劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「陽ざしの中へ(Out There)」の英語歌詞を見てみると、フロローがカジモドに言い聞かせるように歌っています。
「お前は外の世界では生きていけない、生きてはいけない」という内容ですが、ここでやりとりされる内容は英語版と劇団四季版では微妙に異なってきます。
今回序盤の内容を説明していきますよ。
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目次
歌詞のおさらい
今回はそれぞれ、次のパートを比較していきますよ。
英語版
Frollo:
The world is cruel
The world is wicked
It’s I alone whom you can trust
In this whole city
I am your only friendI who keep you, feed you
Teach you, dress you
I who look upon you
Without fearHow can I protect you, boy
Unless you always
Stay in here
Away in here?―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Out There” (作詞:Stephen Schwartz)
劇団四季版
世間は残酷だ
お前が頼れるのは一人
私だけだ食べさせ服を着せて
導いてきたのだここで暮らし続けるなら私が守ろう
―劇団四季ミュージカル 『ノートルダムの鐘』 より 「陽ざしの中へ」(訳詞:高橋知伽江)
英語版と劇団四季版の比較
英語が1音に1語入るのに対して、日本語は1音に1語しか入りません。
従って英語を日本語に訳す場合は、厳選された情報だけがフレーズとして残ります。
このパートでも、英語版の3分の1ほどの情報しか残っていません。
例えば比較してみるとこうなっています。
- 世間は残酷だ = The world is cruel
- お前が頼れるのは一人 私だけだ = It’s I alone whom you can trust
- 食べさせ服を着せて = feed you
- 導いてきたのだ = dress you
- ここで暮らし続けるなら私が守ろう
それでは具体的に説明していきます。
※ちなみに、最後の「ここで暮らし続けるなら私が守ろう」は意訳になっているため、対応する英語版がありません。
この部分については後程説明しますね。
フロローが英語で歌っている内容
世間はどんなところか?
まず最初の2行に注目してみましょう。
いずれも “The world is ~” で始まっていますよね。 “world” とは「世界」というイメージが強いですが、この場合は「世間」や「世の中」になります。
“cruel” は劇団四季版でも訳されている通り「残酷」という意味ですが、次の “wicked” は「邪悪な」です。
劇団四季の人気ミュージカル『ウィキッド(Wicked)』は「邪悪」という意味だったんですね。
カジモドが信じられるのは?
「お前が頼れるのは一人/私だけだ」となっている劇団四季版ですが、日本語訳されていない “In this whole city” “I am your only friend” の意味を知るともっともっと辛くなります。
“whole” は「全ての、全部」という意味で、 “this city” の「この町」とは「パリ」のことを指しています。ですから「この町全体でお前が頼れるのは私だけ。私はお前のたった1人の友だ。」と歌っているのです。
“alone” や “only” が際立つ歌詞になっています。
フロローがカジモドにしてやることは?
「食べさせ/服を着せて」以外に、フロローがカジモドにしてやっていることが2つあります。
それが “keep you” 、 “Teach you” です。
“keep” は「保管する、とっておく」という意味ですが、このシーンでは「かくまう」が適当でしょう。
その上 “I who ~” という文章の始まりになっているので「私はお前をかくまい、食を与え、教え、服を与える者」となります。
フロローの “Without fear” に注目!
「導いてきたのだ」と訳されているパートですが、実は英語版には「導いてきた」に当たる表現はありません。
注目すべきは “Without fear” です。
“without” とは「~なしに」という意味で、 “fear” が「恐れ」ですからここは「恐れなしに」という意味になるのです。
とてもシンプルな表現ですが、伝わってくるメッセージは強く心がえぐられます。
醜いからお前を恐れて近寄ってくる人などいないだろう…という意味を含んだ上で「私はそういった恐れ抜きにお前の面倒を見てやれる人間だ」と歌っているのです。
一見愛情のようにも見受けられますが、カジモドという身内がいることについて後ろ指を指されることを恐れ、カジモドに外へ行かないよう教え込んでいるんですね。
日本語だと条件っぽく聞こえる!?
今回紹介した最後のフレーズは、日本語で「ここで暮らし続けるなら私が守ろう」になっていました。
これを聞くだけだと条件のように聞こえてしまいます。
「ここで暮らし続けるなら私が守るが、そうでないなら私にできることがあるか分からない」といったように。
しかし英語版ではそのように歌われてはいません。
“How can I protect you boy” は「どのようにしたら守ってあげることが出来るだろうか」という意味です。
“unless” は「~しない限り」ですから「ここに留まらない限り、私はお前をどう守ってやったらいいのだろう?」とカジモドに問いかける表現になっています。
優しい言い方が観客にフロローの狂気をより感じさせ、目に見えない束縛的な大きな印象を残す表現になっていることが分かりますね。
「中世ヨーロッパにおける身体障がい者の扱い」や、カジモドと「キリスト教における罪の概念」との関係性は【ミュージカル『ノートルダムの鐘』が現実的な3つの理由:~ 中世の身体障がい者、ジプシー、そして魔女狩り ~】で詳しくまとめています。
中世ヨーロッパのリアルを知ることで、作品の見え方に深みが出ます。読んで視野を広げてみて下さいね。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。