Out There②フロローの考え方の本質が見え透く歌詞の数々

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「陽ざしの中へ(Out There)」の英語歌詞を見てみると、フロローがカジモドに言い聞かせるように歌っています。

「お前は外の世界では生きていけない、生きてはいけない」という内容ですが、ここでやりとりされる内容は英語版と劇団四季版では微妙に異なってきます。

今回中盤の内容を説明していきますよ。

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歌詞のおさらい

 

今回はそれぞれ、次のパートを比較していきますよ。

 

英語版

 

Frollo:
Remember what I’ve taught you, Quasimodo.

Frollo:
You are deformed

Quasimodo:
I am deformed

Frollo:
And you are ugly

Quasimodo:
And I am ugly

Frollo:
And these are crimes
For which the world
Shows little pitty
You do not comprehend

Quasimodo:
You’re my defender

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Out There” (作詞:Stephen Schwartz)

 

劇団四季版

 

フロロー:
カジモド忘れるな お前は

フロロー:
醜い

カジモド:
醜い

フロロー:
気持ち悪い

カジモド:
気持ち悪い

フロロー:
だからみんなに嫌がられる
仕方がない

カジモド:
守ってください

―劇団四季ミュージカル 『ノートルダムの鐘』 より 「陽ざしの中へ」(訳詞:高橋知伽江)

 

フロローが英語で歌っていること

カジモドに念を押す

 

まず1行目から見ていきましょう。

“Remember what I’ve taught you, Quasimodo.” は、一見すると劇団四季版の「カジモド忘れるな お前は」と同じ意味に見てとれます。

しかし、劇団四季版では “what I’ve taught you” の部分が省かれているんです。

“what I’ve taught you” は「私が教えてやったこと」という意味ですから、英語版の意味は「私が教えてやったことをよく覚えておきなさい、カジモド」となります。

少し高圧的で有無を言わせないような日本語に対して、英語は諭し教え込むような印象があります。

だからといってフロローのこの言葉が優しいのかというとそうではありません。

むしろ次に続く歌詞とセットで見ると末恐ろしさまで感じます。

 

カジモドに認識させる

 

「醜い」「気持ち悪い」と歌われているところは、英語では次のようになっています。

 

  • You are deformed
  • And you are ugly

 

“deform” は “de” と “form” に分けることができます。

“form” というのは劇団四季版でも「フォーム」というように「形作られている」という意味になり、 “de” は続く言葉の反対を意味するので「形の崩れた」という意味合いになります。

これは目に明らかなカジモドの外見について明言しているもので「醜い、なり損ない」に当たります。

“ugly” も「醜い」という意味ですが、外見的なものに加えて感情も含まれる単語ですから「見苦しい、不快な」が適当です。

従ってここは「お前は醜い、お前は見苦しい」と歌っているのです。

その上、 “You are ~” 、 “I am ~” と歌われているため、「お前は醜い」「僕は醜い」と誰が醜いのか繰り返し明言される分、聴いていて辛い内容になっています。

 

 

醜いことは罪

 

ただでさえ辛い内容なのに、追い打ちをかけるようにフロローは言います。

“And these are crimes(そしてこれらは罪だ)” と。

これは劇団四季版にはなかった表現です。

そして劇団四季版で「仕方がない」となっている部分の「何故仕方がないのか」に当たる部分が、英語版では詳細に歌われています。

 

  • For which the world … 世の中が
  • Shows little pitty … ほんのわずかな情けを見せない限り
  • You do not comprehend … お前は理解されない

 

カジモドたちが今いる現実がこういった世の中ですから、これを要約して「仕方がない」と訳してもユアンスとしては大きく変わらないことが分かって頂けたのではないでしょうか。

フロローが歌っていることはいじめというような陰湿なものではなく、カジモドが醜いことが事実で社会とは冷たいものだという現実を正面から教えるものです。

そしてこの点を完全に否定できないからこそ、私たちは見ていて辛い。

それ故に、胸を鷲掴みにされてしまうんですよね…。

 

カジモドは乞わない

 

「カジモド、忘れるな。お前はこんなに醜いから、みんなに嫌われてしまう。」と言うフロローに対して「守ってください…。」と返すのが劇団四季版の展開で、どちらかというとフロローが首位にいるような展開になっています。

カジモドがフロローに守って欲しいという願いを乞うような形になっている点でそれを理解することができます。

しかし、英語版は「カジモド、教えてやったことを覚えていなさい。お前は醜い、世の中が情けをかけない限りお前は理解されないんだ。」というフロローに対して「あなたこそが私を守って下さる人です(You’re my defender)」と返しています。

この2つの表現は似ていますが同じではなく、英語版の方がフロローの言っていることそ心底信じ込んでいるような、カジモドにとってフロローは絶対的存在であるようなそんな関係性が見て取れます。

この後カジモドは外の世界に出ていくことになりますが、酷い目にあって「ご主人様の言っていたことは本当だったんだ」と分かるとき、この曲との結びつきが非常に強くなってくるので、このやりとりの内容をよく理解しておくと良いですよ。

 

「中世ヨーロッパにおける身体障がい者の扱い」や、カジモドと「キリスト教における罪の概念」との関係性は【ミュージカル『ノートルダムの鐘』が現実的な3つの理由:~ 中世の身体障がい者、ジプシー、そして魔女狩り ~】で詳しくまとめています。

中世ヨーロッパのリアルを知ることで、作品の見え方に深みが出ます。読んで視野を広げてみて下さいね。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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