劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「トプシー・ターヴィー/パート1(Topsy Turvy Part.1)」の英語歌詞を見てみると、このお祭りについて説明されていることが分かります。
歌詞の描写を1つずつ見ていきながら、どんなお祭りなのか理解を深めていきましょう。
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目次
「トプシー・ターヴィー」とは「逆さま」という意味
まず「トプシー・ターヴィー(Topsy Turvy)」の意味を知っておきましょう。
この単語を「祭りの名前」と考えている方も多いと思いますが、正確には異なります。
めちゃくちゃに、逆さまの
Topsy Turvy(weblio)
トプシー・ターヴィーは「ひっくり返しになった!」とか「めちゃくちゃだ!」の表現として使われる言葉です。 “top(上)” と “turn(返す)” をもじった言葉だと考えられます。
「トプシー・ターヴィー/パート1(Topsy Turvy Part.1)」では “Topsy Turvy day(トプシー・ターヴィーの日)” とも表現されるので、次のように整理しておくと良いでしょう。
- Topsy Turvy=トプシー・ターヴィー=めちゃくちゃ、逆転
- Topsy Turvy day=立場がめちゃくちゃになる日、立場が逆転する日
では「立場が逆転する日」は、実際にあったのでしょうか?
お祭りの名前は「愚者の祭り」で、実在した
「立場が逆転する日」は実在しました。この日は「愚者の祭り(Feast of Fools)」と呼ばれています。
「トプシー・ターヴィー/パート1(Topsy Turvy Part.1)」の、次の英語歌詞を見てみましょう。
Come one, come all
Close the churches and the schools
It’s the day for breaking rules
Come and join the feast of…Clopin:
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
Fools!
最後の3行に注目すると「 “Feast of Fools” に参加してよ」とあるので、お祭りの名前は “Feast of Fools” の可能性が高いと分かります。
- It’s the day for breaking rules:規則を破って良い日だよ
- Come and join the Feast of Fools:来て “Feast of Fools” に参加してよ
そこで調べてみると「愚者の祭り(Feast of Fools)」は、実在したことが分かりました。
愚者の祭り、阿呆(あほう)祭り。
特に中世フランスで1月1日ごろ、教会の行事に模して行われた無礼講。
Feast of Fools(goo辞書)
『ノートルダムの鐘』は中世フランスの物語ですから「トプシー・ターヴィー/パート1(Topsy Turvy Part.1)」で描かれているのは「愚者の祭り」で間違いなさそうです。
「愚者の祭り」とは、どんなお祭り?
教会の行事に模していることから、教会主催の行事でないと分かります。言い換えれば、一般市民によって主催されているお祭りなのだと考えられます。
また身分に関係なく楽しむ宴(無礼講)とのことなので、ミュージカルで観る通り、町中のあらゆる人がこぞって楽しむ祭りだとも分かりますね。
簡単に言ってしまえば、憂さ晴らしをする祭りで、上層階級にいる人たち(王や聖職者、貴族など)を、一般庶民がバカにして楽しむ祭りです。
いつ行われるお祭り?
先の説明では「1月1日ごろ」とありましたが、歌詞内からは「1月6日」と確認できます。いずれにせよ、1月上旬に行われているお祭りです。
Streaming in from Chartres to Calais
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
Scurvy knaves are extra scurvy
On the 6th of janu-ervy
All because it’s Topsy Turvy day
ちなみに “janu-ervy” は1月の “January” をもじったもの。直前の “scurvy” と韻を踏ませるために、こんな言い方をしているんですね。
規模は?
「トプシー・ターヴィー/パート1(Topsy Turvy Part.1)」中盤に、次のようなフレーズがあります。
Streaming in from Chartres to Calais
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
Scurvy knaves are extra scurvy
On the 6th of janu-ervy
All because it’s Topsy Turvy day
この1行目に登場するChartres(シャルトル)とCalais(カレー)は、フランスの地名です。
“streaming in” は「大勢が次々に入り込む」という意味ですから、ここは「シャルトルからカレーまでの人が、次々に繰り出してくるよ」という意味になります。
シャルトルはノートルダム大聖堂が位置している地域なので、お祭りが行われている場所。一方のカレーは、パリも越えたフランス北部の遠い町。
実際の規模がこの通りだったかはさておき「自分たちのいる場所から、遠い北の町まで」といったニュアンスで歌われていると、理解しておきましょう。
シャルトルの位置:
カレーの位置:
どんなことをする祭りなの?
では、どんなことが行われる祭りなのでしょうか?それが表現されているのが次のブロックです。
Once a year
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
We throw a party here in town
Once a year
We turn all Paris upside down
Every man’s a king and every king’s a clown
Once again it’s Topsy Turvy day
この部分に注目してみましょう。
- We turn all Paris upside down:パリ全体をひっくり返す
- Every man’s a king and every king’s a clown:全ての男が王で、全ての王がバカだ
つまり一般市民はもちろん、下層民とされているジプシーのような人々が、上層階級(王や司教、貴族など)をバカにして楽しむ祭りだと分かります。
さらに、歌詞はこう続いています。
It’s the day the devil in us gets released
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
It’s the day we mock the prig and shock the priest
Everything is topsy turvy at the Feast of Fools
意味はこうです。
- the devil in us gets released:我々の中にいる悪魔が解放される日
- we mock the prig and shock the priest:我々が堅苦しい人をあざ笑って、聖職者を驚かす日
「お行儀よくなんてしていられない日!」とでも言いたげなこの歌詞からは、堅苦しいキリスト教の習慣から解放されたいといった感情が読み取れます。
フロローがこの祭りを毛嫌いするのも、うなずけますね。
どんな人が参加しているの?
さて盛り上がりを見せる最後のブロックの2行目と4行目を見てみましょう。
Topsy turvy
ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “Topsy Turvy Part.1” (作詞:Stephen Schwartz)
Beat the drums and blow the trumpets
Topsy turvy
Join the bums and theives and strumpets
4行目に注目してみましょう。
- Join the bums and theives and strumpets:放浪者、どろぼう、売春婦に混ざって
実際こうだったかはさておき、これくらいの無礼講だったと分かる内容になっています。
お祭りは誰もが楽しむものですが、具体的に書かれると、全体像が際立って見えてくる気がしますね。
清い立場にある人間と、低俗だといわれている人間がごちゃ混ぜになって身分関係なく楽しむ祭り、それが「トプシー・ターヴィーの日(愚者の祭り)」です。
クロパンのような立場の人間が、フロローのような立場の人間をバカにできる唯一の日だったのかもしれず、彼らにとっては一大イベントだったに違いありません。
そんな祭りに、何も知らないカジモドは繰り出します。そして彼が出かけたことによって起こる出会いと現象には、非常に興味深いものがあります。
このシーンでは、次の4つの立場の人間が出会います。
- フロロー:上層階級「聖職者」であり、愚者の祭りではバカにされる側
- フィーバス:上層階級と一般市民・下層民の間を取り持つ者
- エスメラルダ・クロパン:下層民「ジプシー」であり、愚者の祭りではバカにする側
- カジモド:世俗のこと(階級や祭りの内容)を知らない無垢な者(世俗では下層民「身体障がい者」扱い)
この場面では全ての階級と、祭りにおける立場が網羅されており、そこに世俗のことは何も知らないばかりか、外の世界を夢見たカジモドが飛び出していくという構図になっています。
聖職者とジプシー…といった上下関係だけでなく、下層と見なされていることさえ知らないカジモドが入っているからこそ、トプシー・ターヴィーの場面では、世俗の世界の残酷さに気付かされるのではないでしょうか。
もっと言えば、フロローが歌っていた内容と重なるからこそ、残酷さが際立つと考えています。
この辺りは、フロローとカジモドの関係性を踏まえながら、解説したいと思います。
(準備中)
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
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