ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(Hedwig and the Angry Inch)』より “Wicked Little Town (Reprise)” の英語歌詞を見てみると、トミーの「愛の解釈」と、トミーのヘドウィグに対する懺悔が分かります。
トミーがヘドウィグによって何を得、何を失い、どのようにヘドウィグを解放していったのかを見ていきましょう。
※こちらの記事をお読みいただくと、より理解が深まります。是非、事前にお読みください!
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トミーの「愛の解釈」
ヘドウィグが「愛の起源」に基づいて「愛」を語るように、トミーは旧約聖書の「アダムとイヴ」に基づいて「愛」を語ります。
それは、このようなものでした。
- アダムの肋骨からイヴは創られたが、イヴが生み出されたことによって結果的に楽園(エデンの園)は崩壊してしまった
- イヴがアダムの中にいた時の方が、人間は幸せだったのかもしれない
- だとしたら、人間は1つになること(セックス)によって楽園を取り戻すことができるのではないか
これは、ヘドウィグの持っていた「愛の解釈」や「カタワレ」に通ずるものがあります。
※「愛の解釈」については、こちらの記事をご覧ください。
トミーがヘドウィグと似たような考えを持っていたことから、ヘドウィグは運命のカタワレはトミーだと認識するようになります。
ヘドウィグに対する懺悔
しかしヘドウィグの股間にあるものを知ったトミーは、ヘドウィグと距離を置くようになります。
ヘドウィグの楽曲を盗み1人ロックスターとなるトミーですが、ヘドウィグとの日々を振り返り歌うのが、この “Wicked Little Town (Reprise)” です。
かつてヘドウィグが歌う “Wicked Little Town” によって心が解放されたトミーは、現在の気持ちを同じ曲に乗せて歌い、ヘドウィグの心を解放していきます。
“Wicked Little Town (Reprise)” とヘドウィグの歌う “Wicked Little Town” とでは歌詞が異なりますが、共通する部分があります。(”Wicked Little Town” では “when” が “if” になっています。)
So when you’ve got no other choice
You know you can follow my voice
Through the dark turns and noise of this wicked little town―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Wicked Little Town (Reprise)”(作詞:Stephen Trask)
ここは「自分を見失ったら、小さな邪悪な街(Wicked Little Town)の、暗い曲がり角の喧噪の向こう聞こえる、僕(私)の声に耳を傾けて」というニュアンスになり、互いに対して最も伝えたいメッセージになっていると言えるでしょう。
“Wicked Little Town (Reprise)” は “Wicked Little Town” とセットで読むことで、理解が深まります。是非併せてご覧ください。
ヘドウィグを解放したトミー
トミーはヘドウィグを愛していましたが、ヘドウィグの身体を受け止めきれず去ってしまいました。
しかし今では、いかに自分が子どもであったかや、ヘドウィグが大きな存在であったかが分かったということが、冒頭で歌われています。
Forgive me
For I did not know
‘Cause I was just a boy
And you were so much moreThan any god could ever plan
More than a woman or a man
And now I understand how much I took from you
That, when everything starts breaking down
You take the pieces off the ground
And show this wicked town something beautiful and new―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Wicked Little Town (Reprise)”(作詞:Stephen Trask)
意味はこうです。
- 何も知らなかった自分を許してほしい
- 僕はまだ少年(子ども)で
- 君は女性でも女性でもなく、神の計画よりもずっと素敵な素材だった
- 今ならわかる、僕がどれだけのものを君から奪ってしまったのかが
- 全てのものが崩れ落ちる時
- 君はその欠片を1つずつひろって
- 小さな邪悪な街を美しく新しいものにするんだ
またトミーは、ヘドウィグや自分の「愛の解釈」を踏まえて、こう歌います。
You think that luck
Has left you there
But maybe there’s nothing
Up in the sky but airAnd there’s no mystical design
No cosmic lover preassigned
There’s nothing you can find that can not be found―ブロードウェイミュージカル“Hedwig and the Angry Inch”より “Wicked Little Town (Reprise)”(作詞:Stephen Trask)
意味はこうです。
- 君は運が尽きたと言うけれど
- 空には空気以外何もないのかもしれない
- そして神話的なものもなければ
- 運命の相手が事前に用意されているわけでもない
- 見つかるはずのないものは見つからないんだ
神話的とは「アダムとイヴ」の物語、運命の相手とは「カタワレ」のこと。
そして、ヘドウィグが求めていたカタワレとはヘドウィグ自身のように見える…とも歌います。
これは「運命のカタワレ」など存在せず、どんなに不完全と感じたとしても、人間は1人で完全体だということを意味しています。
長年「運命のカタワレ」を求めて来たヘドウィグとしては、受け止め難いメッセージだったことでしょう。
しかしトミーの歌によって、ヘドウィグは自分自身を受け入れられるようになり、解放されていくのです。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。