エスメラルダと他の参拝者達とで、決定的に違う祈りの内容とは?

あきかん

こんにちは!

ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。

劇団四季ミュージカル『ノートルダムの鐘(The Hunchback of Notre Dame)』より「神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」の英語歌詞を見てみると、ノートルダム大聖堂へ来た参拝者達とエスメラルダの祈りでは、決定的に違うところが読みとれます。

決定定期違いとは一体どこにあるのでしょうか?

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参拝者たちの祈り

何を祈るのか

 

神よ 弱き者を救いたまえ(God Help the Outcasts)」の歌詞の中身を見てみましょう。まずは参拝者の祈りです。

 

I ask for wealth
I ask for fame
I ask for glory
To shine on my name
I ask for love
I can possess
I ask for god and his angels
To bless me

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “God Help the Outcasts” (作詞:Stephen Schwartz)

 

全てが “I ask for~” で始まっていますね。1人1人がキリストに向かって願い(要求)を口にしていることが分かります。

4行目にある “To shine on my name” は3行目の “I ask for glory” だけにかかるのか、直前3行の全体にかかるのか悩みましたが、いずれであっても意味は通じます。ここだけ全員で歌っているので、直前3行全てにかかると仮定するとそれぞれ次のような文章になります。

 

  • I ask for wealth to shine on my name
  • I ask for fame to shine on my name
  • I ask for glory to shine on my name

 

つまり、参拝者はそれぞれ「自分の名前に輝きを添えるような “富(wealth)” 、 “名声(fame)” 、 “栄光(glory)” を願う」と歌っているんですね。

 

誰に祈るのか?

 

後半はどうでしょうか?4行に渡ってのフレーズですが、 “I ask for~” を起点に考えると2つの願いが歌われていると分かります。

 

  • I ask for love I can possess
  • I ask for god and his angels to bless me

 

気をつけなければいけない点としては、この2つの “I ask for~” はそれぞれ意味が異なるということです。

“I ask for love ~” の方は、前半と同じで「何を願うか」という意味ですが、 “I ask for god and his angels ~” は「誰に願うか」という意味になります。

そう考えると、それぞれの意味は自ずと見えてくるのではないでしょうか?

「自分で所有することのできる(自分に与えられる)愛を願う」と「恵みを授けてもらえるよう神とその天使たちに願う」という意味になりますね。

ここまでが参拝者達の祈りです。見て分かる通り、私利私欲のために祈りを捧げていますね。

私たちの身の回りに置き換えたとしても、大半の人は自分のために祈るように感じます。

 

 

エスメラルダの祈り

他者を思いやるエスメラルダ

 

それではエスメラルダは何のために祈ったのでしょうか?まず前半部分から見ていきましょう。

 

I ask for nothing
I can get by
I know so many less lucky than I

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “God Help the Outcasts” (作詞:Stephen Schwartz)

 

“I ask for nothing” …つまり「私は何のためにも祈らない」ということですね。

今までずっと “I ask for ~” というフレーズで構成されてきたこの曲ですが、この曲の一番の盛り上がりの部分で、こんなに胸を締め付けられるフレーズを歌うなんて…素晴らしいの一言です。

何故エスメラルダが自分のために祈らないかと言えば、それは自分は何とかやっていける( “I can get by” )からで、自分よりもっと不幸な人( “less lucky” )を沢山( “so many” )知っているからです。

自分のためだけに祈りを捧げる参拝者と、自分はさておき弱者のために祈りを捧げるエスメラルダ…これが、2者の決定的な違いです。

 

神への問いかけが悲しくも美しい…

 

このシーンのエスメラルダはまるで聖女のようですね。そしてこの曲はこのように締めくくられます。

 

Please help my people
The poor and down-trod
I thought we all were
The children of god
God help the outcast
Children of god…
Children of god

―ミュージカル “The Hunchback of Notre Dame” より “God Help the Outcasts” (作詞:Stephen Schwartz)

 

まず、my peopleは直訳すると「私の人間」ですが、転じて「私の仲間達」というニュアンスになります。

したがって、冒頭では「貧しく、しいたげられた私の仲間を助けて下さい」と嘆願していることが分かります。

そして次のパートが強く心の奥に沁み入るフレーズです。

“I thought we all were the children of god” 「私たちはみな神の子ではなかったかしら…?」という嘆きですね。

ジプシーであるエスメラルダはキリスト教徒ではありませんが、だからこそキリスト教というものに面と向かって、このことを問うているのだと言えます。

みな神の子なのであれば、何故人種差別があるのか」ということをシンプルでながら真っ直ぐに投げかけています。本当に、ぐっとくるフレーズです。

そして最後の一文は “God help the outcasts children of god…”、「神よ、神の子である(私たちのような)浮浪者をお助け下さい」という意味です。

 

エスメラルダとキリストの関係性

 

次の記事でもまとめていますが、冒頭で「God(神)=outcast(浮浪者)」という構図を明確にし、その後「outcast(浮浪者、ここではジプシー達のこと)=children of god(神の子)」という展開にしていることが、詩の構成として何よりも素晴らしいことだと感じています。

このことについてはこちらの記事にまとめてありますので、併せてご覧くださいね。

 

中世ヨーロッパにおける「身体障がい者」や「ジプシー」の扱いについては【ミュージカル『ノートルダムの鐘』が現実的な3つの理由:~ 中世の身体障がい者、ジプシー、そして魔女狩り ~】で詳しくまとめています。

中世ヨーロッパのリアルを知ることで、作品の見え方に深みが出ます。読んで視野を広げてみて下さいね。

 

あきかん

それでは皆さん、良い観劇ライフを…

以上、あきかん(@performingart2)でした!

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