注目したいのが、歌詞に登場する “baby” は夫を指しているということです。

ヘンリ8世をこう呼ぶことによって、小馬鹿にしている、マウントをとった歌い方をしているということを覚えておきましょう。

要点をまとめると、次のようなが歌われています。

 

  • 私はいつだってあなたの見方だったっていうことに同意する必要があるわ
  • あなたがどれだけ嘘をつこうとも、私は理性を失ったこともない
  • 私には「(困難な状況に直面しても)取り乱さず冷静でいるべし」っていう道徳があるの

 

理性を失って怒り狂うようなことがなかった彼女にが、なぜこのようなことを歌っているのには理由があります。

それは、理性を失ってもおかしくないようなことが度々あったからです。

 

And even though you’ve had your fun
Running around with some pretty young thing
And even though you’ve had one son
With someone who don’t own a wedding ring
No matter what I heard
I didn’t say a word
No, baby

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

キャサリンとヘンリ8世が夫婦関係にあった間、このようなことがあったのです。

 

  • 若いのとはしゃぎまわって楽しんでいた時も
  • 正式な結婚をしていない相手との間に息子を設けた時も
  • 私はひとことも言わなかったわ

 

“young thing” は直訳すると「若い物」ですが、これは「若い女の子」という意味です。

“young girl” とか “young woman” と歌わない辺り、軽蔑がにじみますよね。

また、結婚していない相手を “who don’t own a wedding ring(結婚指輪を有しない者)” と歌うところも重みがあって良いですね。

(しかも “young thing” と “who don’t own a wedding ring” は韻を踏んでいます!)

 

こういった発言に続いて「でも今度はあなたがシーする(黙る)番、そして私の言うことを聞きなさい」と歌われているのは、非常に重みがあることが分かります。

 

But now it’s time to shh
And listen when I say

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

続けてサビではこのように歌っています。

 

If you think for a moment
I’d grant you annulment, just hold up
There’s n-n-n-n-n-n-no way

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

ここで歌われているのは、このようなことです。

 

  • 一度立ち止まって考えてくれれば
  • 離婚(婚姻の無効)のことを受け付けましょう
  • だってもう道はないもの

 

歴史を通して見ても、こうと決めたら猛進するヘンリ8世。

「離婚」にについても立ち止まって考えることのないヘンリ8世対して、「一度立ち止まって冷静に考えた結果が離婚なのであれば受け入れる」といった思いがこのサビで歌われる本音なのです。

 

 

娘の誕生と、離婚に対する本音

 

どうしても離婚したかったヘンリ8世は、離婚の判断基準となった『旧約聖書』の『レビ記』を引用し、離婚を強引に進めようとします。(詳しくは記事冒頭のリンク先をご覧ください。)

離婚の主な理由は「ヘンリ8世自身の兄の妻であったので、この婚姻は無効である」というものでした。

しかも当時「自分の兄弟の妻と結婚すると呪われる」という認識もあったことから、歌詞ではこのように歌われています。

 

So you read a Bible verse that I’m cursed
‘Cause I was your brother’s wife
You say it’s a pity ‘cause, quoting Leviticus
I’ll end up kiddy-less all my life
Well, daddy, weren’t you there
When I gave birth to Mary?
(spoken)
Aw, hi, baby!

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

内容を見ると、キャサリンが子どもに恵まれなかったことにも触れられています。

 

  • つまりあなたは私が呪われているという聖書の節を読んで
  • つまり私はあなたの兄の妻だったからと言う理由で
  • それは可哀想だからと『レビ記』を引用したのね
  • 私は人生を通して子どもに恵まれなかったけれど
  • ねぇ、パパであるあなた、あなたはそこにいなかったかしら?
  • 私がメアリーに生を与えた時に
  • (あら、赤ちゃん、こんにちは!)

 

この後、他のメンバーによって “Daughters are so easy to forget(娘って本当にすぐ忘れられるのね)” とあるのですが、このフレーズは非常に痛快です。

そもそも『シックス』はフェミニズム要素の強く男性社会への問題提起を皮肉交じりにポップに歌う作品

キャサリンは7人子どもを産んでいますがメアリー以外は流産・死産しています。

後にメアリーは女王になりますが、両親の離婚後は母・キャサリンと会うことが許されないなど、かなり辛い立場に置かれました。

このようなことと、息子を望み続け、娘の出産には度々落胆したヘンリ8世への皮肉が、このようなかたちで歌われているわけです。

これを受けて、サビではこう歌われます。

 

If you thought it’d be funny to
Send me to a nunnery
Honey, there’s no way

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

意味はこうです。

 

  • もし私を修道院に送るなんて面白い考えだなんて思ったなら
  • ハニー、私はそんなことさせないわよ

 

「修道院」という単語が登場しますが、これは事実、キャサリンが「離婚後、修道院に入ることもしない」と主張したことに由来します。

王妃である立場を早々に手放すつもりはない」という本音が、ハッキリと歌われていることが分かりますね。

 

 

キャサリンの怒り爆発

 

キャサリンの本音が一番よく表れているのはこのパートです。

 

You’ve got me down on my knees
Please tell me what you think I’ve done wrong
Been humble, been loyal, I’ve tried
To swallow my pride all along
If you can just explain
A single thing I’ve done to cause you pain, I’ll go

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

キャサリンは1度たりとも、ヘンリ8世を不快に感じさせたことはないと歌っています。

 

  • あなたは私を失望させた
  • 私が何を間違ったか、あなたの口で言って教えて
  • 謙虚で、忠誠心があり、(踏みにじられた)全てのプライドを飲み込んできたのに
  • 何か1つでも私があなたが傷つけたことを教えてくれれば、私はここを去るわ

 

こう歌ったあと、ヘンリ8世から特に言葉はなく「それなら私には去る理由がないわよね?」と語気を強めます。

キャサリンはこうなることを分かって、むしろ逆説的に歌っていたわけですね。

そして最後には次のように締めくくられます。

 

You made me your wife
So I’ll be queen till the end of my life
N-n-n-n-n-n-no way

―ウェストエンドミュージカル“SIX”より “No Way”(作詞:Toby Marlow, Lucy Moss)

 

あなたが私との結婚を望んだの、だから私は生涯王妃なの、ふざけないで!」ということですね。

私は、こんな風に意志が強く、人生を通したキャサリン・オブ・アラゴンが大好きです。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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