劇団四季ミュージカル『キャッツ(CATS)』に登場する、海賊猫「グロールタイガー(Growltiger)」。
カタカナ読みをするだけでも勇ましい雰囲気が感じられますが、原作『キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法』を読んでみると、彼にピッタリの名前だと分かります。
また英語歌詞では、グロールタイガーが恐れられる場所、彼の性格や外見が細かく歌われています。今回はそこを詳しく見ていきましょう。
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目次
グロールタイガーはどんな猫?
海賊以上に恐ろしい?
日本語では「海賊猫」と訳されているグロールタイガーですが、英語では「パイレーツ・キャット(Pirate Cat)」とは歌われていないですよね。
ではどのように表現されているかというと、こう歌われています。
Growltiger was a Bravo Cat who travelled on a barge
―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
“Bravo Cat(ブラボー・キャット)” ?
素晴らしい、猫?
拍手喝采の、猫?
…何だかピンと来ませんよね。調べてみたところ、 “bravo” とはそういう意味意味ではありませんでした。
1. 素晴らしい演技の最後に聴衆からおこるような、賛同の叫び
2. 不意の攻撃によって殺し、しばしば、行為を行うために雇われた殺人者(特に著名な政治家を殺す人)―bravo(weblio)
はい、そうなんです。「殺人者」という意味なんですよね…。
“barge” は船のことですから、グロールタイガーは船であらゆる土地を渡り歩いた殺し屋の猫。それで日本語では「海賊猫」なんですね。
海賊には金品だけ強奪する者もいますが、英語歌詞を読むとより恐ろしい印象になりませんか?
性格
彼の性格はどのように歌われているでしょうか?
In fact he was the roughest cat that ever roamed at large
―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
“roughest cat” とは「一番乱暴な猫」という意味です。
どういう点で一番乱暴なのかというと、 “ever roamed at large(今まであちこち放浪してきた猫の中でも)” です。
今までに船で放浪した殺し屋の猫は沢山いたんでしょうが、その中でも一番乱暴なのがグロールタイガーだということですね。恐ろしい!
名前の由来と意味
グロールタイガーの名前の由来については、原作にこのような説明がありました。
growlには、うなる、どなる、すごむなどの意味がある。
―T.S.エリオット『キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(p.22)
まさに!彼のキャラクター、そのまんまですね。
彼の名前は “growl” と “tiger” に分けると意味を理解しやすいです。
“growl” は注釈にもある通り「うなる」、そして “tiger” は「トラ」ですから「うなるトラ」というのが直訳です。
強い動物であるトラがうなるんですから、これはもう震え上がってしまうほどの名前だということ。
実際、グロールタイガーは悪事をはたらいてきた強い海賊猫で、うなったりすごんだりしていますからこの名前はピッタリ。由来を知ると、よりミュージカルが楽しみになりますよね!
ちなみに次の絵本は原作に忠実な翻訳で、猫の名前も訳されています。
グロールタイガーは「ウナーリトラ」となっていて、原作を英語で読んでいるのに近い感覚で楽しめる絵本なので、ぜひ一度手に取ってみてくださいね。
グロールタイガーの外見
さて、ここまでグロールタイガーの恐ろしさを説明してきましたが、外見はどのようなものなのでしょうか?
His manners and appearance did not calculate to please
His coat was torn and seedy, he was baggy at the knees
One ear was somewhat missing, no need to tell you why
And he scowled upon a hostile world from one forbidding eye―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
まず “did not calculate to please” というのは「人を満足させるに足らない」というニュアンスです。つまり、彼のマナーや外見はよろしくない…と歌われているんですね。
外見はこのように歌われています。
- His coat was torn and seedy … 毛皮は破れみすぼらしい
- he was baggy at the knees … 膝までだぶだぶしている
- One ear was somewhat missing … 1つの耳はやや欠けている
- one forbidding eye … 1つ目を失っている
見るからに恐ろしい風貌ですね…。それに加えて次のようなことが歌われてます。
- no need to tell you why … (耳が欠けている)理由を伝える必要はないでしょう
- scowled upon a hostile world … 敵意に満ちた世界を(失った目で)にらみつける
グロールタイガーがどんなことをしたのかは、容易に想像できますね。
名を轟かせた場所
沿岸部から内陸部まで
船であらゆる地域を渡り歩いた殺し屋のグロールタイガーですが、彼はどんな場所でその名を轟かせたのでしょうか?
From Gravesend up to Oxford he pursued his evil aims
Rejoicing in his title of The Terror of the Thames―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
Gravesend(グレーブセンド)とOxford(オックスフォード)というのが地名ですね。
“pursue” は「しつこく悩ます」、 “aim” は「ねらい、目的、計画」ですから、「グレーブセンドからオックスフォードまで、彼の悪だくみでしつこく悩まされていました」というのがここで歌われていることです。
川の近くのグレーブセンドはまだしも、内陸のオックスフォードまで知られているとは相当なものでしょう!彼の知名度の高さがよく分かりますよね。
そして、グロールタイガーに付いた肩書が “The Terror of the Thames(テムズ川の恐怖)” 。テムズ川はまさにグレーブセンドの脇を通っている大きな川です。
どうやらこの呼び名に彼はお気に入り(rejoicing)の様子。グロールタイガーがテムズ川から這い上がり、ほくそ笑んでいる姿が想像できますね…。
これらの地域がどれほどの距離かというと、次の地図を見れば一目瞭然ですよ。
ロンドン周辺
Gravesend(グレーブセンド)とOxford(オックスフォード)の他にも地名は出てきます。
The cottagers of Rotherhithe knew something of his fame
At Hammersmith and Putney people shuddered at his name―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
地名は3つで、それぞれ次のように読みます。
- Rotherhithe(ロザーハイズ)
- Hammersmith(ハマースミス)
- Putney(パトニー)
各地域でグロールタイガーがどのように恐れられているのかというとこうです。
- The cottagers of Rotherhithe knew something of his fame … ロザーハイズの小作農は彼の名声について何かしら知っていました
- At Hammersmith and Putney people shuddered at his name … ハマースミスとパトニーの人々は彼の名前に身震いしました
つまり、これらの地域の人たちもグロールタイガーを恐れているんですね。
位置関係は次のようになっていますよ。
グロールタイガーが逃亡したら…
人間がやること
では、グロールタイガーが逃亡中(Growltiger’s on the loose)という噂(rumour)が流れた時、人間はどのような行動に出るのでしょうか?
They would fortify the henhouse, lock up the silly goose
When the rumour ran along the shore: Growltiger’s on the loose!―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
それぞれこのように歌われています。
- fortify the henhouse … 鳥小屋をしっかり閉じて
- lock up the silly goose … あほなガンを小屋に入れる
鳥たちがグロールタイガーの餌食にならないよう、こうしているのでしょうね。
動物に起こる災い
その次は、人間意外の動物がどんなことをしているかが歌われています。
Woe to the weak canary that fluttered from its cage
Woe to the pampered Pekinese that faced Growltiger’s rage
Woe to the bristly bandicoot that lurked on foreign ships
And woe to any cat with whom Growltiger came to grips!―ブロードウェイミュージカル “Cats” より “Growltiger’s Last Stand” (作詞:T.S. Eliot)
“woe to” は「~に災いあり」ですから、災いが起こる動物は次の通りです。
- weak canary … 弱々しいカナリア
- pampered Pekinese … 甘やかされたチン(ペキニーズ犬)
- bristly bandicoot … 剛毛なバンディクート(ネズミのような有袋動物)
- any cat … 全ての猫
そして、それぞれの動物がどんなことをすると災いが起こるのかというと…
- fluttered from its cage … 鳥かごから羽ばたいた(カナリアに災いあり)
- faced Growltiger’s rage … グロールタイガーの怒りをかった(ペキニーズ犬に災いあり)
- lurked on foreign ships … 海外船に潜伏した(バンディクートに災いあり)
- Growltiger came to grips … グロールタイガーが捕まえにきた(全ての猫に災いあり)
はぁ…みんな、可哀想…。日本語ではこのように訳されているので、そのまんまですね。
カナリヤ飛び出し餌食なる
おろかなチンも八ツ裂きになる
ハリネズミだって踏みつぶす
狙われたものは 皆 哀れ―劇団四季ミュージカル 『キャッツ』 より 「グロールタイガー – 海賊猫の最期」(訳詞:浅利慶太)
この訳は「うまいな~」と感心してしまいました。
いかがでしたか?グロールタイガーの恐ろしさ、お分かりいただけたでしょうか?
今回ご紹介した場所や動物たちについては、こちらで画像付きでまとめています。観劇の際はイギリスの地名や風景をイメージしながら、グロールタイガーの恐ろしさを体感してくださいね。
「グロールタイガー – 海賊猫の最期(Growltiger’s Last Stand)」の、他の記事はこちらから。
それでは皆さん、良い観劇ライフを…
以上、あきかん(@performingart2)でした!
こんにちは!
ミュージカル考察ブロガー、あきかん(@performingart2)です。