「地獄の炎」ラテン語の意味を知って初めて分かる、フロローの懺悔

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より“Hellfire(地獄の炎)”の英語歌詞を見てみると、ラテン語と英語が交互に入れ替わるような歌詞構成になっています。

ここで歌われるラテン語の意味を知ることが、この曲を理解する最大の胆!この歌詞、実は鳥肌ものですよ…

※全体を読みやすくするため記事の構成を変更致しました。(2017.6.27)

ラテン語パートで歌われている内容とは?

フロローが聖母マリアを前に、歌うのは「自分はいかに正しいか」ということ。そしてそれは次第に「悪いのはエスメラルダだ」という責任転嫁に変わっていき、最終的には歪んだ愛情に落ち着いてしまいます。

強すぎる愛、欲情が、あらゆるものに抑圧された結果です。

この曲は非常に巧みな構成になっていますが、このラテン語の部分に技がつぎ込まれています。どんな風に巧みなのか…答えを先に言いましょう。

ラテン語はフロローの理性の部分、英語はフロローの葛藤そして言い訳を歌っています。

 

曲を聴く前に構成を理解することが重要

理性では十分に理解しているのです、自分が聖職者で異性を愛してはいけないということを…そして自分が恋してしまったことに気付いているからこそ、犯していけない罪を起こしてしまったと、繰り返しラテン語で歌われているのです。

コーラスが歌うことで、フロローを代弁しているようにも聞こえれば、神の戒めの声のようにも聞こえます。

一方、フロローの口から出てくる言葉は葛藤。何故、今まで真摯に神と向き合ってきたのに、心が揺らいでしまうのかというフロローの苦悩、そして苦難の部分です。

例えて言うなら『ライオンキング』の“The Madness of King Scar(スカー王の狂気)”が分かりやすいです。スカーが「ちがう」「そうだ」「ちがう」「そうだ」と、交互に歌うあのシーン。

自分が実際に感じている自分自身の部分がラテン語で、思い込もうとしている自分自身が英語で歌われているといえば分かりやすいでしょうか…?

 

 

ラテン語パートを解読する

前置きが長くなりました…

今回は英語サイトDisney Wikiaを参考にしています。ラテン語パートが英語訳されていましたので、これを元に理解を深めていこうと思います。

本記事では、“Hellfire(地獄の炎)”でコーラスが歌うラテン語の部分だけを抜き取って説明していきますので、全て読み切った後、ご自身で本来の歌詞に当てはめてみてみて下さい。

すると、ぞっとするほど奥行きのある曲になり、フロローの沸騰するような感情を体験出来るはずです。

 

懺悔する6つの対象が明確に…

それでは冒頭から見ていきましょう。( )内がDisney Wikiaに記載されていた英訳です。

 

Confiteor Deo Omnipotenti(I confess to God almighty
Beatae Mariae semper Virgini(To blessed Mary ever Virgin
Beato Michaeli archangelo(To the blessed archangel Michael
Sanctis apostolis omnibus sanctis(To the holy apostles, to all the saints
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

キリスト教の用語が沢山並んでいて少し難しいように感じるかもしれませんね。しかし、それぞれの用語さえ理解してしまえば、歌っている内容は簡単に理解できます。

ここでは、フロローがまず聖母マリアを前に「これから懺悔をします」という内容が、非常に丁寧に歌われているんです。

 

  • Confiteor Deo Omnipotenti(I confess to God almighty
    ⇒私は告白します、全能な神に向かって
  • Beatae Mariae semper Virgini(To blessed Mary ever Virgin
    ⇒処女マリアに向かって
  • Beato Michaeli archangelo(To the blessed archangel Michael
    ⇒大天使ミカエルに向かって
  • Sanctis apostolis omnibus sanctis(To the holy apostles, to all the saints
    ⇒聖なる使徒たち、全ての聖人に向かって

 

まず、“I confess”で「私は告白します」となります。それ以降は全て“to~”となっており「誰に対して(告白)するか…」ということが歌われています。ですから、フロローは次の「5つの対象に向かって告白します」ということを歌っているのです。

 

  1. 全能の神(to God
  2. 処女マリア(to blessed Mary ever Virgin
  3. 大天使ミカエル(to the blessed archangel Michael
  4. 聖なる聖徒たち(to the holy apostles
  5. 全ての聖人(to the holy apostles, to all the saints

 

つまり、自分が今まで聖職者として向き合ってきた全ての対象に対して「懺悔をする」と歌い始めているのです。

この冒頭の歌詞だけ見ても、フロローが感じている罪の重さを理解することが出来ますが、フロローが自分の潔白を英語で歌った後に出てくるラテン語が次です。

 

Et tibi Pater(And to you, Father
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

Father”は「父親」ですが、ここは先頭が大文字になっているので、教父を指していといえるでしょう。

先に述べた5つの対象に加えて、「いつも身近にいる教父様にも告白します…」という意味で“And to you, Father(そして教父様、あなたにも)”と歌っているのですね。この1行は結構胸にガツンと重く響くフレーズではないでしょうか。

 

 

フロロー、罪を認める

そしてフロローは続けざまに身の潔白さを英語で歌います。みだらで低俗な人間(ここでは暗にジプシーを指しているといえます)に比べたら、自分がどんなに清い人間かということを。

それに続くのが、このフレーズです。

 

Quia peccavi nimis(That I have sinned
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

出ました、“sin(罪)”という単語。

本来であれば、フロローの口から絶対出ない言葉ですよね。本当は、フロローだって、自分が恋をしてしまったということを認めたくないんですから…。

しかし、ここで初めて告白しているのです…神、聖母マリア、大天使ミカエル、聖なる聖徒や聖人、そして教父様に“That I have sinned(罪を犯してしまった)”ということを…。

 

フロローが考える3つの罪

That I have sinned(罪を犯してしまった)”の後に続くのは、「何故エスメラルダが踊るのを見ると自分の魂は燃え上ってしまうのか…」という葛藤です。

それに対して、ラテン語はこう続きます。

 

Cogitatione(In thought
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

ここは次に出てくるラテン語のフレーズとセットにして考えた方が分かりやすいので、先に進みます。フロローの熱い気持ちは収まらず、「燃えるような思いは自分ではもはやコントロールできない」という内容を英語で歌った後、このように続きます。

 

Verbo et opere(In word and deed
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

さて、ここは“in thought”、”in word”、”in deed”の3点がセットになっています。つまり、先程説明した“That I have sinned”の続きがこの部分で、文章にすると“That I have sinned in thought, in word, in deed.”となるわけです。

では、どういった点で「罪を犯した」と考えているのか…それがこの3点ですね。

 

 

つまり、「思想上でも、言葉上でも、行動上でも」罪を犯してしまったと言っているのですが…結局は、全ての角度から罪を犯してしまったという意味になります。

「全面的な罪を犯してしまった!」と歌うよりも、こう歌われた方がより心がえぐられませんか?

 

 

サビで歌われるフロローの苦しみ

そしてこの後がサビですね。「私のせいではない、彼女の熱い炎が私を罪に陥れてゆく」とエスメラルダに罪を責任転嫁をした後、こういうフレーズが続きます。

 

Mea culpa(Through my fault
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

これは「私の過ちを通して」という意味になりますが、途中で、次のフレーズに切り替わる箇所もあります。

 

Mea maxima culpa(Through my most grievous fault)
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

ここでは、先程の“Through my fault(私の過ちを通して)”よりも過ちに強調がかかった“Through my most griveous fault(私の最も許しがたい罪を通して)”ですね。

 

まとめると…?

いかがですか?このラテン語を理解していくというのは、フロローの心の中をのぞくような経験に近い気がしています。ここまでの内容をまとめると、こうなります。

「私は告白します
全能な神、処女マリア、大天使ミカエル、聖なる使徒たち、全ての聖人に向かって
そして、教父様あなたにも
私が自身の過ちを通して、最も許しがたい罪を通して
思考上、言動上、行動上で罪を犯してしまったということを」

…辛い。…重い。

フロローが献身的で真面目な聖職者だと知っているが故に、私たちの心に重くのしかかる内容ですね。

 

 

最後の最後で分かる、フロローの末恐ろしさ

さて、背景で歌われるラテン語のコーラスがフロローの理性の部分だと分かりましたが、この曲が本当の意味ですごいのはラストの部分です。

先程紹介したラテン語パートが終わると、その後はひとしきりフロローが英語で歌います。そして感情が歪んだ愛情になり果てた後、1つだけ歌われるラテン語フレーズがこれです。

 

Kyrie Eleison(Lord have mercy
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

『ノートルダムの鐘』でよく出てくるフレーズで「主、憐(あわ)れめよ」、「神よ、どうか情けを」という意味になります。詳細について記事を書きましたので、併せてご覧ください。

 

フロローは自分が真摯に向き合ってきた全ての対象に自分の罪を洗いざらい話して最後、「どうか天罰を下さないでください」と嘆願しているのです。マリア様の前にひざまづいて、ただひたすらに祈る姿が想像できます。

しかし、そのフレーズで終わらせないのがこの曲のすごいところ。直後の英語歌詞がどうなっているか、ご存知ですか?

 

ラテン語と英語で変わる「情け」のニュアンス

「キリエ・エレイソン」直後の英語歌詞がどうなっているか、ご存知ですか?歌詞はこうなっています。

 

God have mercy on her
―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire”

 

一見、「彼女(エスメラルダ)に情けを」と歌っているので優しいじゃないかと思うかもしれません。

でも違うんです。ここで歌われているのは、そんな生易しい感情ではないんです!ここではフロローの心身が完全に二極化した状態が表現されています。

このフレーズに辿りつくまで、フロローは「我が物にならないのであれば、焼かれろ」と歌っています。ですからこの時点で、エスメラルダが火あぶりの刑になることは確定しているんですね。

その上でmercy(情け)と言っている訳ですから「せめて、火あぶりになる女に情けをかけてやって下さいよ、神様」といったスタンスで“God have mercy on her”のフレーズが歌われていることになるのです。

mercyの意味合いが「キリエ・エレイソン」と180°違うんです…

 

フロロー、感情の揺れを体感しよう

本当は罪だと分かっており、全精力を注いで懺悔しているのがこのラテン語で描かれた部分でした。

このラテン語だけ読むと、弟を愛していた素直で、真面目で、神に忠実なフロローが垣間見えます。しかし、そんなラテン語の歌詞が、自分を正当化する英語歌詞と合わさるからこそ、感情の揺れ動きを歌詞から感じられるのです。

長い記事をお読み下さり有難うございました。フロローの苦悩、あなたはどれだけ体感できましたか?

理性さえもコントロールできなくなり、結果最期を迎えることになるフロローですが、その際彼はとても重要な言葉を残しています。こちらの記事を併せてお読み頂くと、よりフロローの心情を理解出来るはずですよ。

 

♪『ノートルダムの鐘』の曲一覧はこちらから:ノートルダムの鐘/英語歌詞を徹底分析!日本語で意味を理解しよう

⇒【ノートダムの鐘】オリジナルキャスト画像集はこちら☆・’

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※CDでは上演される一部の曲しか収録されていないため、本サイトでは、曲名・曲順・歌詞は全て上演内容に順じています。参考サイトは次の通りです。CDの内容とは一部異なりますので予めご了承下さい。(参考サイト:LYRICS TO DISNEY’S HUNCHBACK OF NOTRE DAME MUSICAL (LA JOLLA PLAYHOUSE AND PAPER MILL PLAYHOUSE)

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