ミュージカル『ハミルトン(Hamilton)』より “The Schuyler Sisters” の英語歌詞を見てみると、歌の中盤でアンジェリカとバーラップバトルのようなことをしているパートがありますよね。
実はアンジェリカと妹たちがが歌っていたのは『独立宣言』の名フレーズなのですが、ここにアンジェリカの意見を加えたことが、カッコよさに更なる拍車をかけているんです。
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絶対注目してほしい、その歌詞とは
今回取り上げるのはアンジェリカとスカイラー姉妹が歌う次のフレーズ。今回はこの3ブロック目に注目しましょう。※韻を踏んでいるところは赤字にしてあります。
ANGELICA:
I’ve been reading Common Sense by Thomas Paine
So men say that I’m intense or I’m insane
You want a revolution? I want a revelation
So listen to my declaration:ALL SISTERS:
“We hold these truths to be self-evident
That all men are created equal”ANGELICA and (COMPANY):
And when I meet Thomas Jefferson (unh!)
I’mma compel him to include women in the sequelWOMEN: Work!
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “The Schuyler Sisters” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
『独立宣言』を押さえる
2ブロック目の “We hold these truths to be self-evident/That all men are created equal” は、次の記事でもご説明した通り、トマス・ジェファーソンが起草した『独立宣言』の名フレーズになっています。
本題に入る前に、まずは『独立宣言』が何かを押さえておきましょう。
歌詞の意味
それでは本題に入ります。もう一度歌詞をおさらいです。
ANGELICA and (COMPANY):
And when I meet Thomas Jefferson (unh!)
I’mma compel him to include women in the sequelWOMEN: Work!
―ブロードウェイミュージカル “Hamilton” より “The Schuyler Sisters” (作詞:Lin-Manuel Miranda)
まず、Thomas Jeffersonとは先にもご説明した通り、『独立宣言』を起草したトマス・ジェファーソンのことです。ですから、 “And when I meet Thomas Jefferson” というのは「そして、もし私がトマス・ジェファーソンに会ったら」となります。
2行目は少し難しい単語がありますが、それぞれ次のような意味です。
また、 “I’mma” が気になった方もいらっしゃると思いますが、これはカジュアルな短縮系で、 “I’m going to” が次の様な過程を経て変化していきました。
- I’m going to(アィム ゴーィン トゥ)
- I’m gonna(アィム ゴナ)
- I’mma(アィマ)
どの言い方でも、「(これから)~する」という意味になります。ということで、2、3行目の意味はこうなります。
- 私たちは、次の事実を自明のことと信じているわ。
つまり、「すべての人間は生まれながらにして平等である」ということを。 - そして、もし私がトマス・ジェファーソンに会ったなら
- その(宣言の)続きに女性を盛り込ませるわ
「『すべての人間が生まれながらにして平等』ならば、宣言の続きに女性も含めるよう、トマス・ジェファーソンに言ってやるわ!」といった感じです。
ほんと、カッコいいですねー、アンジェリカは!『独立宣言』の内容を知っているだけでなく、それに意見まで行ってしまうんですから。
ちなみに、数々の著名人が『独立宣言』を引用して演説を行っています。その中で「黒人の平等」について演説している者を次の記事でまとめていますので、併せてご覧ください。
アビゲイル・アダムスと関係!?
さて、私は歌詞内の引用元が『独立宣言』であるということ、そしてアンジェリカがそれに対して自分の意見を取り入れているだけで満足していました。
…が、更なる貴重な情報をキャッチしたのです!
『ハミルトン(Hamilton)』は歴史物なので、私の知識では不十分なこともあるため、ツイッター上でお世話になっている西川秀和(@Poeta_Laureatus)先生に、時代の確認などで相談をさせて頂いています。
今回、『独立宣言』についてお伺いした際、このようなDMを頂きました。(ご本人にDM内容の掲載許可は頂いております。)
それでジェファソンに会った時に独立宣言に「女」も入れてほしいとなっていますが、これはおそらくアビゲイル・アダムズの逸話を参照にしたんでしょう。(中略)
さきほど言い忘れましたが、アビゲイル・アダムズの逸話とは何かですが、ジェファソンとともに独立宣言の作成に関わったジョン・アダムズが妻に独立宣言のことについて手紙で知らせているんですが、その時、アビゲイルが女も含めないと怒るみたいなことを言っているわけです。おそらくそれを参考にしたんでしょう。I’mma compel him to include women in the sequelというところですね。
―西川秀和(@Poeta_Laureatus)先生とtwitterDMのやりとりにて
…何っ?
これは、なかなかの逸話です。
ということでアビゲイル・アダムズ(Abigail Smith Adams)について少し調べてみました。すると、確かにあります、女性の平等に関する表記が!
アビゲイルは結婚した女性の財産権や女性がより多くの機会、特に教育分野における機会を得ることに対し、先駆者的な主張を行った。アビゲイルは「女性たちは、自分たちの権利のために作られていない法律に従うべきでない」、また「女性たちは、単に夫の相手役としての単純な役割に満足してはならない」と信じており、女性たちが自ら学ぶことにより知力として認められることにより、彼女たちの夫や子供の人生を導いたり影響を与えたりすることができるだろうと考えていた。
―アビゲイル・アダムズ(wikipedia)
女性の権利について強く主張していることが分かります。また、手紙のやり取りについても触れられていますね。
アビゲイルは、1776年に夫のアダムズと第二次大陸会議(英語版)に宛てた手紙においても知られている。その中で彼らに対し、アビゲイルは「…女性たちのことを忘れないでください。そして彼女たちに対して寛大かつ好意的であってください。夫の手中にかようにも絶大な権力を与えないでください。全ての男たちが、暴君となりうることを忘れないでください。もし女性たちに特別の注意が払われないのならば、私たちは謀反を煽動することを決心するとともに、私たちの声が反映されていないいかなる法律に私たちが縛られることもないでしょう」と求めている。アビゲイルによる「風変わりな法」の求めはアダムズに断られてしまったが、この手紙は女性の平等な権利を求める最古の書物の一つとして評価されている。
―アビゲイル・アダムズ(wikipedia)
女性の平等・女性の権利について声を上げるのは自然なことになりつつありますが、この時代にこういったことを主張するのはかなり珍しかったでしょうね。
ジョン・アダムズとアビゲイル・アダムズのやりとりはアメリカ独立戦争時の資料、そして政治的資料としてとても貴重なものとされているそうです。
まさか、『ハミルトン(Hamilton)』のたった1つのフレーズからここまでの歴史が紐解けるとは思いませんでした!アンジェリカのフレーズの背景には、アビゲイル・アダムズの存在があるのではないかということ、是非知って下さいね。
“The Schuyler Sisters” の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。