「地獄の炎」ラテン語の意味を知って初めて分かる、フロローの懺悔

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「地獄の炎(Hellfire)」の英語歌詞を見てみると、ラテン語と英語が交互に入れ替わるような歌詞構成になっています。

ここで歌われるラテン語の意味を知ることが、フロローを理解する最大の胆!実はこのラテン語、鳥肌ものの内容です。

この記事では「地獄の炎(Hellfire)」で歌われる、ラテン語の意味を解説します

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ラテン語で歌われる「理性」、英語で歌われる「葛藤・言い訳」

地獄の炎(Hellfire)」は聖母マリアを前に、「自分はいかに正しいか」をフロローが歌う曲です。

しかし、抑圧された強すぎる愛情・欲情は、次第にエスメラルダへの責任転嫁に変わっていき、最終的には歪んだ愛情へと堕ちていきます。

この曲の雰囲気を創り上げている、重要な役割を担うのが「ラテン語」。さて、このラテン語を理解しようと試みた方はどれくらいらっしゃいますか

地獄の炎(Hellfire)」は、ラテン語と英語が行き来する非常に巧みな歌詞構成になっており、ラテン語の部分には凄まじい技がつぎ込まれています

どのようにに巧みで、どのように凄まじいのか答えを先に言いましょう。

ラテン語ではフロローの理性、英語ではフロローの葛藤と言い訳が歌われているのです。

理性では十分に理解しているのです、自分が聖職者で異性を愛してはいけないということを。

そして自分が恋してしまったことに気付いているからこそ「罪を犯してしまった」と繰り返し歌われるのです。

コーラスが歌うことで、フロローを代弁しているようにも聞こえれば神の戒めの声のようにも聞こえるラテン語。一方で、フロローの口から出る葛藤の言葉の数々

今まで神と真摯に向き合ってきたのに、何故心が揺らいでしまうのか」という苦悩するフロローのパートを見ていきましょう。

ラテン語を解読する

今回はラテン語を理解する上で参考にしたのは、Disney Wikiaです。ラテン語が英訳されていたので、これを元に理解を深めていこうと思います。

本記事では、コーラスが歌うラテン語パートだけを抜き取って説明していきますので、読み終えたらご自身で歌詞に当てはめて読んでみて下さい。

ぞっとするほど奥行きのある曲になり、フロローの沸騰するような感情を体験出来るはずです。

懺悔する6つの対象が明確に…

それでは冒頭から見ていきましょう。( )内がDisney Wikiaに記載されていた英訳です。

Confiteor Deo Omnipotenti(I confess to God almighty)
Beatae Mariae semper Virgini(To blessed Mary ever Virgin)
Beato Michaeli archangelo(To the blessed archangel Michael)
Sanctis apostolis omnibus sanctis(To the holy apostles, to all the saints)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

キリスト教の用語が沢山並んでいて少し難しいように感じるかもしれませんが、それぞれの用語さえ理解してしまえば、内容は簡単に理解できます。

フロローが聖母マリアを前に「これから懺悔をします」という内容が、非常に丁寧に歌われています。

  • I confess to God almighty:私は告白します、全能な神に向かって
  • To blessed Mary ever Virgin:処女マリアに向かって
  • To the blessed archangel Michael:大天使ミカエルに向かって
  • To the holy apostles, to all the saints:聖なる使徒たち、全ての聖人に向かって

“I confess to~” で「私は誰に対して(告白)します」となりますが、その対象が次の5つです。

  1. 全能の神
  2. 処女マリア(聖母マリア)
  3. 大天使ミカエル
  4. 聖なる聖徒たち
  5. 全ての聖人

つまり、自分が今まで聖職者として向き合ってきた全ての対象に対して、「自分の罪を告白する」「懺悔をする」と歌い始めているのですね。

冒頭の歌詞だけ見ても、フロローが感じている罪の重さを理解することが出来ますが、フロローが自分の潔白を英語で歌った後に出てくるラテン語が次です。

Et tibi Pater(And to you, Father)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

“Father” は「父親」ですが、ここは先頭が大文字になっているので、教父を指していといえるでしょう。

先に述べた5つの対象に加えて「いつも身近にいる教父様、あなたにも告白します」という意味で “And to you, Father” と歌っているのですね。

この1行は結構胸にガツンと重く響くフレーズではないでしょうか。

フロロー、罪を認める

フロローは続けざまに、身の潔白を英語で歌います。意味は「みだらで低俗な人間(ここでは暗にジプシーを指しているといえます)に比べたら、自分がどんなに清い人間かということを。」です。

You know I’m so much purer than
The common, vulgar, weak, licentious crowd

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

それに続くのが、このフレーズ。

Quia peccavi nimis(That I have sinned)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

出ました、 “sin(罪)“。

本来であれば、フロローの口から絶対出ない言葉ですよね。フロローだって、本当なら自分が恋をしてしまったことを認めたくないんですから。

しかし、ここで彼は初めて告白します。神、聖母マリア、大天使ミカエル、聖なる聖徒や聖人、そして教父様に「罪を犯してしまった」ということを。

フロローが考える3つの罪

罪の告白の後に続くのは「何故エスメラルダが踊るのを見ると自分の魂は燃え上ってしまうのか…燃えるような思いは自分ではもはやコントロールできない」という葛藤。

Then tell me, Maria
Why I see her dancing there
Why her smold’ring eyes still scorch my soul

Cogitatione(In thought)

I feel her, I see her
The sun caught in her raven hair
Is blazing in me out of all control

Verbo et opere(In word and deed)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

それぞれのラテン語は “in thought” 、 “in word” 、 “in deed” の3点がセットになっています。

つまり、先に説明した “That I have sinned” の続きがこの部分で、文章にすると “That I have sinned in thought, in word, in deed.” となるわけです。

どういった点で「罪を犯した」とフロローは考えているのか…それがこの3点。

  • thought:思想
  • word:言葉
  • deed:行動、行為

つまり「思想上でも、言葉上でも、行動上でも」罪を犯してしまったと歌っています。結局は全ての角度から罪を犯してしまったということですね。

「全面的に罪を犯してしまった!」と歌うよりも、こう歌われた方がより心がえぐられます…。

サビで歌われるフロローの苦しみ

そしてこの後がサビ。「私のせいではない、彼女の熱い炎が私を罪に陥れてゆく」とエスメラルダに罪を責任転嫁をした後、次のフレーズが繰り返し登場します。

Mea culpa(Through my fault)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

これは「私の過ちを通して」という意味になりますが、途中で、次のフレーズに切り替わる箇所もあります。

Mea maxima culpa(Through my most grievous fault)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

ここでは、先程の「私の過ちを通して」よりも過ちに強調がかかった「私の最も許しがたい罪を通して」という意味です。

まとめると…?

ここまでの内容をまとめると、こうなります。

  • 私は告白します
  • 全能な神、処女マリア、大天使ミカエル、聖なる使徒たち、全ての聖人に向かって
  • そして、教父様あなたにも
  • 私が自身の過ちを通して、最も許しがたい罪を通して
  • 思考上、言動上、行動上で罪を犯してしまったということを

…辛い。…重い。

フロローが献身的で真面目な聖職者だと知っているが故に、私たちの心に重くのしかかる内容ですね。

最後の最後に分かる、フロローの末恐ろしさ

ラテン語を理解する行為は、フロローの心の中をのぞくような経験に近い気がしますね。

背景で歌われるラテン語のコーラスがフロローの理性だと分かりましたが「地獄の炎(Hellfire)」が本当の意味ですごいのはラストの部分です。

先程紹介したラテン語パートが終わると、その後はひとしきりフロローが英語で歌います。

そして感情が歪んだ愛情になり果てた後、1つだけ歌われるラテン語フレーズがこれです。

Kyrie Eleison(Lord have mercy)

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

これは『ノートルダムの鐘』でよく登場するフレーズで「主、憐(あわ)れめよ」、「神よ、どうか情けを」という意味です。

フロローは自分が真摯に向き合ってきた全ての対象に自分の罪を洗いざらい話し、最後「どうか天罰を下さないでください」と嘆願しているのです。

マリア様の前にひざまづいて、ひたすらに祈る姿が想像できます。

ラテン語と英語で変わる「情け」のニュアンス

しかし、そのフレーズで終わらせないのが「地獄の炎(Hellfire)」のすごいところ。直後の英語歌詞がどうなっているか、ご存知ですか?

God have mercy on her

ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Hellfire” (作詞:Stephen Schwartz)

「彼女(エスメラルダ)に情けを」と歌っているので、一見「優しいじゃないか」と感じるかもしれません。

でも違うんです。ここで歌われているのは、そんな生易しい感情ではないんです!

ここではフロローの心身が完全に二極化した状態が表現されています

このフレーズに辿りつくまで、フロローは「我が物にならないのであれば、焼かれろ」と歌っています。

ですからこの時点で、エスメラルダが火あぶりの刑になることは確定しているんですね。

その上で “mercy(情け)” と言っている訳ですから「せめて、火あぶりになる女に情けをかけてやって下さいよ、神様」といったニュアンスで “God have mercy on her” のフレーズが歌われていることになるのです。

フロローの、感情の揺れを体感しよう

本当は罪だと知りながら、全身全霊で懺悔しているのがラテン語で描かれたパートでした。

ラテン語だけ読むと、弟を愛していた素直で、真面目で、神に忠実なフロローが垣間見えます。

しかしそんなラテン語の歌詞が、自分を正当化する英語歌詞と合わさるからこそ感情の揺れ動きを歌詞から感じられるのです。

フロローの苦悩、あなたはどれだけ体感できましたか?

理性さえもコントロールできなくなり、最期を迎えることになるフロローですが、その際彼はとても重要な言葉を残しています

こちらの記事を併せてお読みいただくと、よりフロローの心情を理解出来るはずですよ。是非併せてご覧ください。

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』の解説を、音声配信しています!予習・復習向けの情報もまとめているので、ご興味のある方は、併せてご覧ください。

また、英語歌詞の解説・考察を読みたい方は、こちらのページからご覧ください。

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