ミュージカル『キンキ―ブーツ(Kinky Boots)』より “Land of Lola” の英語歌詞を見てみると、ローラが自分自身の性と人種について皮肉を交えながら歌っていることが分かります。
彼女の前向きで力強い生き方を歌詞から知ることができたとき、あなたはきっと今まで以上にローラの虜になっているはずです。
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目次
“Land of Lola” の魅力
まず先に白状します。
私は『キンキーブーツ』というミュージカルが、ものすごく好き…という訳ではありません。この作品を猛烈に熱烈に愛しているか…と聞かれれば「そこまででもない」と答えるでしょう。
しかし、この曲は違います。
私はこの曲を猛烈に熱烈に愛しています。そして、ローラという人物も。特に英語の歌詞を知ってその熱を帯びました。
この曲は非常に軽いタッチでありながら、皮肉が絶妙に織り交ぜられているとても自虐的な曲。そして矛盾に満ち溢れた歌詞になっています。
しかしそれが自虐的に捉えられないのは、男性で黒人、そしてドラァグ・クイーンという特異な仕事をながらも、ローラはその生き方にプライドを持っているからです。
人に軽蔑されかねない要素を兼ね備えたローラは、そんな自分自身を受け入れ、観客にオープンにし、コミカルに伝え、彼女ならではの世界「ローラの世界(Land of Lola)」へと誘っていくんですね。
この曲の冒頭でまず真っ先に歌われている矛盾がこの部分です。
I’ve got a lacy silken feel
with arms as hard as steel
I am freedom, I’m constriction
A potpourri of contradiction-ブロードウェイミュージカル “Kinky Boots” より “Land of Lola” (作詞:Cyndi Lauper)
「私は、つやつやしたレースような肌触りで、鋼のように強い腕を持ち合わせているの。私は自由で、締め付けられているわ。矛盾の香りがするでしょ?」といった内容が歌われています。
私としては、もうこの4行を読んだだけでもノックアウトなのですが、その矛盾と自虐を更に深掘りして知ることで、あなたの中でのこの歌詞の価値はぐんと上がるはずです。
情熱的でありながら、どこか悲しさを持ち合わせるローラの世界に足を踏み入れてみましょう。
黒人であることの皮肉
ローラの登場
最初に注目したいのは次のブロックです。
And like Shazam!and Bam!
Here I am, Yes Ma’am
I am Lola
And like Je suis ooh-wee that’s me Ebony
I am Lola (Ooh)-ブロードウェイミュージカル “Kinky Boots” より “Land of Lola” (作詞:Cyndi Lauper)
ここは、ローラが華やかに登場するところを言葉でも表している歌詞になっています。
それぞれの単語が以下の意味になりますから、「そしてジャーン!それからバンッ!と、私が登場。そうよ、マダム。私がローラ。」といった意味になります。
華麗にローラ様がお出ましよ…といった雰囲気がゾクゾクと伝わってきますね。
皮肉①「黒檀(Ebony)」
後半の2行の “je sui(ジュスゥィ)” はなかなか意味が分からなかったのですが、これはフランス語です。 “I am” と同じで「私は」という意味です。
ここであえてフランス語を使っている理由について考えてみたのですが、恐らく「優雅さの表現」からでしょう。
後半で “savoir faire(サヴォアフェール)” というフランス語が使われているのも、優雅さに加えて、この言語でしか表現できないニュアンスというのもあるからだと考えています。
こういった言葉の選択からも、ローラの知的さや上品さが伺えますね。
では「私は何だ」と歌っているのかというと、 “Ebony” です。
- Ebony … (植物)黒檀、光沢のある黒、漆黒の、黒檀製の、真っ黒の
これ、皮肉ですね…。黒檀(こくたん)というのは木の一種で、とてもきれいで艶やかな、家具に使われるような木材です。自らを黒色の木材に例えてしまう強さが、ローラの凄さだなと思います。
しかも冒頭で説明した “lacy silken feel(つやつやしたレースような肌触り)” でかつ頑丈というのが、まさに黒檀の特性と合致するところも、凄い歌詞だなと感心してしまいます。
そんな風に自分を紹介したローラは、観客へ次のように投げかけます。
No need to be embarrassed
I like being looked at
& you like to look.
I know a way to make us both happy
(Lola) Ohh! (Lola) hmmm yeah (Lola)-ブロードウェイミュージカル “Kinky Boots” より “Land of Lola” (作詞:Cyndi Lauper)
「恥ずかしがらなくて良いのよ、見られるの好きなの。そして、あなた達も見るのがお好きでしょ?私、私達の両方を満足させる方法を知っているわ。」と言っていますね。
「見られる」というのは、ただ単純に美しいドラァグ・クイーンを「見る」という事ではないと思います。
“No need to be embarrassed(恥ずかしがらなくて良いのよ)” と言っている辺りから察すると、ローラ自身を「好奇の目で見る」という意味も含まれているはずです。
黒人、そして女装。
そんな視線も全てひっくるめて「良いのよ、私、見られるの大好きなの。だから遠慮しないで私の世界へいらっしゃい。」という気持ちが込められているんですね。
そして人種に対する自虐は後半になると更に深まります。
I’m your Cocoa Butter Bitch
Not just cookie cutter kitsch
I’ll provide the unexpected
with a prize that’s undetected-ブロードウェイミュージカル “Kinky Boots” より “Land of Lola” (作詞:Cyndi Lauper)
注目したい2つのワードがこれです。いずれも見事に韻を踏んでいるとこがまたカッコイイですね。
- Cocoa Butter Bitch
- cookie cutter kisch
それぞれの単語の意味を見ていくとこうなっています。
- cocoa butter … ココアバター
- bitch … 尻軽女
- cookie cutter … クッキーの抜き型、(俗)弱々しい人(武器)、同じような形の、似たり寄ったりの、ステレオタイプの。
- kitsch … (ドイツ語)キッチュ、ゴテゴテ飾り立てた低俗なもの。軽蔑的な意味/俗受けを狙った芸術作品、低俗な装飾品。
これらの意味から考えると、 “Cocoa Butter Bitch” は「ココアバターのよう(に滑らかな)尻軽女」、 “cookie cutter kitsch” は「似たり寄ったりの低俗な作品」と解釈できるのではないかなと考えています。
つまり、ローラは自分自身を「(あなたにとって)とても心地の良い遊び相手で、その辺の低俗な奴とは違うのよ」と歌っていると言えます。
しかも、 “butter” ではなく、あえて “cocoa butter” としているところから察するに、「ココアは黒色である」という言葉にはしていない、皮肉を込めたメッセージが受け取れますね。
男性であることの皮肉
皮肉①「ジンジャー・ロジャース(Ginger Rogers)」と「フレッド・アステア(Fred Astaire)」
黒人であることに対する皮肉がとても上品に歌われている訳ですが、男性であることの皮肉もまた、上品な表現で力強く歌われています。
Got Ginger Rogers’ savoir faire
With the moves of Fred Astaire
I’m Black Jesus, I’m Black Mary
But this Mary’s legs are hairy-ブロードウェイミュージカル “Kinky Boots” より “Land of Lola” (作詞:Cyndi Lauper)
ここにはいくつか聞き慣れない単語が出てくるので前半2行と後半2行に分けて見ていきましょう。前半2行で押さえるべき単語は以下3つです。
- Ginger Rogers … ジンジャー・ロジャース
- savoir faire … サヴォアフェール(フランス語)
- Fred Astaire … フレッド・アステア
“Ginger Rogers” と “Fred Astaire” はそれぞれ人の名前で、いずれも有名な女優、俳優です。2人でコンビを組んだミュージカル映画は非常に有名なようです。
ジンジャー・ロジャース(Ginger Rogers, 1911年7月16日 – 1995年4月25日)はアメリカ合衆国ミズーリ州出身の女優・ダンサー。フレッド・アステアとコンビを組んだミュージカル映画で知られている。(中略)彼女の母親は舞台批評家として地元の新聞に記事を書くようになり、母親の影響で舞台に興味を持つようになる。14歳の時にチャンスが訪れた。ヴォードヴィルのツアーがダンサーを必要としており、彼女はチャールストンのコンテストで優勝、その後4年間は各地をツアーで回った。(中略)1933年、ミュージカル『四十二番街』あたりから注目されはじめ、同年フレッド・アステアと共演した『空中レヴュー時代』で人気を博すようになる。以来、アステアとは10本の映画で共演している。
-ジンジャー・ロジャース(wikipedia)
フレッド・アステア(Fred Astaire、1899年5月10日 – 1987年6月22日)は、アメリカ合衆国ネブラスカ州オマハ生まれの俳優、ダンサー、歌手。舞台から映画界へ転じ、1930年代から1950年代にかけてハリウッドのミュージカル映画全盛期を担った。(中略)続いて当時の大手映画会社の1つであったが経営難にあったRKOと契約しジンジャー・ロジャースとコンビを結成、1933年以降、主演映画作品において華麗なダンスを披露した。アステアとロジャースは1939年までRKOで数々のドル箱ヒット作を生み出し、RKOは二人のダンス・コメディ映画シリーズによって経営を立て直した。
トップハットに燕尾服、ホワイトタイというエレガントなスタイルで、当時最高の作詞家・作曲家たちの手になるナンバーを歌い踊るアステアは、不況下のアメリカの大衆を熱狂させた。アステアとロジャースは、映画史上最高のダンシング・ペアとされ、二人の一連の主演作は「アステア=ロジャース映画」と半ばジャンル的な扱いをされている。
-フレッド・アステア(wikipedia)
この2人は一時代を築いた、ミュージカル映画の名コンビだということが分かりますね。
では、お洒落な響きの “savoir faire” とはどういう意味なのでしょうか?辞書では次のような説明がありました。
- savoir faire … (社交などでの)臨機応変の才、気転(フランス語/‘know how to do’ の意)
「臨機応変に立ち振る舞える、機転の利いた」印象を持つ単語ですが、実際のわフランス語では、これらの言葉では説明しがたい意味を含んでいるようです。
ノウハウ的な技巧、才覚にも似た経験論、そして創造性にも似た独創的な発想がブレンドされたような、ある種の匠の技であり天賦の才
つまりサヴォアフェールとは「その人物しか持ち合わせない、他人にはなかなか真似できない、巧みで独創的な才能であり技」のことです。
私はまだジンジャー・ロジャースの映画を観たことがありませんが、彼女はそういった雰囲気を持った女性だったということが分かります。
従って最初の2行でローラは「私はジンジャー・ロジャースのような雰囲気と、フレッド・アステアのような動きを同時に持ち合わせているの」という意味になり、外見や雰囲気は女性的な、動きは男性的で、1人で両性の魅力を持ち合わせていることを軽々と歌い上げています。
しかも、例に挙げているのが超有名な最上級のミュージカル俳優コンビですから、自分をそれくらいの上質な存在だと主張しているようことが理解出来ます。
皮肉②「黒いキリスト(Black Jesus)」と「黒いマリア様(Black Mary)」
後半の2行で注目すべきはこの2つの単語ですね。何となく分かった方もいらっしゃると思いますが、意味は次の通りです。
- Jesus … ジーザス(イエス・キリスト)
- Mary … マリア様
しかし、それぞれの単語の前に “black” が付いているので、それぞれ「黒い(黒人の)」という意味が追加されていることが分かります。
いずれもキリスト教を語る上では外せない存在の2人ですが、ここで「神」や「女神」といったニュアンスで捉えた方が分かりやすいので、「私は黒い肌をした神、黒い肌をした女神」という意味で理解して良いでしょう。
その次にくるフレーズがなかなかパンチが利いていて、 “But this Mary’s legs are hairy(でもこの女神の足はモジャモジャなのよね)” とあります。つまり、その女神は実は毛の生えた「男」だ…ということです。
いかがでしたか?
コミカルかつ上品な表現が散りばめられているのがこの曲です。
ローラはの人種や性に対する皮肉を前向きかつ力強く歌っているんだと知った今、きっとあなたはこの曲の虜になっているはずですよ。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。